第六話 凶兆の鳥
約束の日。
ここはペルタルク丘陵。世界で最も美しいと評されるこの地は今、最も危険な地へと姿を変えた。
黒の円卓、王の集い、白の騎士団、ラルフ一行、そして八大地獄。
協議という名の戦争が静かに躙り寄る。
*
「……奴らは?」
マクマイン公爵はペルタルクの地に百人前後の私兵と、最強の騎士ゼアルを連れて蒼玉の城を睨みつけている。
身じろぎ一つせずに口を開いたマクマインにゼアルが反応する。
「未だ見えず……」
誰が?何が?そんな野暮な質問など必要ない。当然だろう。ここに集まる大半の者たちが奴を待っている。
それは城の主も同じ。蒼玉は空を眺めてその時を待つ。蒼玉がジッと観察していたのは、この空に現れてからというもの一度も地上に降りることなく周回を繰り返していた鳥。古代種の一体、鳳凰。
同じ場所を寸分違わず飛び回る、無限の体力を持つ怪物の動向。
蒼玉がこの鳥を凶兆と考えたのはつい最近のこと。国を滅ぼすわけでも、新しい巣を求めてやって来たでも無いことは何となく分かった。
あれは知らせに来たのだと、蒼玉の勘が告げている。
「……来ましたね」
成層圏ギリギリを難なく飛び回っていた鳳凰が徐々に降りてくるのが観測できる。今日この日この時に合わせて降りてくるということは、蒼玉の予感は確信となる。
「嬉しくも歓迎も出来ない兆しですが、便利ではありますね」
『守護獣を試験紙みたいに言うのは辞めるにゃ〜。神聖なものだと崇め奉るにゃ』
アルテミスはふんぞり返って得意満面だ。服を着せてもらったことも相まって機嫌が良い。
「もちろんでございます。あなた方神の存在を知る前までは、かの獣たちを神として考えておりました」
『そうそう、よく分かってるにゃ〜』
アルテミスがふんふん鼻を鳴らして笑顔で頷いているのに目もくれず、蒼玉は鳳凰から目を離さない。万が一城下町に降りてこられても面倒であるということと、なにかの拍子に攻撃を仕掛けられても面倒だからだ。
とはいえこれは杞憂に終わる。城や街から遠ざかった場所にその鉤爪を下ろし、何日分かの休息に入っていた。とてつもなく大きな羽を畳んで静かに待つ。
誰を?決まっている。奴らしかいない。
「蒼玉様」
侍女のひとりがそっと耳元に囁きかける。彼女のもたらした報せは八大地獄の到着だった。
「そうですか、分かりました」
その一言で終わりだ。今はそんなことに構っている場合ではないとでも言い出しかねない雰囲気だ。
バジィ……
その時、目と鼻の先に要塞が現れた。カモフラージュによる接近。小癪な真似をすると考えたが、不快という程ではなかったので、蒼玉はニヤリと笑う。
役者が揃った。
「開門」
塀に囲まれ、外界と閉ざされたこの国の入口はたった一つ。門が開けられ、ゾロゾロと入るマクマイン一行と八大地獄。二組の長は目が合うと返礼し合う。
待ち人であるラルフ一行の到着。
これから始まるは、協議という名の全面戦争。




