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第十八話 ただ一つ確かなこと

(わきま)えろ?面白いことを言う。お前らがどんな関係かは知らぬが、我を前に図々しい物言いよな」


 ロングマンは腰に下げた鞘に納刀しながら呆れ気味に応えた。


「貴様……何故剣を仕舞った?無抵抗の敵を殺す趣味はない」


「まぁ聞け。我はこの位置からお前を斬ることが出来る。遠距離武器を持つ者に眉間を狙われた状態ではおちおち話も出来まい。それにこの状態からでも振り遅れることはない。そうだな……譲歩しても五分(ごぶ)、といったところか」


 納刀した状態から五分。ゼアルはその言葉を反芻させる。ロングマンは居合術も習得している達人である。しかしゼアルは居合術を知らず、納刀状態から間に合う術を一つの可能性に絞り込む。


(魔剣……か。私のイビルスレイヤーと同系統の……)


 前回の戦いで倒したジニオンが持っていた斧は灼熱の炎を発生させていた。他にもノーンという少女が使っていた槍は掠り傷でも地獄の苦しみを味合わせる呪いを付与する魔道具だった。ロングマンの武器が普通の武器とは考えられない。

 ただ、ハッタリの可能性もないわけではない。どの道すぐに動けないように(くさび)を打たれたのは間違いない。


「理解したか?賢い男よ。ならば理由を説明しよう。その男は疫病神に取り憑かれている。後々になって後悔せぬよう、ここで殺してやろうと思ってな」


「疫病神だって?」


 ラルフはバッと立ち上がって手や尻についた砂を払う。


「サトリは命を助けてくれた。今も俺みたいな弱い男に力を貸してくれてる。いわば恩人……いや、恩神だ。疫病神なんかじゃない」


「知らんだけだろう弱き者よ。其奴はエルフどもを(そそのか)して我らをこの世界に呼び、対立させて掻き乱した元凶だぞ?藤堂 源之助が異世界の扉をこじ開けて魔族が押し寄せたのも、元はと言えば其奴のせいに他ならん」


「サトリが?」


 ラルフは怪訝な顔で下を向いた。体の中に居るであろうサトリを見ようと自分の体を見る。見えるはずもないので、すぐに視線を戻す。


「性懲りも無く活動しているとは……よもやあの魔族とも関わりがあるとは言うまいな?」


「魔族……ミーシャのことか?ミーシャはサトリとは関係ない。何のつもりで言ったのかは知らねぇけど、侮辱するつもりなら容赦はしないぞ」


「ただの推測だ。それを侮辱と捉えるなら、お前にも思うところがあるということか?隠せぬものよな。酷い臭いというのは……」


 これにはラルフだけでなくゼアルも頭にきた。「貴様言い過ぎだろう」と一歩踏み出したところでラルフが制する。


「……あんたはそんな良い名前を持っているのに、俺の尊敬する人とは全く違うな……まぁいい。俺はあんたを直接攻撃することは出来ない。ここにいる”魔断”ですら警戒している時点で、勝ち目なんてないことは百も承知だ。でも一つだけあんたに出来ることがある。これは誰でも出来ることだが、あんたに対してはきっと俺にしか出来ないことだ」


「ほう?大言壮語とはこのことよ。それで?我に出来ることとは何かな?弱き者よ」


「そりゃもちろん”嫌がらせ”だよ」


 ロングマンは怪訝な顔をするが、ゼアルはニヤリと笑った。


「ふふっ……軽んじるなよロングマン。この男の嫌がらせは天下一だ。私が命を狙うのも何を隠そう、その嫌がらせが原因と言える」


「ほう?なるほど。ジニオンを屠る程の腕前を持つ者が、何故このようなチンケな男に執着するのか少しだけ理解出来た。それがどんな嫌がらせだったにせよ、屈辱を与えられたのはまず間違いないな」


「ああ、その通りだ。だから絶対に私の手で息の根を止める」


「やめろっ!何だよその擁護みたいな殺害予告!怖すぎるだろ!!」


 せっかくの威勢も吹っ飛ぶ恐怖。ロングマンもフッと笑ってまた刀を抜いた。楽しい会話もここまでだという意思表示。


「……ならば不快に感じる前に殺しておいたほうが良さそうだな」


 ユラッと風に揺れる柳のようにしなやかで言い知れぬ不安と恐怖を身にまとう。

 それに対抗するようにゼアルは剣を横に倒して目線の高さまで持っていき、左足を前、右足を後ろに下げて腰を落とす。鎧に覆われた突きの構えは、しなやかさとは無縁の鉄球を思わせる。


「そう遠慮するな、味わっていけ。私が全力で手助けしよう」



 ケルベロスと睨み合いの最中、思いもよらぬ攻防が繰り広げられていた。


「おいおい、何やってんだよロングマンは……」


 テノスは遠目でその様子を見た。ロングマンらしからぬ不意打ちに驚きを隠せない。

 同時に驚いたのはガノンである。ラルフに対し、何かに付けて恨みを抱いていたゼアルが身を挺して守ったという事実。他の者に殺されてほしくないという強い念を感じ取った。


「……野郎そんなにねちっこい奴だったか?」


 双方の出した行動の不一致が困惑と混乱を誘ったが、一つだけ確かなことがある。

 全員の武器を持つ手に力が入る。視線を戻したその時に目が合った人物。それが今この場の敵となることだ。


 正確には白の騎士団とラルフ一行が八大地獄を相手取った戦いとなる。数の上では八大地獄より上でも、力の差はまだまだ届かない。魔王が参戦すればその心配は無いが、果たして古代種(エンシェンツ)を前にこちらの加勢など出来るものだろうか?


 ともかく白の騎士団と八大地獄の第二戦の鐘が鳴った。

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