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第十二話 囲い込み漁

「奴め……勝手なことを……」


 ベルフィアは映像越しに舌打ちをする。隣の部屋で繰り広げられている話し合いが気に入らないようだ。

 それも当然のこと。敬愛するミーシャを裏切った敵を勧誘するなど言語道断。()くなる上は乱入して有耶無耶にしてしまうのが良いだろう。

 チラリとミーシャを盗み見ると、特に表情に不快感は現れていない。というより、どうなるのか期待しているようにも見える。


「ミーシャ様。もしイミーナが仲間に加ワルとなったら、どうなさルおつもりでしょうか?」


「どうって……」


 一瞬ベルフィアを見た後、すぐに視線を戻す。イミーナの返事に集中したいようだ。ベルフィアはミーシャの反応を見て肩を竦めた。


(結局、ミーシャ様ノお考えを組んでいルノはラルフということか……)


 面白くないような、それでいて諦めた顔で映像を見る。二人に動きはまだない。



「……次をお願い出来ますか?」


 イミーナはラルフの勧誘に答えを出すことなく、二つ目をせがんだ。簡単に答えられることでもない。ラルフは予想していたように次の質問に移行する。


「そうだな。それじゃ二つ目の質問だが、今のミーシャをどう思う?」


「は?それは一体どういう……」


「昔のお前にとっては国の頂点に立つために殺さないといけない存在だったのは理解出来る。結局殺せてなかったから報復を恐れて部下を差し向けたのも、自ら出向いたのも、命を取られないように必死だったと考察出来た。でも今はどうだ?ミーシャは記憶が混濁し、裏切り行為をほぼほぼ忘れてる。殺さないと言ってくれてるし、国は消滅してんだから奪われる心配もない。こんなミーシャをお前はどう見る?」


「……」


 イミーナは目を泳がせて黙る。全て欺瞞であると断じて一つ一つの言い分に逆張りすることは容易だが、それは自尊心が許さない。裏切り、奪い、殺しに手を染めても、美学は常にイミーナを自分足らしめる。

 でもそれは停滞に近い。こうして黙ってしまったのも、ラルフの質問の結論が出ているからだ。先ほどミーシャが”真実”を聞きたがった答えがそこにある。

 ラルフは追い討ちをかけるように三つ目の質問に入る。


「一応最後の質問だが、どっか行くあてはあるのか?これは俺の杞憂かもしれないが、主人を裏切って国を奪ったお前を誰が拾ってくれるんだ?蒼玉も居ないし、ティアマトと(くろがね)をも捨て駒にした。残るは黄泉だが、あいつはあいつで権力闘争に敏感そうだったし、国民のことを思えば不穏分子を入れるのはリスクが大きい。統治してた国もないしな。残るは隠居して見つからねぇように暮らすか、どっかその辺の国か街を支配して両種族の討伐対象に躍り出るか?」


 ラルフの指摘にイミーナもとうとう口を挟む。


「ふっ……よほど私を仲間に引き入れたいと見えますね。一つ目の勧誘こそ直球でしたが、二つ三つは外堀を埋める質問ですね。真面目に答える気もありません」


「へぇ、逃げるのか?」


「何とでも仰ってください。私を殺す気がないなら、解放していただけませんか?」


「馬鹿言え、不穏分子を外に放てるかよ。お前がその気ならここで生涯を終えてもらうことになるぜ?」


「今度は脅しですか。なかなか退屈させませんね。……では仮に仲間になると言った場合、私の身は自由になるのでしょうか?」


「そうだな。部屋に魔障壁は張らないし、便所も廊下の方を使ってもらうことになる。食事時は大広間に集まって、みんなで食べる。それ以外の時間は有効に自由に使ってくれて構わない。けど外出は控えてもらうぜ?抜け出されちゃ面倒だしな」


 ラルフはイミーナを警戒している。いつ後ろから撃ってくるかも分からない存在を前に、仲間に勧誘している自分が滑稽に思えた。小さく頭を振ってその考えを頭から逃す。


「現在のこの状況が監禁なら、仲間に入った時は差し詰め軟禁でしょうか?どちらにしろ囚人のような環境は変えられない」


「おいおい、俺たちだって感情があるんだぜ?一緒に住んでいて違和感がないだとか、暴力に訴えないとか、そういう積み重ねで(たが)は外れるものだ。要は俺たちに信頼されれば自由な外出を約束するぜ?」


「なるほど……当たり前ですね。しかし私の手は血で汚れています。私自身、裏切りをしないという条件に抵触しないかどうか疑問が残りますし、この衝動を抑えないと、自由にした途端にあなたは死にます。これは断言出来ます」


「……」


 とうとうラルフも長考に入る。命の危機に直面した時、出来ないことはないと思い返す。解決法を探して5分。ラルフはパッと顔を上げた。


「……血の契約だ」


 血の契約。これを一度結べば、主に定めた者がその契約を破棄するまで主従の関係となり、その者のいいなりとなる絶対忠義の証。契約には従属を決めた者の自らの意思が必要となり、強引に結ばせる事は出来ない。


「なっ……!?それは……!」


 イミーナは狼狽する。血の契約なら確かに無闇矢鱈にどこそこへ攻撃、または誰それを傷つけたなど、主人の命令でもない限りあり得るはずもない。

 だが同時に自由意志を捨てることに他ならない。首を横に振るのも仕方がないが、ラルフはそれを見逃さない。取り消さない。


「じゃあ選んでもらおうか。血の契約、俺と結ぶか、ミーシャと結ぶか。二つに一つ」


「ちょ、ちょっと待って!なんで血の契約が確定になっているんですか!?」


 難癖の付け合いはここで一旦の収束を見せる。ここまで追い詰められれば選択肢は無いも同じ。イミーナは生きることをなし崩し的に選択した。

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