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第十七話 反乱

「サトリの作った獣?なるほど、それで……」


 ケルベロスがいまいち煮え切らない行動をしていたのは、ラルフの中に創造主を確認したからだ。もしミーシャがケルベロスを倒そうとしたなら大きな被害が出ていたかもしれない。偶然とはいえ良い采配だったことは間違いなかった。


「みんな攻撃をやめろ!ケルベロスに敵意はない!」


 それを聞いて武器を素直に下ろすものもいれば、抗議するものもいる。


「正気か貴様。これに敵意がないだと?ならば何故ここに他の古代種(エンシェンツ)と共に来たというのか?」


 ラルフと同じ後方で待機していたゼアルは喚きながらやって来た。まず相手の戦闘能力をある程度確認してから戦いに参加する。こちらがどれほど強くても、万が一相手に初見殺しがあっては負ける可能性がある。自身が初見殺しを持つが故に、相手も持っていることを加味して動く。それは当然の警戒であり、勝つための布石である。


「何だよ。今更出てきて説教か?」


 しかし用心が過ぎれば卑怯者や臆病者の汚名を着させられる可能性もある。現に、ケルベロスとの戦いにおいても見に回り、ガノンたちが攻撃しているのを観察していた。どのような技を持っているのか、どれほどの身体能力を持っているのか、隙や弱点に至る全てを網羅するために集中していたが、それは全て先陣きって戦った者たちの功績を奪うやり方だ。当然文句の一つも出よう。


「いや貴様に言われたくはない」


 当然ラルフにゼアルを非難する権利などない。後方で見物していただけなのだから。


「そんなことより納得のいく説明をしろ。敵意がないと何故分かる?」


 それはこの場の全員が聞きたいこと。根拠が状況証拠だというなら考慮にも値しない。相手は獣だ。攻撃しないのは気まぐれの可能性だって十分ある。


「説明しづらいんだよなぁ……神が関係しているとしか言いようがないというか……」


 何につけても神神神。不可思議なことが起きれば全てそれで片付く。現にラルフの煮え切らない答えを聞いた者たちは反発もなく「神なら仕方ないよね」という諦めきった空気感でいた。アルテミスやアトムの存在が彼らに多大な影響を与えているのは間違いない。

 ロングマンはすぐ隣で見下ろすように尋ねる。


「つまりこういうことか?お前が保有するサトリとかいうのが戦いを止めたと。要するにサトリがケルベロスの造物主であるわけか」


「そうそう」


「貴様何故それを先に言わないんだ……。それなら全く反撃がないことも頷ける。聞いた話だと貴様に取り憑いているそうだな。それで不憫はないのか?」


「いや別に」


 というか大部分でサトリの存在を忘れて生活していた。今のところ思い当たる節はあんまりないが、不憫という不憫は、その時々で初めて気付くだろう。

 そんなこともさっさと流してケルベロスを眺める。炎に覆われた体、その下に隠れる威厳ある黒き体毛。何と言っても顔が怖い。その全てを内包した身体能力が備わっている。


「改めて見ると凄まじいな……こんな奴に喧嘩を売れるなんてどうかしてる」


 ラルフは感心気味に眺める。隣にいたロングマンは刀を引き抜いた。敵対行動はやめようと言った矢先に引き抜かれた刀。戦いをやめるつもりはないようだ。ラルフが注意しようと体をひねったその時——。


 ビュンッ


 ロングマンはラルフに向かって横薙ぎに刀を振る。


「うおわつ!!?」


 咄嗟に避けることに成功したラルフは、あまりのことに腰を抜かし、立てないながらも両手両足を器用に使用して、ロングマンから速やかに離れた。


「……ほう?避けられたか」


「急に何すんだ!?」


「そう喚くな。すぐに楽にしてやる」


 突如襲いかかる凶刃。ロングマンはラルフの中にいたサトリの気配に心当たりがあった。

 最初の一薙は完璧に避けられた。ならばと足に力が入る。


 ボッ


 踏み込みの一閃。屁っ放り腰でまともに立てないラルフへの下段払い。


 ギィンッ


 当たれば一撃必殺の間合いにゼアルが滑り込む。


「……退け」


「いいや、退かない。さっきまで共に戦っていたというのに何だ貴様は?」


 理由も告げず、いきなり斬りつけたロングマンにゼアルは剣を構えた。


「この男を殺すのは私だ。(わきま)えろっ!」

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