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第十四話 仇

 ひび割れた結界。一区画、丸々消失してしまったその場所から魔鳥人が侵入して来た。アルパザの戦いは思いも寄らぬ存在の出現にまたも戦いの手が止まる。


「ヤット来タ……随分時間ガ掛カッタワネ」


 ジュリアは一応、規定通りやって来た”稲妻”に文句を垂れる。しかしその数は思った数とはだいぶ違う。


「ハハ……彼ノ魔王ヲ滅ボシタノカ?流石”稲妻”!!」


 ジャックスは”稲妻”の健闘を称える。おそらくかなりの数を魔王により消滅させられたのだろうと推測するが、それでも勝った魔鳥人はやはり国が誇る英雄だ。偵察部隊の”牙狼”とは質が違う。


「あり得ぬ……」


 ベルフィアも動揺を抑えきれない。さっきとは正反対の状況。その隙をもちろんジャックスは見逃さない。


 ガキャッ


 右拳の正拳突き。その一撃はベルフィアの顎を砕き、それだけにとどまらず首が120度くらい捻じれる。後ろに二歩下がった所で停止し、首の筋肉で正面に向き直る。バキバキという痛々しい音が鳴り響き、顎を右手で嵌め直す。


「コレデ、オ相子ダナ……」


 左手を庇いながらもこの威力。普通の生き物なら死んでいるだろうが、ベルフィアにはほとんど意味がない。


「魔王様が負けルはずがない。とぼけタ事を抜かしおって……あノお方ノ事だ、すぐにここに来タ愚か者どもを殺しに来ルワ」


 ベルフィアはジャックスの英雄を称える発言を真っ向から否定する。


「バカメ、諦メロ!オ前ニハ アレガ見エナイノカ?コレガ現実トイウモノダ!」


 ジャックスは強い語気で相手を責めつつ、物理的にも攻めていく。ベルフィアは否定の言葉を使いつつも、半信半疑といった感じで、さっきまでの余裕がなく動きにもキレがない。ジャックスの攻撃を防御が間に合わず、クリティカルヒットで五連続くらう。そのおかげもあって間合いが開き、気持ちに余裕もできる。ベルフィアは精神にダメージを負って立ち竦んでいる。

 ジュリアは魔鳥人の襲来により隙が出来た人間(ヒューマン)から離れる。団長との一騎打ちを避け、魔鳥人と合流し、一息に片づけてしまう算段だ。


「ちっ!」


 団長は間合いから遠ざかった人狼(ワーウルフ)に苦い顔をする。一匹でも多く殺すはずだった魔族を取り逃がしてしまった。


「すぐに陣形を整えろ!私に続け!」


 団長を筆頭に魚鱗の陣形を取る。先程まで後ろで高みの見物をしていた団長が前に出たのは好都合だった。魔鳥人が来て明らかに焦っている。二対多数だったからまだ余裕があったのだろう。数が増えればこの通りだ。人間(ヒューマン)など恐るるに足らず。


 だが、そんな人間(ヒューマン)に煮え湯を飲まされたのは事実。しかもたった一人に……これ程までの人数を相手取り翻弄したジュリアを命の危機にまで落とした奴がいる。今回のメインターゲットでもあるラルフ。()のイミーナ公も”稲妻”と”竜巻”をわざわざ派遣してまで殺す事を決めた最重要ターゲットだ。ある意味、第二魔王の討伐より気合いが入っている可能性すらある。


 魔鳥人で”稲妻”の指揮官、シザーと最初に接触したのはジャックスだった。


「何をしているジャックス。何故人間が一人も倒れておらんのだ?」


「シザー様!オ待チシテオリマシタ!大変申シ訳ゴザイマセン。奴等ノ抵抗激シク、圧倒サレテマシタ」


 シザーは一通り人間を見渡し、一人の人物で目が止まった。


「なるほど、これはどうしようもないな。貴殿では……いや、単身では勝てぬ」


 イルレアン国、黒曜騎士団団長ゼアル。カサブリア王国(キングダム)で大敗北を喫したあの大戦を潜り抜けた者しか知り得ない最悪の顔があった。


「”銀爪”様に致命傷を与えた最強の騎士を相手に戦った貴殿らの健闘を称えよう。よくぞ生き残った」


 シザーはベルフィアを無視して団長の前に出る。全部で二十羽くらいの魔鳥人がバサバサと頭上を越えて整列する。


「何という廻り合わせか、あの時以来であるな…。白の騎士団、魔断のゼアル。貴殿を殺す事を心待ちにしていたぞ」


「貴様は……誰だ?」


 シザーは頬を掻き、苦笑した後、槍を突き出して発言する。


「我らは”稲妻”!誉れあるカサブリア王国(キングダム)の魔鳥人部隊!そして、我が名はシザー!!第七魔王”銀爪”様の仇!討たせてもらうぞ!」


 それぞれが槍を掲げ、魔鳥人が鬨の声を発する。


「奴か……今となっては懐かしささえあるな。それを知っていながら前に立つとは度胸がある。良いだろう。一切の矛盾なく貴様らを滅する」


 団長は突きの構えをして牽制する。それを見て騎士団も守衛も全員が武器を構える。だが、その時バシュッという音と共に一人の守衛が剣を構えたまま崩れ落ちる。シザーは槍の先に魔力で氷を生成し弾丸の如く飛ばして人を簡単に殺す。


 考える間もなく死ぬという恐怖。人では魔族に勝てない。その現実が浮き彫りになる。守衛は震え上がって動けなくなる。「勝ったな」それが人狼(ワーウルフ)二匹の感想だった。ジュリアは思い出したようにラルフを探す。先の一撃で死んでくれれば楽だったのに死んだのはよく知らない人間(ヒューマン)だ。よく探すが、ラルフの姿形はその場から消えてなくなり、完全に見失った。


「今度ハ ドコニ隠レタ?」


 ラルフはさっきまで団長の後ろに隠れ調子に乗っていたが、前に出てきた事で隠れ場所が無くなったはずだが今の一瞬で家の影に隠れたとでもいうのか?だとするならとんでもない奴だ。自分の命の為なら他人の事などどうでも良いのか?なら何故ジュリアを助けたのか?魔王に肩入れした事で奴にとって人は敵になったのか?


 まぁ逃げる事は出来ない。ラルフは一旦置いといて、ジャックスの確認に急ぐ。


「兄サン。大丈夫?ソノ腕…」


 ジュリアはジャックスに近寄り、その傷の様子を聞く。


「……死ニハシナイ。オ前モ良ク頑張ッタ。アノ男ガ、マサカ”銀爪”様ノ仇ダッタトハ……」


 ジュリアに任せた事に深い後悔の念を抱きながら左腕を抑える。致命傷ではなくとも、兄にこれほどまでダメージを与えた化け物。自分が戦っていたら今頃どうなっていたか…ジャックスと戦った化け物ベルフィアの今の様子を見ようとチラリと目をやる。


「ア?」


「ドウシタ?」


 その先をジャックスも確認する。


「……奴ハ、ドコダ?ドコニイッタ!?」


 その姿形はラルフ同様その場より消え、ジャックスも戦っていた敵を見失ってしまった。

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