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第二十六話 驚異の応用術

 エレクトラは足に力を入れ、地面を抉るように飛び出した。その勢いはまさに地雷。ドカンッという爆音と共に地面が弾け、衝撃波を伴って突き進む。


 触れられたら最後、拳なら潰れ、蹴りなら砕け、掴まれたら捻じ切れる。

 力とは破壊、力とは脅威、力とは神。

 そんなものが弾丸のように飛んでくる。かろうじて横に飛び、射線から逸れても軌道を変えてくるだろう。だとするなら初見で避けるのは至難の技だと言える。


 ミーシャほどの速度が出せれば避けられる。ブレイドやエレノアでも避けることは容易だ。しかしラルフやアルルはどうだろうか。ベルフィアは死なないにしても、ウィーやジュリア、デュラハン姉妹、アンノウンに歩、八大地獄の面々や藤堂源之助。彼らに避ける手段があるだろうか。そんなものは存在しない。


 エレクトラはほくそ笑む。さぁ最初の犠牲者は誰だろうかと楽しんでいる。

 ラルフが身の程も弁えず、散々神を虚仮にしてきたのがここで帰ってくる。とはいえ、神に限らず上位者を虚仮にするのはラルフの生存戦略の一環だ。自分たちに何かしようものならどうなるか思い知らせるというメッセージ。

 ハッタリとイカサマと形だけの謝罪。この三つの要素を駆使して生きてきた。ミーシャを助けたあの日から三つの要素だけでは生きられなくなった。今もこうして死と隣り合わせに立っている。

 それが不幸だと言われるならきっと不幸なのだろう。けどラルフは別のことを考える。


(個々で勝てなくとも関係ない。俺たちは一人じゃないんだから)


 ラルフの頭にあったのは出会ってきた仲間たち。全員集まれば苦手なことも克服でる。特にこの戦いは特別だ。


「反転魔法”アンチフィールド”!!」


 アルルは元気な掛け声と共に広がる衝撃波の如き魔障壁を生んだ。いつもの青い魔障壁とは一味違っていて真っ赤である。それは色だけにとどまらない。


『無駄な足掻きを!』


 エレクトラは右手を突き出し、壁に触ろうとしている。触れられれば即砕け散るところだろう。


 ──スゥッ


 しかし、見た目とは裏腹に触れることが出来ずに通り過ぎ、赤い衝撃波に包まれた。


『むっ!』


 思いもよらなかった素通り。そして突然突撃の勢いが失速し、飛ぶはずだった距離の想定以下で着地した。エレクトラは自分の体と赤い空間を交互に確認する。


『嘘……能力が抑えられているの?特異能力なのよ!?魔法とは全く違う能力なのにぃ?!』


 アルルを睨みつける。だがアルルの見た目に反して声質の低い、おじいさんのような声が聞こえてきた。


『紅い槍の技術を応用したアンチフィールド。術者の選んだ能力を使用不可にしてしまう儂の開発した魔法じゃ。記憶の集合体である儂がどこまで出来るのかと思ったが、こうして上手く仕上がっとるところを見ると安心するわ』


『何の説明にもなっていないじゃないか!何故特異能力まで対象と出来たの!?』


『根本的なところからだとイミーナ殿の紅い槍は魔障壁を素通りするための魔法が反転魔法。ラルフさんが何度も異空間に連れてってくれたからのぅ。ああいう知識と景色を知らなかったら永遠に手が出せない代物であった』


 ウンウンと頷くアスロンの孫娘。アルルの口が一切動いてなかったので、全てネックレスからの声であったと推測出来る。どうやら操られているわけでもないらしい。


『そんなので作れるはずがない!これは何かの間違いよ!!』


 現に封じられている様を鑑みれば作れている。負け惜しみという奴だ。


「驚くことはありませんよ?おじいちゃんは天才なので」


『間違っとるよアルル。儂は天才じゃったが正解じゃな。既にこの世に肉体が無いわけじゃし』


「あ、そっか……天才でした!」


 訂正を素直に受け入れ、アスロンの言葉をしっかりと組む孫娘。聞いていても分からない状況にラルフも困惑の声が出た。


「えぇ……何だよそれ……」

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