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第十話 アトム戦

『くそっ!ユピテルめ!それは私の獲物だぞ!!』


 アトムは既に移動してしまったラルフとユピテルを幻視し、届かぬ怒りを露わにする。ミーシャは心配そうに投げた方向を見つめていたが、アトムのセリフが聞き捨てならなかったのか鋼の如き眼光を向ける。


「お前なんかにラルフを殺させない」


『……ふんっ、なら私でなければ良いのか?ユピテルに殺させるのは構わないということか?』


「あいつじゃラルフを殺せないよ、仲間が何とかするから。それに肉の盾を使うような卑怯な奴じゃないしね。心底安心する」


 ミーシャはギロッと神ノ木の無数の目から睨まれる。ひと時の沈黙。先に我慢出来ずに口を開いたのはアトムだ。


『舐められたものだな……サトリの創造物でしかない貴様如きが、創造主と同一存在である私に楯突くとは呆れた愚物よ。そして勘違いしているようだが、ユピテルには部下も盾も不要だ。個で幾千の命を瞬時に奪えるだけの能力を備えているのだからな。奴に狙われたラルフはもう終わりよ』


 絶望的な話をしているはずなのだが、ミーシャはクスッと笑った。


『何が可笑しい?愛しのラルフが死ぬかもしれないというに随分と余裕ではないか?』


「いや、だってそんな強いユピテルと比べてお前はどうなのかを考えたら笑えちゃって。……どんなに強くたって関係ないよ。だって仲間が止めてくれるから。でもまぁ、そうは言っても心配だから弱いこっちをさっさと切り上げてラルフのとこに行かなきゃだね。忠告には感謝しとく」


『なっ……!こ、この私を愚弄するか!?』


「えぇ……?自分で言ったんじゃんか。素直に受け取ったのに怒るのはどうなの?」


(やかま)しいっ!死ねっ!!』


 ゴォッと大気を切り裂き振るわれる巨大な枝。巨大過ぎて避けるのも一苦労な一撃を、木の肌を沿うように紙一重で避ける。重量も威力も申し分ない一撃だが、ミーシャには遅すぎる。ラルフを抱えていたために制限されていた動きは解消され、身軽に器用に何にでも対応可能。


「そんなの当たらないよ?」


『私の攻撃が大振りだけの単調なものだと思ったら大間違いだ!!』


「いやそんな、決めつけてはないけどね……ん?」


 神ノ木の木肌からメキメキッと音を立て、突起物が無数に生えてくる。生えた矢先に人の形を形成し、木偶人形を作り上げた。


『木人兵!行けぃ!!』


 アトムの号令に従い、木人兵は我先にミーシャに接敵しようと走り出した。まるで木肌が全て地面であるかのように頭が下に向くような逆さ吊りでも重力に逆らって落ちることはない。何の障害もなく、ミーシャに向かって突撃を敢行する。


「質より量で来たか。けど人形如きに何が出来るって……?」


 ミーシャは違和感を感じる。ただ細やかなことが出来るのだと主張する攻撃にしては御座成(おざな)りだと言わざるを得ない。プライドの結晶のような神が手放しで自慢したくなるような何かがあるに違いない。


「……あぁ、罠か」


 木人兵の突進など一見しょぼいように見えるが、そういう風に気付けばただ突進してくるだけでも怖い。何が待ち構えているのか非常に不安で仕方がない。

 なのでミーシャは少量の魔力砲を飛ばす。相手の戦闘能力を図るためのものだ。


 ──ズガァンッ


 木人兵は大きな音を立てて爆発した。見立て通りこれはアトムの罠である。生み出された木人兵は爆弾を体内に隠して突進してきたようだ。接近戦は常に爆発が付き纏う面倒な状態となる。魔障壁を貫通または破壊するほどの爆発ではないだろうが、確実に耳はおかしくなりそうだ。


「操れそうな奴が近くに居なかったら自分好みに魔改造した木偶人形を操って攻撃させるって……やりたい放題ね」


『フハハッ!これこそが神の力よっ!!他にもまだ能力は多様に付属して……!!』


 ドンッ


 まだ自慢の途中だったにも関わらず、ミーシャの魔力砲の一撃で多数の木偶人形が一瞬のうちに消滅した。


「弱かったら意味ないよ?」


 その言葉は又してもアトムの逆鱗に触れる。


『……図に乗るなよ?魔族の屑野郎……!』


 ベキベキベキ……


 神ノ木の口の中、泉の真ん中に鎮座するどでかいエメラルドの結晶。エメラルドは卵のような形をしていたが、突如人の形に変化する。余分なエメラルドは削ぎ落とされ、まるでヒーローアニメに出ていそうなほど格好にこだわった意匠となった。目が赤く光り、ドス黒いオーラで全身を纏う姿は男の子の厨二心を熱くさせることだろう。見た目はヒーローの方ではなく、まんま(ヴィラン)だが……。


『この私が、特別に一対一で勝負してくれよう……感謝するが良い』


 アトムは自身のエメラルドの体を見せびらかすように、大げさに手を広げながらミーシャの元へとやって来た。悔しがる声や恐れ慄く声を期待していたアトムだったが、帰って来たのは幼稚で単調だった。


「嫌だ。そんなことより私は”野郎”じゃないから訂正して」

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