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第十話 幕間-2

 わいわい騒いで食事を済ませたガノンたちはドゴールを引っ張って城を目指す。正孝は王に直接謁見できるものと思って期待していたが、通されたのは玉座の間ではなく、こじんまりした応接間だった。


「遠慮せずに入り給え」


 中にはこの国の事実上の最高権力者、ジラル=H(ヘンリー)=マクマイン公爵が座って待っていた。ゼアルもすぐ隣で腕を組んで立っている。


「……相変わらずこんな小せぇ部屋使ってんのか?公爵閣下は庶民的だな」


「口を慎めガノン。無礼だぞ」


「……へいへい。でも事実だろ?」


 慎むつもりのないガノンにゼアルは眉を顰める。


「ははは。君こそ相変わらずだなガノン。君を見ていると私の立場をすっかり忘れそうになる」


 公爵は非難することもなく笑顔でそれを受け入れる。それを見ていた正孝はアリーチェに耳打ちする。


「何か、おおらかな人だな」


「認めた人だけだから真似しちゃ駄目だよ。普段は怖い人だから下手なこと言うと……」


 アリーチェは首に手をやって横にスライドさせた。それを見て目を泳がせながらゆっくり頷く。


「ところでアリーチェ殿の隣りにいるのは誰かな?」


「え?あ、俺……僕は正孝って言います。……です。はい……」


「マサタカくんか。そう畏まらなくても……ん?」


 公爵は笑顔で正孝に対応していたが、突然何かに気付いたように目を泳がせた。そしてすぐに正孝を見据えると机の上で手を組みながら質問した。


「……君のすべての名前を教えてくれないか?性は何というのかな?」 


「えっと、性は獅子谷と言います」


「シシタニか……読みはマサタカ=シシタニ?」


「俺……僕の世界では獅子谷が上で正孝が下です。いや、マサタカ=シシタニでも合ってるんすけど、何かしっくり来ないんで出来たら獅子谷 正孝でお願いします」


「……ほう、なるほど。守護者(ガーディアン)か……」


 小さな声でポツリと呟く公爵。良く聞き取れずに前のめりに「なにか?」と聞き返す。


「いや、何でも無い。マサタカ殿、そしてドゴール殿も遠路遥々ご苦労だった。ここまでの長旅に労いを贈ろう。そういえばゼアルから聞いたが、宿を探しているとか」


「……そうだ。最近不景気でよぉ。商売上がったりで金がねぇんだ。安くて良い物件があったら話を聞くぜ?」


 ふてぶてしい態度だが、公爵は笑顔で返した。


「案ずるな。君たちには特別に貸し切りの宿を用意している。君が魔鳥を飛ばしてまで呼んだ面々もそこに集合させ、活動拠点として使ってもらうつもりだ」


「……気前良いな。遠慮なく寝泊まりするぜ」


「それと参考までに、何故今回召集をかけたのか教えてくれないかな?」


 ガノンは一瞬無表情になるが、すぐにふっと微笑を浮かべた。


「……決まってる……戦争だ。やられたからやり返す。そんだけだ」



「……どう思う」


 ガノンたちが出て行き、ゼアルも職務に戻った静寂の部屋に公爵の独り言が響く。


『何が聞きたいのか僕にはよく分からないなぁ』


 またいつの間に現れたのか、少女がニコニコしながらソファに座っていた。足をパタパタして遊んでいるのを見れば公爵の隠し子かと誤解されそうだが、彼女はこの世界を創造した神々の一柱、豊穣神アシュタロト。


「あのタイミングでマサタカの名前の有無を尋ねろなど普通ではない。まして貴様が知らないとは……あれは誰の了見だ?」


『僕の友達さ。自称"創造神"を名乗る神様』


「何?ということはエルフに貴様と同次元の存在がついているということか?」


『……どうだろ。……ところでよくエルフの仕業だって分かったね。彼らが守護者(ガーディアン)と呼ぶ人々が前に召喚されたのは、マクマインが生まれるよりずっと前だったと思うけど?』


 公爵はふっと鼻で笑って椅子に背を預ける。


「歴史が好きでね。特に英雄譚は興奮して調べたものさ。特に神域の英雄と謳われたアルバート=ジェスターの物語は何度も読み返したものだ。残念ながら創作だったがね……」


『良かった。アル何とかなんて知らないもん』


「だが、天樹の召喚の儀。あれも創作だとばかり思っていたが、真実だったとは驚いたよ」


 軽く笑う公爵を目を丸くして見た。


『……これが噂に聞く誘導尋問ってやつ?』


「そんな高等技ではない。単純に貴様の口が軽いだけだ」


 ふふふっと二人でしばらく笑っていたが、ほぼ同時に笑うのを止めた。


『……で、どうするの?』


「どうとは?」


『このまま野放しにしとくのか聞いたの』


 アシュタロトは唇を尖らせて不満顔を作る。


「……何か気にくわないことでも?」


『あなた達の切り札が狙っている相手は八大地獄だよ?当然でしょ』


「八大地獄か……一応報告には上がっていたが、アウルヴァングの弔い合戦で間違いなさそうだな……。()の者たちが討伐されるかが不安なのか?」


『違うよ。白の騎士団では絶対に勝ち目はない。悪いことは言わないから、戦う相手は選んだ方が身の為だって伝えてあげて』


 公爵はアシュタロトの真意が読めず、怪訝な顔つきで尋ねる。


「忠告はありがたいが、貴様が心配する理由が分からん。八大地獄は貴様ら側だろう?問題ないのであれば放っておいても良さそうなものだが……」


『何を言ってるのさ。僕は公爵の味方だよ』



 公爵の部下に案内されたのは豪華で大きな館だった。


「マクマイン様に鍵をお預かりしております。外出の際はわたくしを含めた警備の誰かに一言お伝えください。戸締りをいたしますので……」


「警備員さんはどこにいるの?」


「門を潜ったところにある警備室です。日中夜問わず交代制にて常駐しておりますので、警備関係で何かあれば仰ってください。中のことは給仕がいますのでそちらにお願いします」


「……よぉ、ここは誰かさんの家か?」


「はい、マクマイン様の別邸でございます。ですがこちらで寝泊りされることは稀で、ガノン様のような大切なお客様専用の宿として貸し出されているのが多いかと」


「……気にくわねぇな……」


 ガノンは舌打ちしながらズンズン奥に入っていった。


「何か不味いことでも……」


「気にしないで、やっかみだから」


 警備員は「はぁ……」と気の抜けたような返事をしてガノンの背中を目で追った。


「なぁなぁ。そんなことよりも、この近くに娼館とかないのかよ。ストリップバーとかでも良いんだけど」


「えぇ……いやその、この辺りは比較的治安の良いところで、そういったお店は……」


「うっそだろ!?じゃお前ら何処で処理してんだよ!AVとか無いんだから女買うしかねぇだろ?!本当はどこか良いとこ知ってんじゃないのか?ほら、隠さずほら!」


 強引に聞き出そうとする性欲丸出しの正孝に対し、アリーチェは呆れた顔をして離れた。

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