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第五話 要請

「ラルフさん。ちょっとよろしいか?」


 時間の有り余ったラルフは、同じく暇を持て余した仲間と一緒に食卓でお茶を飲んでいた。

 談笑がひと段落した頃合いにアスロンに声をかけられた。


「お?なになに?アスロンさんも混ざる?」


 ラルフの質問にアスロンは首を振る。


「外に客が来ておる。どうするか判断を乞いたいのじゃが……」


「客?魔族か?!」


 ラルフは椅子の背もたれに預けた体を起こして機敏に立ち上がる。この要塞は空中を浮遊しているので、並大抵の人間では近寄る事すら出来ない。そして客という言葉を使った以上、知能ある存在であることは間違いないので魔獣でもない。必然、魔族が該当するわけだが、それも違うと首を振る。


翼人族(バード)森人族(エルフ)の二人。儂の記憶が正しければ、アロンツォとハンターという若者で間違いない」


「なんだあの二人か……つっても珍しい組み合わせだな」


 ラルフは談笑していた内のミーシャとベルフィアを引き連れて要塞の玄関口を目指す。アスロンに先に行って入場を許可するように伝えると、ちょうど到着する頃に二人が入ってくるのが見えた。


「ラルフさん!」


 ハンターが手を振ってアピールしている。


「よー!ハンター久し振りー!アロンツォはちょっと振り」


 ラルフが手を振り返しながら二人に接触した。


「そなたは相変わらずの様だ。世界は刻々と変化しているというのに、そなたに対しては妙な安心感があるな」


 アロンツォは鼻で笑いながらラルフを蔑む。ラルフは肩を竦めてため息をついた。


「へっ、褒め言葉として受け取っておく」


 一通りの挨拶が終わったところでベルフィアが口を挟んだ。


「……ところで何ノ用じゃ?妾らにそちらノ相手をしとル暇は無いんじゃが?」


 さっきまで談笑していた奴のセリフではない。


「そう嫌ってくれるな。数日といえど共に旅をした仲ではないか」


「ま、そういうことだな。取り敢えず入れよ。話なら中で聞こう」


 ラルフは二人を食卓に案内し、椅子を提供する。ミーシャとベルフィアはもちろん、ブレイド、アルル、アンノウンと歩、ジュリアとイーファも座っている。

 ラルフが最後に席についた時、ハンターが口を開いた。


「実は折り入って相談がありまして、是非皆さんのお力を貸していただきたいと馳せ参じました。これは白の騎士団からの嘆願であることをご留意いただきたく……」


「勿体ぶらずに言ワんか。そんな堅苦しい礼節何ぞ、ゴミ箱に捨てヨ」


「おい、ベルフィア。何てこと言うんだ。すまないな、せっかちなもんで……」


 ベルフィアの態度にラルフが頭を下げる。


「こちらこそ持って回った言い方で不快にさせてしまいました。心からの謝罪を」


 ハンターも負けじと頭を下げる。


「話が進んでないんだけど?」


「ミーシャ様ノ言う通りじゃ。早うせい」


 このままでは遅々として何も進まない。痺れを切らしたアロンツォがズイッと前に出た。


「単刀直入に。余らと共に八大地獄と戦って欲しい」


「八大地獄?ああ、この要塞を襲った連中が確かそんな名前だったな」


 ブレイドが目を細めて奥歯を噛みしめる。八大地獄の一人、魔道具を所有するテノスと呼ばれる少年に、母親を殺されかけた。

 アルルのお陰で助かったが、もし回復が遅れていれば死んでいたことは疑いようがない。

 ブレイドは怒りに任せて攻撃を仕掛け、テノスの手をガンブレイドの魔力砲で消滅させたので、この場合痛み分け……いや、テノスが割りを食った形だが、とにかく嫌な思いをしたことは間違いない。


「要塞の一部破壊とエレノア様への攻撃。獣の如き不届きな集団。万死に値すると進言いたします」


 イーファが毅然と振る舞う。話を聞く全員の総意といって過言ではないだろう。


「うむ……こちらも何人も殺された。人類にも魔族にも傾倒しない第三勢力。そんなのが複数居て良いわけがない。一つくらい潰しても誰も文句は言わぬ。むしろ感謝されるであろうな」


 アロンツォは腕を組みながら思いを巡らす。そう、魔王でも古代種(エンシェンツ)でもない人間の分際で第三勢力と呼べる実力者揃い。実際ティファルとの戦いでは善戦したものの、全て正解を引いた戦いだった。一つでもミスればその時点で死んでいたかもしれない。

 それはハンターとて同じ。ジョーカーとの戦いで負った傷は、全て生きるために自分でつけた傷である。

 どちらにも言えることがあるとすれば、運が良かったということ。


「ミーシャがデカブツを殴ってたっけな。大したことないとか思っちゃったけど、考えてみればミーシャが殴ったんだよな。あれがベルフィアだったら結果は違ってたかもしれないってことだよな……」


 接触したのも一回だし、ミーシャではものさしにならない。


「相当あぶねー連中ってのは大体分かった。やってることは俺たちと大差なさそうだが、そんな奴が二組といたら面倒だ。協力はしよう」


「……協力()?何だその言い回しは?余らに何か見返りを求めているのか?」


「何かくれるってんならもらうけどな。いや違うって、今は取り込み中なんだよ。蒼玉に会いにペルタルク丘陵に急いでんのさ。それがどうにかならないと動けないっていうか……」


 ラルフは頬を掻きながら申し訳無さそうに目を逸らした。


「ラルフさんたちもペルタルクに用があるのですね。僕らもこれからの行き先はペルタルクです。偶然でしょうか?」


 ハンターは含みある風に質問する。ラルフはその答えを口に出そうとしては止め、口に出そうとしては首を傾げながら止める。

 ようやく納得行く返答を思いついたのか口を開いた。


「ふっ……マクマインとの関係を隠さなくなったわけだ。その上、今の権限でやれること全部を投入するつもりらしい。いよいよ八大地獄のことは後回しだな」


「僕らもそれは同じです。とにかく協力していただけるようで安心しました。これで僕達の勝利は揺るがないでしょう」


 ハンターとラルフが握手を交わす。


「気が早ぇな。そうと決まれば先ずは情報収集よ。取り敢えずあんたらの持ってる八大地獄の情報を提供してもらおうか?」


 八大地獄の強さの他に、持っている武器やチームメンバーの性別と名前など、分かる限りの情報をもらう。そこで意外な名前を耳にする。


「待て、ロングマンといったか?いい名前だ。ロングマン日誌から取ったのかもしれないな」


 ラルフの聖典(バイブル)"ロングマン日誌"。彼の冒険譚がラルフの青春の一部として刻まれている。


「奴は別格だ。戦うなら相応の覚悟がいるであろう。必要以上に用心しろ」


「……ご忠告どうも」


 メモ帳にサラサラと書き足し、大体の情報を手に入れた。ホクホクした気持ちでメモ帳を閉じる。


「こんなもんか。ところで二人共、昼飯食ってくだろ?」


 ラルフは上機嫌にアロンツォとハンターを誘った。二人は一瞬否定的な考え、素振りを見せたが、結局ご相伴に預かることにした。

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