第39.5話 観戦組
次元を超えた戦いが繰り広げられている中、下々の戦いは膠着状態となっていた。その大きな要因はアシュタロトによるものだ。
彼女が動けば戦況は変わると思われるが、今回の戦いには否定的だったために積極的に動くことを避けた。
アトムとアルテミス、そしてエレクトラは戦うために降りて来たのだと言わんばかりに普通に参加している。サトリもおもちゃを守るために必死だ。
彼女は兎角見に回る。それは彼女の性格ゆえのことだが、好き嫌いも反映されていた。
『無謀も良いところだよね。もう既に決着はついているのに何をしているのか僕にはさっぱり分からないよ……』
マクマインはアシュタロトの言葉に反論する。
「決着がついている?バカを言うな。まだ戦闘中ではないか……?」
無論アシュタロトが頓珍漢なことを言っているのではないとハッキリ分かった上での反論だ。
彼女の言葉から察するに今のこの戦いはこちらの敗戦が濃厚であると見ている。だからこその強気の発言だったが、アシュタロトはその感情の機微も感じ取った。聞き分けの悪い子にする特有の呆れた表情をこれ見よがしに作った。
『この戦いにおいて必要と思われる要素は”流れ”だよ』
「”流れ”だと?……確かに戦争には往々にして流れは存在する。どれほどの不利も、一陣の風で戦況がひっくり返ってしまうことがある。一見有利見えていた側も流れが変われば負けることがある。それが戦況における”流れ”だと考えているが……ラルフ……奴らにそんな流れがある訳が無い。……あって欲しくない」
『ははっ!!良いね!君の弱気な言葉は珍しいからもう少し聞いていたいね!』
アシュタロトは高笑いしてマクマインを小バカにしたような空気で笑った。だがすぐに表情を引き締めて睨め付けるような素振りを見せた。
『否定したいのは分かるけど、まぁ聞きなって。流れで一番必要なのは勢いさ。そこで関わってくるのがミーシャの所在。こちら側に居たはずのミーシャは愛を取り戻してラルフ側に帰っていった。結果こちら側の戦力大幅ダウンと……その後の勢いを見れば、どちらに軍配が上がるかは誰にだって分かる。ね?”流れ”大勝利でしょ?』
マクマインを見ながらアシュタロトはニヤニヤと顎に手を当てる。
『君は優秀だけど、いまいち決定力に欠けるなぁ。……いや違うな。これは多分ラルフを敵に回したせいだね。皆がそれぞれ様々な形で心を乱され、狂わされている。本来の能力をセーブされた上に、足を掬われ放題になっちゃってるから返って優秀な者たちの粗が浮き彫りになる。そう言う意味だったら、あれは貴重な存在なのかもしれないね?』
「ふざけるな。あいつは単なる意地汚いだけの反社会組だ。この世界からの離脱こそ好ましい。だから私に神の力を授けてくれと言っているのだ。私ならば奴を殺しきれるぞ?」
『それは止めとく。君に死なれるわけにも行かないし』
せっかく居心地の良い場所を手にしたのに、それを崩すほど間抜けではない。歳だ何だと誤魔化したが、結局はマクマインに死なれたくないだけだ。まだ一緒にいて楽しいからという子供みたいな観点で戦わせない。たとえ本人が戦いたがってもそれは全否定だ。
「……ふっ、無用な心配だが、何があるとも限らんからな。貴様の口車に乗ってやろう」
マクマインは消極的すぎるアシュタロトをこれ以上不安にさせまいとそれを肯定する。あまりしつこくし過ぎて愛想を尽かされては、神というアドバンテージがなくなってしまうと考え、マクマインはイライラを隠した。
自身の不満を二の次に彼は前方を見据える。その目に映るのはブレイドとソフィーの姿。勇者ブレイブと見た目が一緒なので、当時の作戦での通信機越しに何度も見た光景が昨日のことのように思い出される。
蒼玉の姿が見えないマクマインはこの二人の決着に注視する。因果とは不思議なもので、良し悪しに関わらず必ず居合わせてしまう。
拗らせた者同士の結末は劇的ではなく、消え入るように終息するものだ。
勝敗がどちらに傾くのかは神にも分からない。




