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第三十話 計画破綻

「じ、次元渡り?何の話だ?これは小さな異次元ポケットディメンションっつー能力で……」


「ラルフ、それは私も説明したからそういうこと(・・・・・・)では無いと思うの」


 何とか理解してもらおうと必死なラルフにエレノアの声は冷たい。だがだからこそ冷静になる。この能力への付加価値を考えさせられた。

 ラルフの力は端的に言えば、どこにでも持ち運び可能な無限倉庫。彼の思った位置に出入り口を出現可能という一件優れた能力だが、ただそれだけである。ラルフ自身の身体能力を神であるサトリが強化したからといって最強になれるわけではないように、彼だけが持つ切り札とも呼べる異次元も、言うなれば単なる雨風を凌ぐモノであると考えるのが妥当。

 誰にも取られる心配もなく、重量による阻害などもない史上最高の金庫である。


「……やっぱ仕舞って出すくらいしかやることがない。飛竜!お前は誤解している!!」


『喧しい!!』


 ゴッ


 飛竜は前足を持ち上げて振り下ろす。迫り来る巨大で金属の塊の如き前足は何者をもぺしゃんこにしてしまう。


 ドンッ


 しかし、その前足が地面を叩くことはない。ラルフに当たるよりも随分前にミーシャによって握り止められる。もう二度と戦いたくないと思わされた最強の魔王はまたも彼の前に立ち塞がった。


「お前私に負けたそうじゃないか?私はその時のことを覚えてはいないが、確か殺してはいけない任務だったはずだ」


 ビキィッ


 硬い鱗はミーシャの握力の前に脆くも崩れる。


「……今度こそ死んでみるか?」


 指の間から微かに見えるミーシャの刺すような眼光は、心臓を鷲掴みにされたように恐怖に慄き動けなくなった。これがトラウマという奴なのだろう。

 彼女との戦いは完敗だった。思い出したくもない圧倒的な力。しかも当時は殺さないように立ち回っていたのだと、今ここで初めて知った。

 次元違いの化け物と次元渡りを持つヒューマン。二人の出会い、偶然とは決して思えない。


『サトリィ!!貴様何ということを仕出かした!!この世界に災いを呼び込み、歴史を葬ろうというのか!?』


『違いますよ』


 その質問にすぐ様否定する。光の収束と共にサトリの妖艶な姿が露わになる。


『まず次元渡りは守護獣(ガーディアン)の支柱を全て破壊しない限り出来ません。ラルフの持つポケットディメンションは次元の狭間を占有しているに過ぎないのです。あなたの早とちりでミーシャと戦うのは構いませんが、殺されてはいけませんよ?死ねばあなたのいう次元渡りが現実のものとなってしまうので……』


『……っ!?』


 飛竜は思い切り手を引き、鱗を引き剥がすと三歩下がって距離を取る。ミーシャは剥がれた鱗を投げ落とす。


「ああ、もったいない」


 ラルフは鱗を拾って異次元に放り込む。飛竜はそんなラルフの行動にイラっとしたが、自身の言動の愚かさの前には霞に等しい。


(そうか……私は少し幼かったようだ。この世界で唯一与えられた存在意義を見失ったとばかり思っていた。それも私の創造主に捨てられたのかと……)


『そんなことあるわけないじゃないですか。私たちの可愛い子供を捨てるわけがないでしょう?』


(……ならば聞かせろ。貴様にとって我々とそこの女……どちらの方が大切なのか)


『両方です。比べようがありません』


(その女が、我々守護獣(ガーディアン)を殺したというのにか?それを放任し、新たな死を招き、また放任する。貴様の真意はどこにある?サトリ)


 サトリは笑顔で飛竜を見つめる。ただ見つめ合うだけで会話をしない二人にラルフはようやく安堵の息を漏らす。


「よし、サトリが言い包めるだろう。みんな無事か?」


 この機に仲間の状況を確認する。デュラハンの何人かがいないことに気づき、イーファに目を向けた。メラとシャークを瓦礫の影に横たわらせている。その目に哀愁が漂っているのに気づいて姉妹がやられたのだと悟った。何よりアイリーンとリーシャは捕虜の後ろで剣を構えながらボロボロと泣いている。これ以上ない確信に胸が打たれる。

 そんな家族の別れにラルフも泣きそうになったが、ぐっと堪えて他を確認する。ブレイド、アルル、エレノアにアンノウンと歩、ジュリアも無事だ。ベルフィアは当然無事として、他の巨大生物に至っては面識がない。

 ラルフは巨大生物に指を差して知ってそうなアンノウンを見た。


「召喚獣だよ。ヘルとフェンリル。ヨルムンガンドは死んじゃったけど」


「あのでっかい蛇のことか?すまない。デカすぎて入れられなかった、というか間に合わなかったんだ。今度はこのくらい小さいのでよろしく頼むぜ」


 フェンリルを見て肩を竦める。


「善処するよ。ところでティアマトと(くろがね)はどこにいるの?」


「何だ?まだ参戦してないのか?……まぁ放っとけ、その内出てくる」


 ラルフはゆっくり降り立つミーシャを見ながら、この次に起こるであろうことを考える。飛竜の攻撃がラルフに来るという計画破綻。今頃奴らは退避したか、そっと向かってきているのか。おそらく後者だ。飛竜の背後を取って徐々に近づいているに違いない。未だゼアルとソフィーが残っている以上マクマインが諦めるわけがないだろうし、蒼玉とイミーナはあの極大魔法を使ってきたことから推して知るべしと言える。特にイミーナは勝負を決めに来た。もはや引き下がれないとみるのが妥当。

 その上でティアマトと鉄が出て来ないのだろう。まだ終わっていない。


「何考えているのラルフ?」


「ん?ああ、すぐに次が来そうだと思ってな。俺たちがこうして手をこまねいてる間に……」


 それが言い終わる前に飛竜の背後から殺気を感じる。それに気づいたその場の全員が殺気を発する者に目を向けた。


「!?……飛竜っ!!」


 ラルフは飛竜の背後に迫る蒼い影を見た。大声で知らせるがもう遅い。飛竜の背中に蒼玉が乗った。


(ほう?私の背中がどれほど危険かも知らずに飛び乗るとはバカな奴だ)


 飛竜は四方八方に魔力砲を放つことが出来る。鱗の一枚一枚から放たれるその威力は山をも消滅させる。危険かどうかなど気付かぬ内に消滅だろう。


「おやおや、獣の癖に喋られるのですね。そして背中に乗るのは危険、と。……それは私のセリフです。私を乗せることがどれほど危険なことか、身を以て知ることでしょう」


 蒼玉の手が鱗に触れる。先ほどはミーシャへの恐怖で反撃が出来なかったが、今は違う。飛竜は蒼玉を消滅させるために魔力を高める。


「遅い」


 そこで行われることをラルフなりに考えた時、時間を巻き戻すことが挙げられる。今時間を巻き戻すことが何になるというのか?飛竜の恐怖を取り除き、ミーシャにぶつけようというのか?そんな回りくどいことを考えるか?蒼玉なら考えそうだが、飛竜の背中の上でそれほどイキって無事に済むと思っているのか?もし巻き戻したとて真っ先に死ぬのは蒼玉。となれば決死の覚悟か?

 ラルフの想像は全て覆される。


吸収(アブソープション)


 ギュバッ


 今まで聞いたこともない音が蒼玉の手から鳴る。それは布団のシーツを掃除機で吸い込んだような音。蒼玉の体が光り輝く。鱗から魔力砲を発射したわけではない。飛竜の力を一気に吸い出した時の漏れ出した光だ。


『ゴァアァァッ……!!』


 飛竜は力を吸い出されるという一度も感じたことのない感覚に怯えを生じさせた。今すぐこの奇行を止めさせようと攻撃を仕掛けたいが、体が思うように動かず、次第に弱っていく。その能力に見覚えのあった歩はカタカタと震えながら口を開いた。


「……茂くんの能力だ……」

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