第二十三話 ユピテル
『不躾なクズども!我の前に出て来いっ!!』
空中浮遊要塞スカイ・ウォーカーの目の前に突如として現れた人影。
後光が射しているスラッとしたイケメン男性、その名をユピテル。両手を広げて演劇じみた空気を醸し出している。
「来た来た。凄ぇ神々しいのが」
ラルフは待ってましたと楽しそうに手を叩く。
「あれも神の一人?本当にぃ?」
ミーシャは首を傾げて大広間に映されたモニターを見ている。
「ラルフさんの言う通りかなり神々しいですね。神っぽいといえばぽいですが……」
「ここまで魔道具無しに単独で飛べるのは魔族くらいしか見たことないよ。神で間違いなくない?」
ブレイドとアルルは神だろうと思っている。これにはジュリアもアンノウンなど、大広間に集まったほとんどが浮いている男を神であると賛同する。唯一ベルフィアはミーシャの疑問に傾倒した。
「ふんっ、ヨく分からん男を神かどうかに振り分けル必要なんぞ無いワ。ミーシャ様、あんな意味ノ分からん紛い物は妾がとっちめてやりましょう。どうか妾に命令を……」
ベルフィアは一も二もなく戦闘を進言する。そんな何も考えてもないベルフィアの思考にイミーナは苦言を呈す。
「待ちなさい、あれは神に間違いないわ。いきなり突っ掛けては面倒を買うだけなのは目に見えてる。まずは対話から始めても悪くはないと思うけど?」
「悪い悪くない以前に遅いワ。妾ノ再生能力を駆使すれば、どんな攻撃だろうと関係ない。如何でしょう?ミーシャ様」
妙に食い下がるベルフィア。最近戦いが無かったために欲求不満なのかもしれない。ミーシャは少し考えてから結論を出す。
「アスロン」
ミーシャの呼びかけにすぐさまアスロンが出現する。
「どうかしたかのぅ?」
「あれに要塞の魔力砲を斉射。塵も残すな」
「ちょっ……ミーシャ?!」
イミーナの困惑を余所に、ミーシャの無慈悲極まる命令に痺れるベルフィア。
「流石ミーシャ様!妾は感服致しましタ!」
得意げなミーシャは腕を組んで胸を張る。顎も上目に踏ん反り返っている。そんなミーシャの言動に不安になるのはイミーナだけではない。
(いきなり要塞での攻撃か……顔を出さないのが吉と出るか凶と出るか……)
ラルフは顔こそ出したく無かったが、不意打ち気味の攻撃もどうなのかと考える。ここであえて口に出さなかったのは、ならば他の方法があるのかと問われないためだ。ぶっちゃけ何も考えていない。八大地獄を捕らえればどんな形であれ、神を名乗る何かがやってくることは目に見えていた。
ここでサトリに何とかしてもらうのも手かもしれないが、気分屋の彼女が神なる者の出現に顔をチラつかせないのは気になっていた。
結論として、成り行きに任せようと放置を決定したのだった。
ブゥンッ……
要塞内に広がる電子音。大広間を照らしていた光が一瞬暗くなる。この要塞に張り巡らせた魔力が一気に魔力砲に注がれたためだ。
ドシュシュシュシュ……
上から山なりに降ってくる魔力砲は、要塞攻撃ともあって威力が凄まじい。
いきなり攻撃を仕掛けてくるという蛮族じみた行動に、ユピテルはニヤリと笑う。
『ククク……話し合いは不要か?これにて貴様らは、我がせっかく差し伸べられるはずだった救いの手を自ら振り払ったのだ!御霊となりて後悔しろ!その魂、我が永劫おもちゃにしてくれようぞ!!』
バッと開いた両手を前に突き出し、何らかの攻撃を仕掛けようとするも、すぐに止められる。
『こんにちはユピテル』
その言葉にピタリと止まる。
『サトリか?出て来たな裏切り者め!』
『失礼な。裏切ってなどいません。私は私の思うがまま、動いただけですよ?』
『やかましい!貴様も貴様のおもちゃも!諸共ぶちのめしてくれよう!!』
戦闘態勢をサトリに対して構える。この言動は、サトリを呆れさせるのに一役買った。
『そうして怒っていては大切なことを見落とします。常に冷静に、毅然とした態度で臨んでこその神。品格を落としては周りに気を配るなど、とてもとても……』
『神の資質がない者に言われたくない言葉だな!貴様の方こそ品格を落とし続けているくせに何が……!!』
ボッ
サトリの前でイキっていたユピテルの真上から魔力砲が降って来た。サトリはユピテルの気を逸らして、要塞側からの攻撃を秘匿することに成功させた。
『もう……言ったはずですよ?大切なものを見落とすって』




