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第四十八話 言い逃れ不可

「よぉラルフさん!待ってたぜ!」


 意気揚々と声を掛けるのは藤堂。肩越しにこちらをチラリと見ているのがロングマンだ。この組み合わせにジニオンは訝しい目を向ける。


「何だオメーら。仲直りでもしたのか?」


「まさか!そんなわけ無いだろう?利害の一致って奴さ。いやぁそんなことよりよぉ、無事で何よりだぜ。お互いにさぁ!な?はっはっはっ!」


 よく回る口で饒舌に話す。テンションが異様に高いことが合わさり、何とも気味が悪い。


「よく笑っていられるな?トウドウさん。俺たちの要塞を壊しといて……」


 ラルフは藤堂を見据える。ピタリと笑うのを止めた藤堂もラルフを見た。


「……何で俺が壊したと?」


「外からの侵入、要塞の心臓部を破壊、八大地獄の解放からケルベロスの討伐まで。順を追えば不審なのはあんた一人だけだし、何よりこいつが証拠だ」


 ラルフのポケットからスルリとネックレスが現れた。突然見せつけたことに何の意味があるのか分からず、それを見て笑いそうになったが、次の瞬間にスッと感情が消える。


『よくも知らばっくれられたものよのぅ。トウドウ ゲンノスケ』


「おやぁ?あんたはアスロンさんかい?おっかしいねぇ。俺ぁてっきりあのデケェ脳みそだけなのかと思っていたがなぁ……」


『残念だったのぅ。儂の記憶はそこかしこに存在しとる故、殺すことは実質不可能じゃて』


「やるねぇ。じゃ死なねぇ俺と大差ねぇわけだ」


 ニヤリと笑う藤堂にラルフは首を振る。


「違うね。あんたとは決定的に違う」


「ふっ、どこが違うんだい?簡単に死なねぇところと不老不死なところ、どこを取っても……あっ、肉体がねぇな……違う?そうじゃねぇって?まさか今までの経歴で善悪を分けようってんじゃないだろうな?()してくれよ、論点をズラすような真似は俺ぁ嫌いだな」


 捲し立てるように藤堂はお気持ちを表明する。ラルフは鼻で笑った。


「論点をズラそうなんて(はな)っから思っちゃいねぇよ。むしろそのまま、生き死にに関する事柄だ。アスロンさんはこのペンダントや他の魔道具に記憶を写し、生き続けている。その理由は孫のためだが、それはこの際置いておく。対するあんたはその鎖のせいで不死身。破壊されるかもしれない魔道具と、呪いで死ねないあんた。素朴な疑問なんだが、あんたは一体いつ死ねるんだ?」


 藤堂の目が据わる。


「嫌な質問だなぁ……ま、でも確かにその通りか。そう考えれば違うなぁ」


 一瞬苛立ちの表情を見せたが、すぐにケロッとして受け入れた。今まですぐに沸騰してきたような奴とは一線を画す。そりゃそうだ、千年以上抑圧されてきた男がこの程度でキレるはずもない。ラルフは最初の話題に戻す。


「……んなこたぁどうでも良いんだよ。これで分かっただろ?あんたが壊した要塞の落とし前をキッチリ付けてもらうぜ」


「お〜怖っ。つっても俺に建築技術はねぇし、返せる要塞もねぇよ?死なねぇし、資産もねぇ。こんな俺が付けれそうな落とし前ってなんだい?」


 藤堂は自身の境遇に託けてラルフを煽る。


「うん、とりあえず100回死んでみるのはどうだ?」


 上空から聞こえた声に弾かれたように見上げると、そこにはミーシャとイミーナが降下してきていた。ラルフの側に降り立ち、ギロリと藤堂を睨みつける。藤堂は肩を竦める。


「それが要塞の代わりになるってんなら喜んでこの身を差し出すぜ?煮るなり焼くなり好きにしてくれ」


「ふむ、随分偉そうですね。自分の立場が分かっていないのでは?」


 イミーナも感情的になり始める。


「まぁ待て、そもそもの目的を聞こうじゃねぇか?要塞を落としたのは、ケルベロスを殺すためだったてのは何となく分かる。でも動機が分からねぇ。ここを聞かせてくれよトウドウさん」


 藤堂は額を掻きながら掻い摘んで説明してくれた。異世界人である藤堂は元の世界に帰ることを目的に、異世界の扉を探していた。しかし、何をやっても現れることはなかった。それには理由があり、守護獣(ガーディアン)がその扉の鍵の役割をしていて、真っ先に倒す必要があったのだ。

 幸いミーシャが守護獣(ガーディアン)をほとんど始末してくれていたので、苦労は激減していたが、だからこそケルベロスの強さに圧倒された。心中覚悟で正味二割の勝率。海という広大で逃げ場のない場所で、足場のない浮遊要塞という二つの偶然が重なったこの時を狙って、溺れさせようとしたのだ。

 さらにケルベロスには小型化能力が付属しており、万が一には逃走可能という便利な能力付き。しかしその能力が仇となりロングマンに首を切り落とされることとなった。


「要塞を破壊し、罠にかけた。本当に申し訳ないと思っている。この通りだ!許してくれぇ!……俺ぁあんたらと敵対する気持ちは最初から毛頭ない。だって、俺にも”次元渡り”を使って欲しいからよぉ」


 明け透けに語りすぎる。変に隠すよりも用途を示したほうが誠実だと捉えたようだ。そんな無様な藤堂にロングマンとジニオンは鼻で笑った。


「とりあえず今はここを離れよう。まだまだ言いてぇこと有りそうだが、続きは浜辺でやろうぜ」


 ラルフの開けた新しい穴にミーシャたちはゾロゾロと入っていく。

 要塞が壊れたラルフ一向に待っていたのは野宿。新たな拠点が必要である……。

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