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第十一話 常套手段

「ナッ……オ、オ前ハ……」


 ベリアと他多数に大雑把な説明をしたラルフだったが、その瞬間に入国を断られた。仕方なく脅す方向で調整すると意外とすんなり入国に成功したのだった。

 今はラルフと空王のみ玉座に通され、獣王と初の対面を果たしていた。


「あ、その節は……」


 ペコっと会釈する。少し前にラルフが”王の集い”の会議場に映像越しで顔を出し、困惑させていた。ここにいる獣王と空王だけが、ある意味ラルフの味方のような立ち回りをしてくれたので勝手に親近感を湧かせていた。


「ラルフ ト言ウ名前、何処カデ聞イタ名ダト思エバ……空王、オ前何故コノ男ト行動ヲ共ニシテイル?正気トハ トテモ思エンゾ」


 獣王は怪訝に怒りを足したような、なんとも言えない表情で空王を睨みつけた。空王は肩を竦めながらため息をつく。その様子に一緒にいることは本意ではないと悟り、ラルフに向き直る。


「……ソレデ?用件ハ何ダ?」


「もう既に話は通っているとは思うけど、お宅らの技術を教えて欲しいなって思ってさ」


「技術?鍛治ノ技術ナラ、オ前ラノ方ガ上デハナイカ。例ノ ゴブリン ハ如何シタ?ソレニ話ヲスル相手ガ違ウ。ソウ言ウノハ ドワーフ ヲ訪ネルンダナ」


 話は終わったと席を立つが、ラルフはおもむろに口を開く。


「……古代種(エンシェンツ)


 ポツリと発した言葉に、獣王の動きが止まった。


「聞いてるぜ?白の騎士団の一人、激烈のルールーに古代種(エンシェンツ)の角を加工した双剣を与えてるってな」


「……ソレガ?広ク(おおやけ)ニシテイル事ダ。今更ソンナ情報……マサカ双剣ヲ寄越セ何テ言ウツモリジャナイダロウナ?」


「いやいや、とんでもない。そんな貴重なもんを取るわけにはいかねぇよ。俺たちが聞きたいのは角や骨の加工方法だ。金属と違う加工しにくいものを扱いやすい武器に作り変える。その技術を教えて欲しいのさ」


 その話を聞いた途端にフンッと鼻で笑った。


「聞イテ如何スル?今カラ古代種(エンシェンツ)ヲ狩ルツモリカ?先ニ断ッテオクガ、コチラカラ ソノ手ノ素材ノ提供ハ一切シナイゾ」


「ん?ああ、キマイラの角か?要らない要らない。いや、要らないってのは悪い意味じゃなくてな?俺たちも持ってんだよ。リヴァイアサンの骨をさ」


 その名に覚えがあった獣王は目をかっぴらいて一歩前に出た。


「リヴァイアサン?彼ノ海竜ノ骨?如何ヤッテ……モシカシテ アレハ定期的ニ骨デモ吐クノカ?」


 獣人族(アニマン)が崇め奉る神獣キマイラ。三つの首を持つ怪物の鹿の頭には大きな角があり、一定の周期で生え替わることがある。もしやそれと同じように骨を落とすことがあり、リヴァイアサンの骨の一部を回収したと言うことなのだろうか?


「吐かないよ。ミーシャたちがやっつけちまったんだ。せっかくだからって丸ごと回収したんだよ」


「リヴァイアサン ヲ!?アリ得ン!!」


 リヴァイアサンは海の生物。海から陸に上がることは決してないし、戦うとなったら海上か海の中。水の抵抗をよく知るなら勝ち目が皆無なことに気づくことだろう。ましてアニマンは風呂以外では極力濡れることを拒む傾向にある。彼らにとって海の生物は天敵と言って過言ではない。獣王の関心はそんな怪物を如何やって殺したかに注がれていた。


「あっという間だったぜ?魔王が四柱いたら……いや、ミーシャを中心とした魔王たちがいれば敵なしだな」


 それを聞くなり玉座にストンと座った。色々思いを巡らす目的がある。


 まず、ラルフの言葉を鵜呑みにして、誰にも危害が加えられないように交渉に応じる。

 第二に、嘘だと決めつけて完全拒否。

 第三に、決定を保留にして時間を稼ぐ。


(……考エルマデモ無イ。相手ハ”剛撃(グランツ)”ヲ倒セル魔王集団。”銀爪”ト同ジ(くらい)強イ(ちから)ヲ持ツ頂上ノ怪物共。最初以外ノ二、三ヲ選ベバ、癇癪ヲ起コサレル可能性モアル。最モ無難ナノハ、言ワズモガナ交渉ニ応ジルコト……)


 獣王は不本意ながら交渉のテーブルに着いた。


「……良カロウ。技術ノ提供ヲ認メル」


「へへっ、そうこなくっちゃ。自分たちの命が第一だってよく分かってる。ま、俺たちも手を出されない限りは反撃するつもりはない。安心してくれ」


 ラルフは満足そうに頷いた。その間ずーっとは二人の間に入らず、ほぼ玉座の間のインテリアとなっていた空王は不満げに口を挟む。


「ねぇ、さっきから俺たち俺たちって……それ私は含まれてないわよね?」


 ラルフは空王の不満顔にきょとんとしたが、すぐにニヤリと意地悪そうに笑った。


「……俺たちは俺たちだぜ?だって俺と空王は”対等で綺麗な関係”だからな」


 撫子の件をまだ根に持っている。鋼王の一件は戦争で有耶無耶となってしまったのだが、ここにきて取引の内訳を変更したのだと悟る。ラルフに近づき、関わってしまったことを酷く後悔した。


「さーて、善は急げだ。案内人をつけてくれるか?職人から技術を継承しなきゃ話になんないからな。っとウィーも連れて来なきゃ……」


 獣王は苦虫を噛み潰した顔で尋ねる。


「チョッ……イツマデ居ルツモリダ……」


「決まってんだろ。ウィーが技術を覚えるまでだよ」

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