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第二十話 小さき争い

 ゼアルとロングマンの戦闘開始直前。他も大いに盛り上がっていた。


「またお前かよ」


 テノスは正孝と顔を合わせていた。ペルタルクに来る前、ヴィルヘルムでの戦いの際にこのカードだったことを思い出し、テノスはため息交じりに肩を竦めた。


「悪りぃかよ?まだてめーとは決着ついてねぇんだ。ここで再戦ってのも乙なもんじゃねぇか」


 正孝はボキボキと指の骨を鳴らして威嚇する。


「ま、確かに決着はついてなかったなぁ。しょうがねぇ我慢してやるよ」


 ニヤニヤ笑いながら勝負を受ける。古代種(エンシェンツ)になかった手応えを味わえるのなら正直誰でも良かった。テノスの重心が前に傾いたその時。


 ドンッ


 鋭い魔力砲がテノスに向かって走る。素早く上体を捻って躱す。立て続けに二発撃ち込まれ、テノスはどうにか避けることに成功する。誰が撃ったのかはすぐに分かった。


「……んのクソガキッ!!」


 そこに立っていたのはブレイド。エレノアを瀕死に追いやったことをずっと根に持っている。テノスとて同じだ。右手を欠損させられた恨みは百回殺しても足りない。第四地獄”叫喚”が変形型の魔道具でなければ、仲間にも見捨てられ、今まで生きていられなかっただろう。

 テノスのヘイトは全てブレイドが持っていった。だからこそ気付かなかった。正孝が間合いに入ったことに。


 ゴキッ


 正孝は油断したテノスの顔面に拳を叩き込む。完全に、そして完璧に入った右ストレート。中々の威力にテノスは吹き飛ぶ。二、三回地面を跳ねて両手両足でブレーキをかける。獣のような四つん這いで正孝とブレイドを交互に見た。拳の威力に耐えきれなかった口内がパックリ割れ、唇の端からスーッと一筋真っ赤な血が流れ落ちた。


「……ぺっ、上等だ。まとめて相手になってやるよっ!!」


 こういった展開が各箇所で起こっている。ハンターはジョーカー、アロンツォはティファル、ルールーはノーンといったように、やはりヴィルヘルムでの再来がここにあった。ただ少し違うのは前回のジニオン戦のみ二対一だった状況は現在、八大地獄一人一人に二人以上の精鋭が戦いを挑む形となっている。完全に不利な状況である。

 ガノンはジニオンと対峙して、ジッと観察する。この女は一体誰なのか?やはり魔道具の所有者が死ねば、所有者が変わる仕組みで、この八大地獄に無理やり入れられているのだろうか?それともジニオンの亡霊が女性に取り憑いたのか?

 何にせよ巻き込まれただけなら逃げてくれるに越したことはない。罪もない人間を手にかけるような事態は極力避けたい。意を決して声をかけようとするが、先にジニオンが口を開いた。


「テメーはあの時俺と戦った奴だよな」


「……亡霊が取り憑いた方か……」


 先ほど協議の席にしれっと座っていたのだ。ただの女なわけがない。だがこれでハッキリした。この女はジニオンであり、倒すべき敵であること。


「……何度でも復活してみろ。今度こそ俺がぶった切る」



「ん?……何じゃ?何をしとル?」


 ミーシャから戦力外通告を受けたベルフィアは、急ぎラルフたちの元へと向かった。そこで見たのは何とも不思議な光景だった。


 混戦。

 そうとしか言えない状況だ。人族が人族同士で争っている。一応、魔獣人のジュリアとデュラハン姉妹が混じっているが、中心で争っているのは人族だ。

 一番激しいのはゼアルとロングマンの戦い。それ以外もかなりのものだが、若干動きが硬い。本来こうなる予定はなかったのか、多少困惑もあるように感じる。

 その中で一際異様だったのはラルフだ。浮かぶ大剣に追われている。その後ろを追いかけるように少女が走っていた。皆がそれぞれの戦い方を駆使する中にあって一人全力で逃げる姿を見れば、ふっと言葉が湧き上がる。


「無様じゃな」


 だがそんな呟きが届くはずもない。ラルフが急いで逃げる最中にも、大剣は命を刈り取るために襲いかかる。

 最初の二、三撃は相手も手を抜いていたのか、簡単に避けることが出来た。

 しかし、避けられたのが気に食わなかったのか、次に繰り出された斬撃は速かった。速すぎたとも言える。ほとんど勘で回避し、奇跡的に傷一つなく逃げ切ることに成功した。

 それが不味かった。擦り傷の一つでも負えばパルスもここまでムキになることはなかっただろう。パルスの心境にいち早く気づいたラルフはなりふり構わず背を向けた。


 絶対当てたいパルスと絶対死にたくないラルフの戦い。このまま延々と追われればラルフの方が先に力尽きるのは火を見るより明らか。ベルフィアは葛藤する。すぐ助けるべきか余興を楽しむべきか……いや、彼女の答えはもう決まっている。


「無論、余興を……」


 そこまで口に出したところでラルフが()(つまず)いた。「あっ」とラルフと同時に呟く。ドジを踏んだ。これが好機と迫る大剣。絶体絶命のピンチ。


 シュンッ……ドッ


 大剣は深々と体に突き立つ。

 致命的一撃。助かるわけがない傷。血が噴水のように……吹き出ない。

 ラルフの壁としてパルスに立ち塞がったベルフィアは、その身で大剣を受け止める。


「ベルフィア!」


「鈍臭い男じゃ。少しは妾を楽しませて見せい」


 確かに致命傷のはずのベルフィアは、何でもないようにラルフに受け答えする。死なないどころか血も出ない。パルスは首を傾げてベルフィアを見ていた。


「吸血鬼は初めてかえ?存分に堪能すルが良い。そノ幼き最期を妾が飾ってくれヨうぞ」


 きょとんとしていたパルスの目に鋼の如き冷たい眼差しが光る。

 小さき争いは激化の一途を辿る。

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