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第二十二話 戦争-2

「ちょっとは合わせなさいシャーク!」


「私のことは放っておいて!エールー姉さんと組んでよ!」


 デュラハン9シスターズの内、六体が攻撃を仕掛ける。メラ、エールー、シーヴァ、カイラ、ティララ、そしてシャーク。上級魔族と名高い彼女たちの技量は尋常ならざるもの。彼女たちだけでも数の暴力に対抗しているが、やはり体力的に援軍が欲しいところ。残りの三体の内、イーファとアイリーンは捕虜の解放に行き、リーシャは捕虜の見張りにつけている。捕虜を盾に、この三体も戦闘に間に合えばさらに優位になるだろう。

 極め付けは魔王が後ろに付いていることだ。いつでも援護を期待出来る形に加え、召喚獣も相まって余裕を持った戦いに勤しめる。白の騎士団がこの召喚獣に掛かり切りになっている現状、彼女たちを止める手立ては蒼玉とイミーナの二人だけとなるだろう。

 そういった事情もあってか、妹のシャークとの連携が巧く取れないメラは戦いながら説教を始める。


「大体あなたは好き勝手が過ぎますわよ!?もっと華麗に流麗に、戦闘を優雅に進めなさい!姉として恥ずかしいですわ!」


「うるさいなぁ!そういうの後にしてくれない?!戦いの邪魔なんだけど!!」


 メラとシャークが殺し合いの最中、バチバチに喧嘩し合う。


「シャークったら反抗期ね〜。少しくらいメラ姉様に合わせたらどうかしら〜?」


「シャークは自己流を貫き過ぎてて面倒くさいからメラ姉様が離れるべきじゃないかしら?カイラ、あなたとなら連携の一つや二つ……」


「御免被るわ〜シーヴァちゃん。メラ姉様は早過ぎてついていけませんもの〜」


「はいはい、みんなそこまでにしてよ!集中集中!メラ姉様!!わたくしがそちらに参りますので少々お待ちを!!」


「早くしなさいエールー!わたくしだけでは面倒ですわ!」


 姉妹の会話と血飛沫が飛び交う。面倒という言葉通り、中級魔族に多少手こずる程度でドンドン前に進んでいく。

 これが出来るのは(ひとえ)にガンブレイド部隊を封殺出来ているからに他ならない。撃てば敵味方関係なく殺してしまいかねないガンブレイドは、射線をしっかり確保した段階で使用するものだ。間抜けにも召喚獣の登場で怖気付いてしまい、動けなくなってしまった時に接近戦に持ち込まれてしまった。運よく敵だけに当たれば御の字だが、そうそう上手くはいかない。


「うおおぉっ!!」


 そんな中、黒曜騎士団副団長バクスは剣を大振りにシャークに襲い掛かる。副団長の名に恥じぬ見事な剣の軌道に彼女も思わず受け止めた。


 ギィンッ


 当たれば無傷では済まないこの攻撃を難なく受け止めたが、バクスの体躯と全体重を掛けた振り下ろしに流石のシャークも驚いた。何せ踏ん張った足が地面にめり込む威力。

 かなりの実力者だと認めたシャークは剣をかち上げ、バクスに胴払いを仕掛ける。だがこれは空振り。バクスも戦闘経験が豊富なため、攻撃が通らなかった場合を考え、すぐさま後退を実行していた。地面に足を擦りながら何とか逃げ切った。


「ふーん……その辺の雑魚よりは強いか。でも良くて中級魔族に片足が入れる程度?そんなんじゃ私には勝てないから」


 返す剣の軌道が読まれていたことに少し腹ただしい気分になったシャークは追撃に転じる。バクスが受け止められるのは良くてもあと一撃。それもかなり甘く見積もってだ。下級魔族程度の実力にしては良くやったと褒めるべきところ。

 でも特にそういった慣習に興味がないシャークにとってバクスはただの障害。斬って捨てる。ただそれだけ。


 ボワッ


 あとほんの少しというところで突風が吹き荒れる。


「わっ!ちょ……何これ!?」


 ザザザ……と交代させられる。何が起こったのか分からないのはバクスも同じで、きょとんとしてシャークを見ていた。


「もう戦争が始まっていたとは……もう少し待っていても良かったでしょうに」


 そこに降り立ったのは額に水晶の角が生えた人族。その名も一角人(ホーン)。人族で最も魔力の総量が多く、魔法に長けた種族。その中でも異質極まりない存在で、王様から魔女と蔑まれ、疎まれた女性。


「ソ、ソフィー=ウィルム様!!」


 その姿に見覚えのあったバクスはすぐさまソフィーの名を呼んだ。


「ホーン?ということは魔法か。ヒューマンを助けるためとはいえ、こんなに接近してくるなんて愚かなことで」


 魔法使いには詠唱と魔法効果発動時間、クールタイムの三つが存在し、時間が無駄に掛かることで頭を悩ませている。シャークも魔法を使った今がチャンスであると考え、詠唱される前に飛び出した。


 ギィンッ


「……っ!?」


 シャークはソフィーの腕に注目する。先ほどまで何も握っていなかった手に、2m前後の柄を持つ槍を握りしめていた。剣士の力が魔法使いだろうと思われる存在に打ち返された。しかもたかだか人族に。由々しき事態である。


「驚いた?でもこれは序の口。まだ多くの力を隠し持っているの。もし良かったら全部引き出してみてね」


 ゲーム感覚でニコリと笑うソフィーの様子にシャークは気を引き締めた。バクスはソフィーの普段のおどおどとした態度を思い出しながら頭を捻った。


「え?なんかキャラが違うように感じる……気のせい……じゃないっすよね?」


 メラたちはシャークの相手に違和感を感じて侵攻を停止する。


「加勢した方が良さそうですわね……」


 シャークの後ろにぞろぞろ集まり始める姉妹たち。デュラハンを前にして余裕を崩さないソフィーに命の危機を感じさせるべく、各々が個別の剣を構えた。

 複数対一では彼女に勝ち目などない。投降するよう脅し掛けても、ソフィーは首を横に振るだろう。だからこそ吠える。


「邪魔立てするなら押し通りますわっ!!」

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