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第二十四話 切望と絶望

 団長はリーダーと肩を並べて魔鳥人の前に立つ。反面、空中に待機するシザーとその部下達。着実に進んでいる吸血鬼と人狼(ワーウルフ)の戦いとは違い、こちらの戦いはリーダーの戦略以降、遅々として進まない事態となっていた。

 ”稲妻”の面々は考える。空中にいればどうという事はないのだが、だからと言って油断は出来ない。さっきはそれで五羽死んだ。そして、もっと前に第二魔王に参謀をも殺されてしまった。では空中に上がり、完全に間合いを空けた魔鳥人たちが何故攻撃を止めたのか?答えは簡単、ラルフを探し始めた為だった。


 最初から狙いを定めていればラルフは何をするでもなく死んでいた可能性もある。しかし、シザーは仇を見つけた為にラルフの事などすっぽり抜けてそれどころではなくなっていた。最も慕っていた、総司令官の仇を討てる。さらに、白の騎士団のメンバーでもあるゼアル団長ならラルフ以上に殺さなければならない事など火を見るより明らかである。

 これはシザーの私見でもあるが、命令とは言えぽっと出のよく分からない人間(ヒューマン)風情と、恩師の仇を比べれば団長を狙うのは無理からぬ事だ。だが完全に裏目となってしまい”稲妻”史上最悪の失態へと自ら足を踏み入れてしまったのだった。現在の状況を分析し、焦りながら辺りを見回す魔鳥人たち。すっかり日の暮れた夜闇の風景。鳥目の生物は本来なら歩く事さえ危険だ。

 しかし、彼等は魔族。”暗視”の魔法を使えば明かりがなくとも昼のように明るく見える。視野は昼間に比べるとかなり狭くなるが、300m近く軽く見渡せるのでそう変わらない。その上、魔鳥人たちは目が(すこぶ)る良い事で知られている為、”暗視”とは相性が良い。魔法はかくも偉大だと驚かされる。


 それはさておき、倒れている人間(ヒューマン)もそこに立つ人間(ヒューマン)も聞いていたラルフの情報と合致せず頭を悩ませていた。人狼(ワーウルフ)は間違いなくラルフの封じ込めに成功していただろうし、あの鼻から逃げられる生物など地上にはいない。人狼(ワーウルフ)が後を追えないのは水生生物くらいなものだ。この辺りに身を隠せそうな建物は幾つか存在する。壊してしまえば簡単に事が運ぶ。しかし、それはここまでの隠密行動を否定する行為。素直に人狼(ワーウルフ)に聞くべきである。

 その見解に至った時、バガッという豪快な音が鳴り響いて建物が一部崩れた。派手な戦いだと思いつつ目を向ける。


「何!?」


 そこに立っていたのは、人狼(ワーウルフ)ではなく、それと戦っていた女と思われる人型だった。足を蹴りの体勢から戻す所を見るに、モンクである事が推測される。あのジャックスを倒してのけるモンクなど想像がつかない。ジャックスの未来視レベルまで高められた先読みの術はシザーも感心するほどの素晴らしい技能だった。それを払い除けるなどただの人間(ヒューマン)ではない。


(不味いな……)


 こちらが一方的に不利。さらに、魔王がもう攻撃の手を止めてしまっている。万が一、この待機状態が続くようであれば魔王がこの町に帰ってくる。そうなれば全滅もありうるのだ。一刻の猶予もない。

 イミーナ公に命令を下された時は第二魔王との一戦を楽しみにしたものだが、今となっては後悔している。ハッキリ言ってこの作戦は失敗だ。撤退は恥ではあるが、命には代えられない。カサブリア王国(キングダム)の総司令官を失った時もこれほどの損害を受けた事が無かった為、部隊単位で”稲妻”は初の大敗を喫した事になる。既に結界は晴れ、どこからでも逃げる事が出来る。後の事はいずれ来る”竜巻”に任せて、今いる部下に撤退の指令を出す事にした。


「高いな……」


 団長は魔鳥人が完全に間合いから外れ、先のリーダーの手も使えない事を悟ると現状の把握をする為、視線を外す。相手は飛び道具を備えているので完全に気を抜けないものの、先に撃たれた部下達が気になっていた。十中八九、死んでいるのだろうが、それを確認しない事には弔いも出来ない。


「おいおい、不用心だぜ?団長さん」


 その様子をチラリと確認したリーダーが一応窘めてみる。団長は特に反応するでもなく確認に専念する。やはり全滅していた。中には長い間、共に戦った優秀な部下もいた。国に家族を残してきた部下もいた。

 守衛の人達も見る。この町を守ろうと尽力し、散って逝った方々。魔王とラルフが関わってしまったが為に死ぬ事になり、未来を奪われた仲間達。

 せめて安らかに眠る様、部下達の手を取り、労いと弔いを簡素だが済ませる。聖職者ではないし、気休めに過ぎないが、不死者(アンデッド)にならないよう祈るのみだ。そこまでしても特に動きのない魔鳥人の面々。


「何やってんだあいつら?」


 それに痺れを切らしリーダはボヤく。


「……撤退の準備だろう。我らの戦力を見誤ったばかりに痛い目を見た、という所か」


 まるで聞いてきたかのように語りだす団長。リーダーの感想は(本当かよ……)である。それは言うなれば希望的観測であり、今の状況では痛み分けというには程遠い。この発言は出来るなら帰ってほしいという切望であり心の弱みでもある。

 リーダーだって言葉にはしないが撤退してほしいのは山々で、早くこの斧を下ろしてしまいたい気持ちもある。だがそれは死を意味する。無事に生還出来れば、町から出る事を固く誓うリーダー。


「……あの吸血鬼も戦闘が終わったようだな……」


 団長の視線の先にはベルフィアが居る。血の跡が口からちょっと見えるのと、土の汚れが目立つばかりで傷一つない。さっきまで戦っていたのを考えると相手も相当な手練れだったのだろう。吸血鬼と戦った事を気の毒に思いながらも、吸血鬼が仲間でこの場は助かった。もし吸血鬼が居なければ先の人狼(ワーウルフ)だけで精一杯だったし、それを思えば今ここに自分は立っていない。素直に感謝は出来ないが、安心はした。


「っ!……おい団長さん!奴ら動くぞ!」


 団長が視線を上げると、魔鳥人たちは見る間に上昇していく。5mくらいの段階で既に攻撃の範囲から外れていた為、石を投擲してちょっかいかけるくらいしか出来る事はなかったが、それすら届かない所までぐんぐん上昇する。これが指し示す答えは……。


「……マジで撤退するのか?」


 全く信じられなかった。状況を考えればまだまだ全然殺せる範囲内だというのにそれを放棄し、撤退をしていく。

こうなればリーダーにも魔鳥人が何に対して撤退に行きついたか想像ができる。魔王が死んでいなかったと言う事は帰ってくる可能性を考えてだろう。魔王のいる方向を見ると、既に戦いは終わり月明かりが照らす空には雲くらいしか陰りが見えない。あの大群を全滅させたのだ。

 あの惨状を確認したが故に撤退したのであれば理にかなっている。団長もあれを見てそう思ったのだろう。この町の中で最も危険視していた存在が魔族の軍勢を壊滅させ、撤退させる救世主になろうとは夢にも思わない。すっかり見えなくなった魔鳥人たち。戦いが終わった事を感じてホッとする。


「……まだだ」


 そこに団長が水を差す。


「え?」


 団長を見やると、魔王のいる方角を見ている。リーダーが視線を移すと、そこには魔鳥人の軍勢に匹敵する第二陣とも呼べる軍隊がまたも雲以上に陰りを作ってやって来ていた。


「……いい加減にしてくれよ……」


 リーダーは膝から崩れ落ち、絶望に顔を歪めた。戦いは始まったばかりだ。その事実が団長の心にも陰りを生む。


「過酷と言われた戦場を駆け抜け、生き残り、全戦全勝。”魔断”と謳われた私が……。この世で最も安全と言われているこの地で命を落とすのか?……何とも皮肉な話だな」


 いくら強いといえど体力は無限ではない。団長もこの現状に珍しく悲観していた。

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