第十六話 衝突
人類最強の部隊”白の騎士団”と得体の知れぬ存在”八大地獄”。
いずれ避けられぬ争いは、今日この時、幕を開けた。
白の騎士団の面々は、ルカの軍団の合間を縫って疾風のように駆ける。
最も速いのはルールー、ついでハンターと正孝。ドゴールも速いがそれは通常のドワーフ以上というレベルであり、後から追いかけてきたガノンにすぐに追い抜かれる。ルールーの部下とエルフの部下もそれに続き、ドゴールを追い抜いた。アロンツォは空から攻める。
美咲とゼアル、そして藤堂は見に回る。アリーチェは後方支援に回るので、血の気の多い連中が軒並み攻勢に出た感じとなった。
「良いねぇ!!」
ズゴッ
ジニオンは拳で地面にクレーターを作り、その力を見せ付ける。
殴りつけた威力に足を取られ、バランスを崩した人形たちを蹴散らしつつ前に進むテノス、ノーン、ジョーカー、そしてティファル。トドットは魔法の詠唱に入り、ジニオンは凄まじい脚力で地面を蹴って空中に飛び出した。
ドンッ
投石機から発射された巨岩の如く着地したジニオン。そこに居た人形たちは為す術もなく粉々になる。体をぐっと伸ばして敵の位置を把握しようとしたその時。
「オラァッ!!」
ギィンッ
ガノンの大剣がジニオンの顔面を叩いた。グラッと揺れるジニオンだったが、一歩足を出して踏ん張り、ガノンを見据えた。頬に切り傷が出来、ドロッと血が流れた。その血を指で掬い取り、人差し指と親指を擦り合わせて感触を確かめ、ニヤリと笑った。
「マジかよ。思い切りが良いねぇ……」
いきなり頭を刃で斬りつけるという勝負に出たが、さして利いてない。
「……バケモンが……俺にお誂えの相手だぜ」
ガノンがジニオンの相手を買って出たのを確認したルールーとハンターの部下たちは、自分では分が悪いと判断し、すぐさま離れた。
後からやって来たドゴールは、足場が抉れるほどの勢いで飛び上がり、斧を構えてジニオンに振り下ろす。
ゴギッ
振り下ろされた斧は、防御した腕に阻まれた。空中で一回転しながら着地に成功したドゴールは、ガノンと肩を並べて同じ敵を見据える。
「……足手まといになるなよ?」
「お互いにな……」
二人の力自慢が鋼鉄の怪物を前に臆することなく立ち向かう。ジニオンは背中に提げた斧を取り出した。その腕にはドゴールの斧による切り傷があった。
「美味しいとこはみんなロングマンの野郎に取られちまうんだが……今回は久々に楽しめそうだぜ。オメーらぁ!俺を失望させんなよ!!」
「……黙って死ね」
ガノンとドゴールはジニオン。ルールーとその部下はノーン。ハンターとエルフたちはジョーカー。正孝はテノス。アロンツォはティファル。ルカはトドットと各々にそれぞれの相手が出来た。
「ふっ……中々どうして楽しませてくれる」
ロングマンは納刀する。袖に手を隠して懐から手を出すと、顎ヒゲを撫でながら背中を見せた。パルスもそれに続く。二人は見に回った。
『ど、どうしてこうなっちゃうの?』
妖精のオリビアは困惑が隠せない。今回の遠征は藤堂との邂逅だった。オークたちにちょっかいを掛けていたのとはまるで違うはず。なのに戦争に発展した。
千年以上前にこの世を去ったはずの死を振りまく亡霊たち。地獄の使者は生者を求めて猛威を振るう。何故かその庇護下に置かれた、小さな弱者は両手を組んで祈る。「どうか自分に脅威が降りかかりませんように」と。
「……あなたは大丈夫……パルスがいるから……」
その祈りを察したパルスは無表情で感情を込めることなく呟いた。確かに今まで死に直結する戦いを繰り広げながら無傷で生き残ってきた。オークはもちろん、旅の中で現れた大型の魔獣や魔族等。戦いはいつも八大地獄が優勢で、負けるなど考えられないほどに強かった。
今回もきっとそうだ。何も無いままに、どうせまた勝つのだろう。そう思えば"人類の希望"白の騎士団には悪いが、悲観的な安心感すら湧いてくる。
余裕が出てきたオリビアは、すぐ近くの岩に座るロングマンをチラ見する。彼は顎ヒゲを撫でているばかりで特に動こうとはしない。
『……ん?』
それには疑問を感じた。いつもならばどんな強い連中がいるのか自ら突っ掛かって行くというのに、今回はいやに大人しい。考えを巡らせたところで分かるはずもなく、すぐに考えるのをやめた。
ロングマンはそんなオリビアの視線など意に介さず、向かいにいるであろう藤堂を幻視し、目を細める。
「さぁ、どうでる?藤堂」




