第十二話 戦う理由
「死だ……」
ポツリと呟いた少女に皆が振り返る。
「パルス?」
ティファルは立ち止まって遠い目をしているパルスに話し掛ける。胸ポケットで心配そうに見上げる妖精のオリビアも突然何が起こったのか分からなかった。
「ほぅ……何処かで戦争をおっ始めたか。もしかすると今回の呼び出しはそれと深い関わりがあるのやも知れんな」
ロングマンは顎ひげを撫でながらパルスの見ている方角を眺める。それに対してノーンは不満顔で口を開く。
「え〜っ……せっかくのんびりしてたのに……またどこか平和なとこでのんびりしようよ、せめて半年は……」
「長ぇよ。一ヶ月もじっとしてらんねぇって」
テノスは腰に手を当ててため息をつく。すぐ隣で神妙な面を見せるトドットはジロッと睨んだ。
「……ノーンよ、おぬし何か勘違いしとりゃせんか?」
ノーンはトドットの顔を見てきょとんとする。
「何って何?おじいちゃん」
「儂等が起こされた理由は藤堂 源之助の討伐。儂等は人を捨て、ただの駒であり道具と成り果てた。目的の男が目前となれば、まずはそちらを片付けるのが使命であり道理」
「は?そんなの言われるまでもないっていうか……今まさにぶっ殺しにいくんじゃん?」
「やはり何も分かっとらん。儂等を氷の大地に封じ、今ものうのうと命令を下している例の連中。あの連中がこのまま儂等を自由にしとくと思うのか?目的が達成されたら、また氷の中に逆戻りかもしらんぞ?」
「それは……」
何も返すことが出来ずに口をもごもごと動かした。それは最悪の想定だ。藤堂を亡き者にした後で「用は済んだ」と封印されたらせっかくの自由も水の泡。暖かい日差しの下、日向ぼっこしながら草原で寝るという小さな幸せを奪われることを想像するだけで腸が煮えくり返る。
「そいつは早計に過ぎるなぁ爺さん」
ジニオンは腕を組んでトドットを見下ろす。
「藤堂の野郎だけならそれもあったかもしれねぇ。だがよ、ロングマンの話じゃ仕事が増えたそうじゃねぇか?となりゃ、交渉の余地が生まれたってことだよな?」
「楽観的過ぎる。殺す人数が増えたところで、仕事を完遂すれば同じことじゃろうて」
「悲観が過ぎるぜ?希望を持つのも人間の特権って奴だ」
お互い譲らない。すぐ側で静観していたジョーカーは無言でロングマンを見る。最終的にこの男に頼む他ない。その視線に気づいたロングマンは一瞬考えるような仕草を見せた後、二人の間に割って入った。
「落ち着け、仲間割れをしている時ではないぞ。二人の意見、これはどちらもあり得ることだ。しかし二人ともに失念していることがある。それは「大前提」よ」
「大前提?何よ難しい話?」
ティファルが呆れ気味にフンッと鼻を鳴らした。
「何も難しい話ではない。この二人の懸念の中心を見ればすぐに分かること。例の連中よ。であるなら、沙汰を下すあの連中が消滅すれば……どうなる?」
その言葉に今まで遠い目をしていたパルスもロングマンに焦点を合わせた。
「どうなるもこうなるも……なぁ?」
「そりゃ何も起こらんじゃろうて。しかし忘れとりゃせんか?奴らは肉体を持たぬのじゃぞ?思念だけの存在を殺す方法なんぞ……」
「出来る」
言い切るロングマンに不安と期待が混じる。
「正確には殺すのではなく世界から離脱してもらう。それを成すのはパルスの……」
ロングマンが鼻高々に方法を語ろうとしていると、どこか遠くから統率の取れた鉄靴の足音が微かに聞こえた。
「ん?」
その音に振り返る。歩いてくるフルプレートの鎧がずらっと一定間隔で並び、一人も歩調を乱すことなく完璧なタイミングでぞろぞろと前に進んでいる。
「……何だあれは?」
一個大隊クラスの頭数を揃え、統率の取れた一糸乱れぬ動きに、驚きと不安感を覚えさせられた。
そんな八大地獄の面々を置いて、兵士たちは前に進む。
「さぁさっ!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!人形ショーの始まり始まりぃ!!」
これだけ離れていればいくら八大地獄とて気づかない。気づかれない。
はるか後方で指揮棒を楽しく振りつつ、ルカはほくそ笑んだ。




