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第七話 集結

 城に通されたマクマインと白の騎士団、そして八大地獄は王の間に通された。

 黒の円卓の魔王たち、又は重鎮と呼ばれる家臣だけが入ることを許されるこの神聖な場に、各三名ずつ入ることを許された。和室の様相に少し洋の要素を入れた荘厳な雰囲気を醸し出している。

 王の集いからマクマインと補佐兼護衛を目的とした部下ニ名、白の騎士団は事実上の隊長であるゼアルとガノン、そしてハンターが入り、八大地獄からはロングマンとトドット、女性化したジニオンが並んだ。


 武器の所持を許可されている場内には一触即発の空気が流れ、緊張感も一入(ひとしお)だ。

 武器の所持、これには理由がある。一つは自己の生命を他者に委ねないということ。

 知っての通り魔族と人族では生来の能力に大きな差が存在する。武器を持たない人は魔族に対して不利。交渉の決裂や理不尽な癇癪等の無駄な争いを避けるためにも抑止力としての武器が必要。協議という名前からもあるように、見てくれだけでも対等であることをアピールしているのだ。

 だからこそ気づいたことがある。


(……誰だあいつ?)


 ガノンが気になったのは女性化したジニオンだ。死ぬ前の巨体にピッタリだった巨大戦斧は、今その女性の背中にある。不機嫌を絵に描いたような顔は憎しみすら籠もっている。


「貴様も気になったか……」


 ゼアルはガノンの視線に気付いてヒソヒソと話す。


「……ああ、野郎の斧だぜ」


「察するに、前の持ち主が死んだら新しい持ち主を選び出す魔道具なのか、魔道具そのものが本体で別の体に乗り移ったか……」


「……後半気持ち悪すぎだろ。出来れば新しい持ち主を選んだ方で頼みてぇが……」


 ガノンはそのままロングマンを見据える。腕を組み、目を瞑って、時が来るのを待っているようだ。


「……野郎、清ましやがって……絶対ぇ殺す……」


 ギリッと奥歯を噛んで怒りを溜める。その(りき)みは殺意となって立ち上る。


「はっはっ……嫌われたものじゃのぅロングマン」


 トドットは乾いた笑いで話しかけた。


「当然だな。あれだけ暴れたのだ、何も無い方が可笑しいというもの。問題はあの殺意が全て我の方を向いているかどうかよ。八大地獄の責は全て我が負うと決めている。どうか浮気せずにぶつけて欲しいものだが……」


「テメー常識ありそうな顔して大概狂ってるよな」


「それは同感じゃが、ジニオンが言うのは違う気がするのは儂だけか?」


 ジニオンはトドットをジロッと睨んだ。二人がいがみ合っているのを尻目に、ロングマンは蒼玉の隣とイミーナの隣に座る女性たちに目を向けた。


(奴ら……何を企んでいる?)


 そこに座る気配に見に覚えのあるロングマンは不穏な空気を感じていた。想定以上のことが身の回りに起きすぎている。

 八大地獄に唯一命令が出来、且つその命令に従わねばならない超常の存在。普段鈍感なジニオンも気づいているようで、ふざけっぱなしではいられない。


 一方的な殺意と緊張感の中、蒼玉とマクマインはジッとこの部屋の入り口を眺めていた。

 まだ揃いきっていないため、協議が始められないもどかしさと、この後起こりうることへの興奮が気持ちを駆り立てる。


『ね〜、まだ始まらないにゃ?待ちくたびれたにゃ』


 アルテミスは頬杖をついてため息をつく。蒼玉はニコリと笑う。


「もうすぐですアルテミス様。多分彼らは鮮烈な登場を考えているのです。そうでなければこれほど勿体ぶるでしょうか?」


『……!?』


 ズガァンッとアルテミスの背後で雷が落ちたような、衝撃的な顔で蒼玉を見つめる。


『まさか……そ、そんなサービス精神旺盛な奴らなのかにゃ?』


「ええ、或いは多分きっと、期待に応えてくれるでしょう」


 ニコニコ笑いながら期待値を上げていく。蒼玉の憶測と推測の言葉の羅列を一切無視させるほどの自身に満ち溢れた笑顔は、アルテミスの心を惑わすのに充分だった。アルテミスはキラキラとした純粋な目で入口を見つめる。

 そんなやり取りを横で見ていたイミーナとアトムは苦い顔で蒼玉を見る。責任など一切取るつもりもない言い回しに騙されたアルテミスに同情してしまったのだ。

 しかしわざわざ突っ込まない。アルテミスが喜ぼうが悲しもうが怒ろうがどうでも良いことだったから。


 そして——

 スッと襖が開く。そこにはラルフを先頭にミーシャとベルフィアが背後につき、そのさらに後ろに(くろがね)、ティアマトがついてくる。制限付きだが、部下を引き連れても良いというものがあるので、ブレイドやアルルが鉄の部下の代わりについてきた。ティアマトにはジュリアとアンノウンがついてきている。ラルフ一行は他の連中とは違い、メンバーをぞろぞろと引き連れてきた。条件に従った編成なので文句も言えない。

 これ見よがしにふんぞり返り、肩を揺すって空いている席に座った。ラルフに対する苛立ちや殺意、憎悪に関する負の感情から、しきりに観察するような冷たい目の中、ミーシャもベルフィアも席に座り、その他も周りを見ながら席に着く。


「よし、みんな集まっ……ん?何だよどんな顔ぶれだ?白の騎士団はまだ分かるが、マクマインがいるのはどういう訳だ?それにそっちの連中は?」


「まぁ……質問は多々あるのかもしれませんが、それは後に致しましょう。ここにこうして全員が揃ったので、早速協議を始めましょう。よろしいですね?皆様」


 ついに始まった協議。ここに揃う最強の面々は、各々思いを廻らせながら蒼玉の言葉に耳を傾ける。


『サプライズはぁっ?!?!』


 アルテミスは焦りながら、風が起こりそうなほどの勢いで蒼玉の方を振り向いた。誰よりラルフたちの登場を楽しみにしていたアルテミスの高揚感は、粉々に打ち砕かれた形だ。そんな純粋で間抜けな叫びに蒼玉がニコリと笑った。


「或いは、多分、きっと、ですよ。アルテミス様」


 その言葉を聞いて『あっ……』という気づきと共にガクッと肩を落とした。自分の思い込みにようやく気付いたようだ。その瞬間、アルテミスはキッと目を釣り上げ、肩を怒らせた。


『騙したにゃぁっ!!よくもうちを騙したにゃぁっ!!』


 ビシッと指を指してラルフに当たり散らす。いきなり大声で叫んだかと思えばスッと静まり返るアルテミスを見て、目を丸くしながら訝しい顔を向けた。


「えっと……なになに?何の話?」


 ラルフは困惑気味に蒼玉に尋ねる。

 答えはアルテミスが勘違いしたことをラルフに擦り付けたかっただけのことなのだが、蒼玉は言葉を濁し、結局はぐらかされてついに返答はなかった。

 アルテミスの恨めしそうな目だけがジッとラルフを睨み続ける羽目になった。恥ずかしい思いをしたという逆恨みが、ラルフに敵意を感じる要因となってしまったようだ。


 理不尽ここに極まる。


 ラルフの感知し得ないところで勝手に敵意を持たれるという面倒な形にて、協議前の一悶着は収束を見たのだった。

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