第十四話 エクスペンダブル
ドオォンッ
衝撃波が広がる。空中で殴り合う二つの影。見ている景色が物理的に歪むほどの威力は周りを巻き込み、自然を破壊する。木々がまるでドミノ倒しのようにバタバタと倒れる様はこの世の終わりを連想させた。
(本当に何なのだ……!?)
目にも留まらぬ攻防。二、三撃互いに打ち合った後、一旦離れてすぐにまた接敵する。拳と蹴りによる殴打。時に魔力砲を交えながら頂上の戦いを繰り広げる。
肉の盾を使用し、安全圏で戦っていたとは思えないほどアトムの本気は目を見張るものがあった。パワー、スピード、タフネス、どれも世界の常識を覆すレベルだ。天樹を操り、神ノ木などと図に乗って遊んでいたのが信じられないほどの実力。ユピテルと力を合わせていたらミーシャを仕留めることも出来ただろう。だからこその疑問。
『サトリ……!貴様何を作ったのだ!?』
仮にも神が二柱揃ってやっと勝てるなどまさに地獄。疑問と困惑が綯い交ぜになり、思わず拳を大振りに振り抜く。当たれば即死の攻撃だが、当たらなければただの隙。ミーシャは潜るようにして懐に飛び込み、掌底で顔面を叩いた。
血の通わない肉体、眼球と呼べるものがなく、内臓も存在しない硬質な鉱物は、ミーシャの掌底などに怯まない。反撃に移るために懐にいるであろうミーシャに目を向ける。
ゴギンッ
視覚外からカチ上げる目の覚めるようなアッパーカットを放たれた。グワッと体が仰け反る。同時に突き出た胴体に前蹴りをお見舞いする。アトムは難なく吹っ飛び、地面を擦りながら何とか停止した。
『チッ……冷静さを欠いたようだ。この私がタイミングを失するとは……』
ぶつくさと文句を言いつつ顔を上げる。さぞ嬉しそうな表情で「やってやった」とドヤるミーシャの顔が見えることだろう。しかしその予想はハズレだ。表情どころか、影も形もそこにはない。
どこに行ったのかと目だけで探すが見つからない。当然見つかるはずもない。ミーシャはちょうど真上にその身を置いていた。そこから繰り出されるは、垂直降下の魔力砲。
ドンッ
3mのゴーレムもスッポリ入る極太魔力砲。光に包まれたアトムだったが、今回使用している泉に祀っていた御神体”エメラルドの魔鉱石”の肉体は、魔力に対する強耐性があったお陰で消滅は免れた。
魔力砲によってボロボロになりながらも這い出る姿に、アトムの持つ不屈の精神と闘志を感じさせる。だがミーシャにそれを感じ取るだけの配慮は存在しない。
──ズゥンッ
追い討ちを掛けるように、真下にいたアトムを攻撃した。卑怯、卑劣、お構い無しの落下攻撃。その甲斐あってアトムを殴った時に出来たクレーターは史上最大と言って差し支えない。ミーシャは立ち上がってクレーターを内側から見つつその出来栄えに満足していた。
アトムは悟る。やはり一対一ではミーシャには勝てない。
『……うがあぁぁぁぁっ!!!』
ところどころ欠けたエメラルドの体を奮い立たせ、ミーシャを覆うように抱きついた。
「え?な、何?」
急に抱きつかれたミーシャは多少困惑した。反撃と思えない反撃。もしアトムのこれが暴力を伴わないものだとしても、何をしたいのか分からなさ過ぎてムカつくので、たとえ友好の意思だったとしても殴り潰す。とりあえず何の意味があるのか聞こうと思って少し待った。
『掛かったなアホがっ!!』
エメラルドの体が内側から光り輝く。それは間を待たずして即爆発した。
「自爆……!?面倒なっ!」
土煙の中から姿を現したミーシャ。それを見計らったかのように神ノ木の枝が振るわれ、押し潰す形で地面を叩いた。エメラルドの体から自爆と共に森王に体を移し、ここぞとばかりに神ノ木を使用した。
アトムの戦略にまんまと嵌められたミーシャだったが、アトムの保有する戦力はそこまで高くないことに気づいた。ミーシャは枝を貫通して腕組み状態で姿を現す。
「最大戦力を使い捨てにしたことは褒めてやる。素直に驚いたからね。でももう油断はしない……遊びは終わりだアトム」




