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第十五話 背水の陣

 ミーシャは腕組みを解いて両手をかざす。その手に()められるは、個が所有することが信じられないほどに内包された魔力。放出量も世界一であり、一度放たれれば死は確定する。


『!?……貴様ぁ……良いのか?!この体は森王の体だ!殺せば取り返しがつかなくなるぞ!!』


 アトムはとうとう命乞いに走る。エメラルドの玉体も破壊され、天樹の重量も物ともせず、疲れ知らずの化け物相手に諦めが勝つ。終始遊ばれた戦いで「遊びは終わりだ」と明言されては恐怖心も湧く。

 命の危機などではなく心の問題だ。絶対に勝てないと植えつけられては神の尊厳が砕かれてしまう。散々言われて悔しかったアトムが無意識に肉の盾を使用してしまうのは、これ以上の手が無いと自ら晒す行為に他ならない。


「関係ないよ。生き物はいずれ死ぬんだから、それが今日だっただけだよ」


 ミーシャは冷徹に見据える。形あるものはいずれ無くなる。当然の理だが、それは神に啓蒙すべきことではない。


『どの立ち位置から見てるつもりだっ!!私は神だぞっ!!』


 諸行無常は世界を作り出した神の定めたルール。それを逸脱出来ないことぐらい言われなくても分かっている。脅しの通用しない相手ほどやり難い相手もいないものだと改めて思い知る。


「だから?お前が神なら私は唯一王だ。何にも縛られず、何にも指図されない。たとえ神だろうとそれは変わらない」


『神は創造主であり絶対だ!たかが族長程度の分際が……王が神に逆らうなっ!!』


 アトムは喚き散らす。ミーシャは眉をへの字に曲げ、口元を歪ませながら文句を垂れる。


「いや、定義の問題じゃないでしょ?これは信念の問題で……」


『黙れ黙れっ!!知った風な口を聞くんじゃないっ!!貴様は単なる下等生物なんだよっ!!』


 アトムの咆哮が響き渡る。ミーシャは呆れて聞いていたが、天樹が光輝きだした時に考えを改める。

 アトムは無様だ。それは覆せない。しかし、侮ってはいけない。いくら相手が取るに足らない存在であったとしても実力は折り紙付き。油断はしない。


 天樹は魔力の宝庫である。神との対話を目的としてエルフに授けられた電波塔。天樹そのものが魔力を産み、魔力を借りることでエルフたちは様々な生活を豊かにしてきた。夜の灯りに使ったり、果実の栄養に転換したり、結界を張ったり、異世界から奴隷を連れてきたりと使用方法は多い。

 つまり、この力を攻撃に振れば、信じられないほどの高火力を出すであろう。軽く見ても古代種(エンシェンツ)と同等、もしかしたら上回る力を捻出できる可能性すらある。絶望の淵に立たされたと同じ状況。


 ミーシャは正直そこまで考えてはいない。強ければ、より強い力で押し返す。

 そう、ミーシャは脳筋である。


 ──ドンッ


 両者が同じタイミングで放つ魔力砲は凄まじいまでの威力で周囲を巻き込んだ。倒れた木々は吹き飛び、雑草も耐えきれずに千切れ飛ぶ。徐々に更地へと変わっていくエルフェニア。自然に満ち溢れた豊かな大地が死んでいく。


『そんなバカな……っ!?』


 アトムは最後の希望だった天樹の魔力砲が押し返されている事実に驚愕した。ミーシャの見上げた状態での魔力砲と、天樹のうろから下に吐き出すような魔力砲。重力的な観点から見ても、こんなことがあり得てはいけない。

 大きさは言うに及ばず、天樹が圧倒的。魔力の内包量も天樹の方が上だ。古代種(エンシェンツ)を打ち倒した時から既に常識では考えられない領域にいたのだが、これは最早神域。神をも愕然とさせる脅威。


 ゴバァッ


 天樹のうろから上側は消滅した。ミーシャの渾身の一撃はアトムの力を凌駕したのだ。

 でも、ミーシャも無事に済まない。天樹の魔力砲を押し返すほど魔力を放出したのだから、息切れを起こしても仕方がないこと。

 それで尚、休むことなく飛び上がる。今が好機なのだ。怯んだ隙に一気に畳み掛ける。


 ボッ


 両手を手刀の形にし、魔力砲を細く放出する。まるでレーザーカッターのように鋭利に天樹の腕のような枝を一息に切り落とす。木の割れ目から覗く無数の目もついでに焼き切ると、中心部分が綺麗に残った。

 自尊心が高く、小心者で自分が好きなタイプは、極力安全を取ろうとする。中心部に座していることは手に取るように分かる。

 実はミーシャはそこまで考えない。自分の勘がそう言ってる程度のものだが、経験則から直感は信じるに値する。


 ズンッ


 木の表面に指を突き入れる。引き剥がすように思いっきり両側に開くと、不思議な空洞が目に映った。暗くてよく見えないが、きっとこの中に鎮座しているに違いないと思える広さ。森王を探そうと頭を入れたその時──。


 ガシッ


 ミーシャの小さな頭を半分くらい包み込む大きな手に掴まれる。


「うわっ!!」


 驚いて振り払おうかと考えたが、これが森王だと考えると躊躇する。


『フハハッ!やはりただの負け惜しみだったか!森王に手を出すことは出来まいよ!』


 アトムは喜び勇んで出てくる。その言葉にミーシャはイラっとした。


「調子に乗るな……っ!!」


 たかが腕の骨ぐらいすぐに治る。そう考えれば手を出せなくはないのだ。しかし、アトムの狙いはミーシャにマウントを取ることではない。ラルフが見たらこの状況は即座に理解しただろう。蒼玉に頭を掴まれたミーシャの図だと言うことを。


『この私が手ずから貴様に侵入する!それがサトリに対する戒めとなるだろう!』


 これがアトムの本気。

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