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第16.5話 幕間─海の支配者─

 ──ゴポォッ


 島の影すら見えぬ大海原。この静かな水面に現れたのは巨大な水泡。何かが居る。そう思わずにはいられない巨大生物の息遣いを感じる。


 異変とも言うべき何かにいち早く勘付いたのは他でもない魚人族(マーマン)だ。すぐさま白絶の元に報告がやって来た。


「……リヴァイアサンと……同一存在……?」


「分かりません。しかし水竜とは違います。現在偵察隊を向かわせておりますので、すぐに何か判明すると思われます」


 マーマンの司令官は直立不動で緊張気味に答える。逆らわない限り一切の敵意を出さないことが分かっていながらも、遠い歴史から植え付けられた恐怖は未だ拭えない。マーマンの中で一番の年寄りだからこそ、柔軟になれないというのも自覚しているところ。

 (そは)で話を聞いていた亡き海王の息子である王子は、手揉みをしそうなほど下手に白絶に尋ねた。


「い、如何致しますか白絶様?全ては偵察隊が戻ってからとなるでしょうけど、戦闘になるのであれば白絶様が考案された新兵器を使われる良い機会かと存じますが?」


 白絶は冷たい目でチラリと見る。王子はヘラヘラ笑いながらも口を噤む。


「……戦わないことも……一つの選択……でも……必要ならやる……あなたが準備しなさい……」


「え、あ……か、畏まりましたっ!!」


 王子は下っ端のように玉座の間を飛び出した。司令官は唇を噛む。魚人の帝国を築いてきた純粋な血統が落ちぶれる様を見たくはなかった。この事態になったことは運が悪かったとしか言いようがないが、無敵戦艦”カリブティス”の司令官として亡き海王に申し訳が立たない。


「失礼しますっ!偵察隊が戻ってきました!!」


 急いで走ってきたマーマンはコケそうな勢いで跪いた。その焦りようからある程度の情報が伝わってくる。


「……敵は……?」


「はぁっはぁっ……軟体動物に近い何かであると報告を受けております!正体は不明っ!」


「新兵器の試運転。王子を行かせて正解でございましたね、白絶様」


 白絶の側近テテュースは特に感情無く伝える。


「……司令官……カリブティスを向かわせなさい……」


「はっ!」


 司令官は一も二もなく答える。心の奥底では相手が分かるまでは見に回るのが得策と考えながらも逆らわない。誰だって死にたくないだろう。同種族なら誰もが彼の肩を持つ。

 白絶は司令官の後ろ姿が見えなくなるまで目で追い、静かになった玉座で呟いた。


「……海は……私のもの……」


 テテュースはそんな呟きにお辞儀で返した。

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