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第五十話 情報取得

「え?ヲルト大陸に?何だ全然動いてないじゃないか」


 ラルフは蒼玉の秘書ウェイブに黒影の場所を聞き出した。


「……蒼玉様はある程度の情報を聞き出したので、後は黄泉様にお任せすると……」


 話によれば手続きや運び出しに関してはウェイブに一任されており、黄泉の部下と協力して身柄を受け渡したと語る。精神的に参っていたウェイブは予想通りペラペラと喋り出す。

 捕まえた当初から喋らせるような拷問などしていなかったが、とんと口を割らなかった男とはまるで思えない語り口調に、聞いていたベルフィアも正直驚いた。


「守ル者が失くなっタ忠義者はこれほど簡単に籠絡されルもノ何じゃなぁ……身につまされル思いじゃて」


 ウェイブの肩が強張る。せっかく話しているのに咎めるような口調では回る口も錆びる。ベルフィアに一言釘を刺そうと口を開いた時、ウェイブが手をあげてラルフを制した。


「……必要ない。その女の言う通りだ。もう私には守るものもないからな……」


 達観した男の顔には哀愁が漂っていた。

 それからもしばらく問答を繰り返し、それなりに満足したラルフはうんうんと頷きながらウェイブを見る。


「助かったぜウェイブ。もう十分だ」


 その言葉にギュッと目を瞑る。この言葉が出たと言うことは十中八九殺されると言うことだ。未練は無い。痛いのは嫌だが、ここまでの命というなら甘んじて受け入れよう。


「腹減ってないか?一緒に飯でも食おうぜ!」


 ラルフは快活に語りかけた。


「?……私を殺さないのか?」


 凄く不思議そうな顔で上目遣いで恐る恐る聞く。


「何で?ああ、お前はもう用済みだってか?そんなことしねぇよ。あまり褒められたことしてねぇけど、そんな外道ではねぇつもりだぜ?」


「ならばこの後は……私はどうなる?」


「あー……黒影奪還までは一緒に居てもらって、奪還後は自由ってところだな。ヲルト大陸の警備が強化でもされたら面倒だからよ」


 殺さないとくれば当然監禁は必須。ミーシャに主人の命を奪われたとあっては敵になる可能性は非常に高い。いくらラルフが甘いとは言ってもそのくらいのことには頭が回る。


「……私が……恩を仇で返したら?」


 ウェイブの挑発とも取れる質問にミーシャが前に出る。


「死にたいの?」


 その一言に全身の毛が逆立つ。無機質な声の内側にある殺意。まだミーシャが第二魔王を名乗っていた頃の円卓を思い出した。銀爪に向けた強力な殺意。あれに比べたらいくらかマシだが、それを向けられたのはウェイブ本人。恐怖は人一倍である。


「まぁ待てミーシャ。腹減ってんだよ多分。誰だってお腹が空いたら機嫌が悪くなるもんさ。……イーファ。ブレイドから飯をもらってきてくれ、ウェイブには悪いがここで食事は済ませてもらう」


 戦闘から戻り、メイド服に着替えたイーファに早速仕事を頼む。イーファは嫌な顔一つせずに頭を下げると部屋から出て行った。


「凄い静かだったね。いつもなら小言の一つも飛んできそうなのに……」


「姉たちが一息に殺されたんだ。ショックは計り知れないさ」


 メラ、リーシャ、シャーク、イーファ、アイリーン。生き残ったデュラハンの名前である。

 12シスターズから9シスターズになり、今度は5シスターズとなる。元々の主人である灰燼が打倒された時に処刑されるはずだった九つの命。四つ消えたところで、むしろ長生き出来たと笑い飛ばせる。今のイーファには難しそうではあるが……。


「デュ、デュラハンをアゴで使う人間が居るなんて……」


 デュラハンは魔族の中でも高位な存在。人間が命令して良いはずがない。だがそれを受け入れているのは他ならぬデュラハンたち自身。ならばそれ以上の言葉が出るわけもなく黙った。


「食ったら作戦会議だ。しっかり精をつけてくれよ」


 ラルフたちの次なる目的地はヲルト大陸への再侵入。穏便に事が運ぶように願いたいものだが、果たしてどうなるのか。

 裏で暗躍していたクロノスの討滅を経て、ようやく一息つくラルフたちであったが、魔族の本拠地に出向く。黒影奪還作戦も相まって戦闘は避けられない。

 平穏無事など、今は儚き夢である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読んでいます。壮大な物語ですね。 [気になる点] >「……私が内部から攻撃をしないとは考えないのか?」 内部というのがよく分からないのですが、「攻撃をするかもしれない」でしょうか?
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