第二十四話 意地
「ミーシャァッ!!」
ラルフは既に小さくなったミーシャに向けて叫ぶ。しかしその声が届くはずもなく。
「な、何が起こったんですの?」
メラは目を白黒させる。ここに居るみんなが抱いた感想だ。メラの困惑した問の直後、歩が口を開く。
「ミーシャさんの攻撃のベクトルを……そ、そのままミーシャさんに向けたようです」
「……は?ベク……何?」
「で、ですから……あの神は力の方向を変えることが出来るんです!ミーシャさんの攻撃をそっくりそのまま逆方向に変えて吹き飛ばしちゃったんですよ!」
「何それ?反射ってこと?」
「反射じゃなくて……っ!!何て言えば良いんです?!」
歩の伝えたいことはいまいち伝わらずに空転する。だが何人かは理解する。
「なるほど、それで彼奴は吹き飛んだのか……しかし、それでは勝ち目など皆無。物理が効かないと言っているようなもの」
「物理だけぇ?魔力って力の源ような気がするけど、それも効かなかったりするのかなぁ?」
「もしその考察が当たりなら……あー、終わり終わり。逃げるが勝ちって奴だわ」
早々に諦めるエレノアやロングマンたち。ラルフやベルフィアはソワソワしながらミーシャの行方を考える。
「だだだ、大丈夫じゃろうか?!ミーシャ様は……!!」
「いや、全く分からん。吹っ飛んで行っただけだと思いたいけど……」
各々が好き勝手に思考を巡らす中、エレクトラが盛大に笑った。
『あーはっはっはぁ!!どう?私の強さを思い知った?神に逆らうということがどういうことか!……分かったところでどうすることも出来ないし逃がしもしない。ここで全員死んでもらう』
冷えた目で鋭く睨む。背中に冷たいものが流れるのを感じる。ハッタリではない。ここでエレクトラがその力を振るえば全滅もあり得る。ミーシャが為す術もなく吹っ飛んで行ったことを考えれば、触れることすら叶わない。
誰かが言った通り逃げるが勝ちと言える。逃げられればの話だが。
「……逃げるだけなら出来なくはないけどな。ワープホール繋げりゃどこでも一瞬だし……」
それより重要なのは逃げたところでエレクトラの脅威が去ったわけではないということ。
「では、一旦撤退して能力の分析から始めますか?」
ブレイドはラルフに耳打ちする。一考の余地ありだと深く頷きたい。しかしどうもしっくり来ない。いつもなら一も二もなく逃げ出す案件だが、どうにも釈然としない。
「ミーシャは多分ここに帰ってくる。どこに行ったか分からない以上、ミーシャを置いて離れられないな」
「いや、しかし……」
「それだけじゃねぇ」
ラルフはサッと顔を上げ、ブレイドたちをぐるっと見渡しハットを被り直す。
「この先にあるオークルドにエルフたちと避難してくれ」
「してくれったって……どうするつもりですか?!」
「まあ任せろ。俺が何とかしてやるよ」
全員がお手上げを表明する中にあってこれ以上はないと思えるほどに大きいことを口にするラルフ。そのしたり顔にポカンと開いた口が塞がらない。ラルフ一行はもちろん、エレクトラの思考を停止させた。
ベルフィアが慌てた様子で横から小突く。
「とうとう……いや元から狂っとっタが、ふざけタことを抜かすノも大概にせぇヨ?死ぬノは勝手じゃが、ミーシャ様ノお気持ちを煩ワせル行為は妾が残力で阻止すルぞ?」
「ならベルフィアは残れよ。ミーシャは多分頑張ってここに戻ってくる。出迎えてやんなきゃな」
ベルフィアは訝しい顔をする。ラルフは何でこんなにも余裕そうに振舞っているのか。これに対してエレクトラはまた高笑いで返した。
『あーはっはっ!飛んで火に入る夏の虫とはこのこと!真っ向からターゲットが飛んでくるなんて、幸運を通り越して最早興醒めの領域だわ。でもこれでようやく一つ目的が達成される。お前を殺し、鏖の命への足がかりとしよう!』
「ミーシャ様だ!二度とそれを口にすルな!」
ベルフィアは憤慨しながら訂正する。本人が嫌がっていることをいつまでも擦られては、仲間の立場から良い気はしない。訂正などする気もないエレクトラはただただ見下すようにこちらを見ている。ニヤニヤと楽しそうな表情をラルフは見逃さない。
「余裕があるなエレクトラ。でもな、いつまでも笑ってられると思うなよ?お前のその自信も力への信頼も俺が全部切り崩す」
『ふふっ、どうやって?』
「さぁてね。すぐに思いつくさ。多分、きっと?……いや、絶対にな」




