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第二十二話 再会の挨拶

 魔を断つと書いて"魔断"。白の騎士団で最強と謳われる男の字名(あざな)である。


「ほぅ、大体の戦力分析は終わったと見るべきですかな?ゼアル様」


 ジョーは剣の柄に手を置いて、いつでも抜けるように準備は怠らない。彼がここに残ったのは主に二つの理由がある。

 一つは単純明快、戦闘に参加出来るレベルではないと悟ったことだ。どう見繕っても次元が違う。自分が出ていっても足手まといにしかならないとこの目で理解したため、悔しさこそあったが残ることに決めた。

 二つ目はルカとアリーチェの警護のため。後方で待機するならせめて警護だけでもということだ。美咲が戦闘に参加しなかったので、アリーチェは美咲に任せることになり、結局ルカ一人の警護となった。

 とはいえ万が一連中がこちらに来るなら命を()して戦う覚悟だ。それをジョーの言動から察したゼアルは、静かに一つ頷いた。


「ああ、ここを頼むぞ爺や」


「……お任せ下さい」


 彼は嫌味もなくスッと頭を下げた。ゼアルはマントを翻し、魔剣イビルスレイヤーに手を掛ける。

 魔族を滅ぼすために造られた魔法が付与された剣。この付与された魔法は特別な術式が組まれており、他の魔法で打ち消すことは出来ないとされている。この魔法のことを、生まれ持った才能に技術を上乗せするという意味を込めて"スキル"と呼んだ。


 イビルスレイヤーの第一スキル"魔族特攻"。

 攻撃、防御等に使用される魔力を遮断し、この剣に斬られた時に魔力を少量吸収する効果がある。この効果は魔族のみに適用される。魔族の判別方法はこの世界に元々居なかった生物である。因みにゼアルは判別方法を知らないため、魔族だと認識した敵に剣を振るっている。


 第二スキル"切れ味向上"。

 魔族から吸収した魔力を刃に付与し、切れ味を倍増させるスキル。持ち主が付与することも可能。


 そして第三スキル"速度超過(クイックアップ)"。

 一定時間だけだが、音を置き去りにする速さを獲得する。使用後はクールタイムが必要で、五感に影響が出る。感覚が戻るまでに時間がかかるため、多人数での戦闘では使用できないが、一対一なら無敵の性能を誇る。


 人類最強の所以はこの魔剣にこそあった。

 戦果を上げればキリがないが、直近の活躍を見ても第七魔王”銀爪”は親子共々この剣の錆となり、カサブリア王国(キングダム)の崩壊を招くきっかけとなった例がある。白の騎士団が救世主などと持て囃されるのは、ゼアルの存在あってこそ。

 その上さらに強化されるイベントが発生。

 マクマイン公爵の元に現れた豊穣神アシュタロト。その神から賜った絶大な力。一体どれほどのものなのかとゼアルは考えていた。童心に帰り、新しいおもちゃで遊ぶようなワクワク感が胸から零れるようだった。


 今こそ解放の時。


 そんな中、ふと違和感を感じて振り向く。誰もがゼアルの無双を幻視していた中での不可解な行動に目を丸くする。


「……如何致しましたか?」


 ジョーは率先して声をかける。


「……いや、トウドウの姿が見えんが……奴はどこに?」



 ——ザッ


 ロングマンは即座に臨戦態勢に入った。袖の中にあった手は、いつの間にか刀の柄を握り締め、今か今かと鋼の輝きを待つ。いつもはおっとりとしているパルスも背中に背負った大剣に手を掛ける。


「まーまー。そんな怖い顔をしなさんな」


 どうやってここまで来たのか、藤堂は鎖をチャラチャラさせながら両手で二人の敵意を制す。


『……こ、この人が?』


 今まで見てきた八大地獄の敵の中では一番弱そうだ。服はボロボロでみすぼらしいし、小柄な上に何も食べてないようなガリガリの体。ずいぶん年季の入った顔にはシワが刻まれ、ボサボサの髪と無精髭が汚らしさを強調する。

 オリビアは内心拍子抜けだった。正直な感想としては「結局出会わなかっただけだったんだ。彼らの目的はすぐに完遂されるだろう」というものだ。


「まさか自ら近づいてくるとはな……これも何らかの策か?」


「そんなもんは無いさ。ただ懐かしい友の顔を拝んでおこうと思ってな?」


()かせ。どの口が友を語るか」


 握り締めた刀を遠慮なく抜く。スラッと伸びる刀身は美しく光る。


「この口だが?」


 ヒュンッ


 藤堂が返答した次の瞬間、火花の如き一瞬の(きらめ)きがロングマンの手元で光った。藤堂との距離は6〜7m離れているのに対し、刀をその場で振り抜く。これには藤堂も何をしているのか疑問符が浮かんだが、すぐにこの行動の意味が現れる。


「……火喰い鳥」


 ポツリと呟いた次の瞬間、藤堂の口がパックリと割れる。切れ目はそのままゆっくりと後頭部へと侵攻し、藤堂の上顎から上はズルッと前にズレた。


「はががっ……!」


 藤堂は頭を元の位置に戻すために頭を掴んだ。


「この技は我が手によりこの世を去ったドワーフなる種族からの頂き物でな、少し改良を加えて使いやすくしたのだ。我が秘剣に比べれば威力こそ落ちるが、お前程度ならこれで十分よ。あの時、こうしてすぐにも殺してやればここまで面倒なことにならずに済んだものを……」


 鞘に刀を仕舞う。オリビアの考えは的を射ていた。八大地獄が復活した直後に、ピクシーたちではなく藤堂がいてくれたら、一角人(ホーン)もオークも死なずに済んでいただろう。後者は人類にとっては功績なので何とも言い難いが、奪われず済んだ命の方がきっと多いに違いない。


「……まだ」


 パルスは大剣を振るう。あまりの威力に地面にも亀裂が入り、藤堂の体は何の抵抗も無く真っ二つになった。ここまでしてようやく気付く。


「……何故死なん?」


 藤堂は体を再生させて二人の反応を眺める。その顔は諦めたような途方に暮れる顔だった。


「知ってんだろ?神を名乗る不届きな連中の仕業さ……」

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