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第39.5話 亡者共の進行-2

「ワン公捜索ったってよー。どこ探しゃ良いんだって感じだぜ。なぁ?」


 ジニオンは頭をボリボリ掻きながら隣で歩くジョーカーに話し掛けた。ジョーカーは視線を一瞬向けただけで応えない。


「……クールだねぇ。もう少し喋らないと女にモテねぇぞ?」


 呆れ気味に肩を竦めてため息をつく。そんなジニオンにジョーカーは顔を向ける。


「……い」


 蚊が鳴いたような小さな声が耳を掠める。


「あ?」


「……必要ない」


 蚊の鳴く声は脱したものの、ボソボソと喋るコミュニケーション能力が著しく欠けた声にジニオンはイラついた。舌打ちを一つして「あっそ」と素っ気なく返す。

 空気が悪い。ジョーカーの対人能力が皆無なのは当然として、ジニオンにも当然のように対人能力が無い。どちらも我が強いのためか、互いに譲らなかったが故に暗い雰囲気になる。いや、ジョーカーが何とか絞り出した対話しようとする試みに対して、一方的に遮断したのはジニオンではあるのだが……。

 ともあれ、黙々と歩く巨女と仮面男のヘンテコなコンビは犬を探して彷徨い歩く。しばらくして、この暗い雰囲気に耐え切れなくなったジニオンが口を開いた。


「……犬をよ、誘い出そうと思ったら何が必要なんだろうな?」


「……」


「やっぱ餌じゃねぇかな?」


「……」


「オメー何か食いもん持ってる?」


 押し黙ってリアクションすら取らなかったジョーカーは、この質問には首を横に振った。


「じゃああれだ、木の棒。それならその辺の部屋に入って家具をぶっ壊しゃ手に入るぜ」


 ジニオンは近くの部屋に入ろうとドアノブに手を伸ばすが、ジョーカーに止められる。


「……普通の犬ではない」


「あ?……まぁ確かにそうか。見た目だけっちゃぁそうなんだけどよ。けどじゃあどうすんだって話だろ?」


 ジョーカーは熟考に入った。ジニオンの言うようにただの犬として見るなら、この案は採用すべきだ。食べ物を探しに行くなら台所があるだろうし、肉類があれば生でもソーセージのような加工品でも容易に釣れるだろう。最悪木の棒をおもちゃ代わりに釣るのも良い。

 しかし相手はケルベロス。犬のように見えて犬ではない。賢さで人間を凌ぐ場合だってある。こちらが下手を打てば寝ているであろう敵を起こすことに繋がる。万が一の場合、武器のない状態では特異能力を使用するしか道はないが、ブレイドのような遠距離攻撃で仕掛けてくる相手には勝ち目が薄い。


『こんなところで立ち止まって、何をしているんだい?』


 突然声をかけられた二人。ジョーカーはザッと戦闘態勢に入ったが、ジニオンはのんびり肩越しに声のする方を見た。そこには場違いな少年の姿があった。

 場違い。そう思うのも無理はない。容姿端麗だが、可愛さも兼ね備えた完璧な美少年。確かな血統に裏打ちされた気品を感じられたからだ。帝王の息子と言われても違和感はない。


「その言葉をそっくりそのまま返すぜ、神様よぉ……」


()()らを助けに来た。と言ったら信じてくれるかい?』


「はんっ!信じられるわきゃねぇよな。けど丁度良いぜ、助けてくれよ。オメーも俺たちとワン公を探しちゃくれねぇか?」


『ワン公?……ケルベロスか?』


「おうよ。とりあえずは敵を起こさねぇように慎重にだな……」


 ズギャッ……ガランガランッ……バァンッ


 遠くで何やら騒がしい音が聞こえてくる。ジニオンは頭を抱えた。


「どこの馬鹿だ?接敵しねぇように静かに行動しろっつーのが分からねぇのか?」


『ふふ……もうとっくに始まっている。其が口だけで気をつけている今この時にな……』


 ジニオンは正直この言葉にイラッとしたが、つまり遊んでいられないことも示唆している。


「……よぉ、バレてんならもう我慢することはねえよな?」


 メキメキと筋肉を隆起させ、拳を部屋の扉に放つ。バゴンッという音が鳴り響き、扉はいとも容易く粉砕された。


「へへ、もういくら音を出しても関係ねぇぜ。こっからはしらみ潰しだ。ワン公を探して片っ端から破壊していく。んで、見つけたら殺すってのはどうだ?」


 この野蛮な考えにジョーカーは即頷いた。ネレイドは顔を顰める。


『ケルベロスを殺す?そんなことをしたらどうなるか分かって言っているのか?』


「不服か?止められるもんなら止めてみろよ……ネレイド」


 ジニオンの目に燃える殺意の炎は光の軌跡を描く。体から放出される闘気は陽炎のように景色を歪ませ、舞い上がる。そんなジニオンの姿はさながら阿修羅の如き畏怖の対象として目に映った。

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