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第六話 一先ずの邂逅

「コイツハ一体……ドウイウコッタ?」


 ベリアは困惑気味に頭を捻った。

 空に浮かぶ不可思議な建造物。そこからやって来たのは魔族でも魔獣でもなく、翼人族(バード)とヒューマンだったからだ。

 どちらも大きな括りでは敵ではなく、むしろ味方に分類される。一時期は彼も魔族相手に共に戦ったことのある種族。


 だが、どれだけ人族であろうとも、国の領空を侵犯したのは事実。ぶん殴るのは避けられないとして、何の為に来たのかは気になるところ。

 驚いて止めた足を動かして異種族に近付く。


「オイ!オ前ラァッ!!来ル所ヲ間違エテルゾ!」


 のっしのっしと音を立てて歩く大男に草臥れたハットの男が一歩前に出た。

 弱い。自分と比べれば見るからに華奢で、突き飛ばしただけで死にそうな脆さを感じる。腰に下げたダガーナイフがチラッと見えたとき、この男の戦力は読めた。


(職業ハ盗賊系統。真正面ヨリ、チマチマ横カラ(つつ)ク タイプ ダナ。戦闘特化デハ無イ。前ニ出タノハ、会話ノ為カ……余程口ガ達者ナンダロウ)


 そこまで瞬時に見切ると5m程の間隔を開けて立ち止まる。


「ここはクリムゾンテールだろ?じゃあ間違ってないよ。わざわざここを目指してきたんだからな」


 おどけた口調で挑発するように口を開いた。


「オ前ガ代表カ……名前ハ?」


「名前はラルフ。あんたは?」


「ドウデモ良イダロ ソンナ事ハ。何ノ目的ガアッテ来タノカ知ランガ、俺ノ(・・)許可ガ無ェ奴ヲ入国サセル訳ニハイカネェヨ。ドウシテモ通リタキャ俺ヲ越エテ行クンダナ」


 傲慢が具現化したような言い草に流石のラルフも鼻白む。肩を竦めてブレイドを肩越しに見ると、ブレイドがラルフの横に並んだ。


「あなたはベリアさんですよね?」


 代表者のラルフ以外が口を開いたことに一瞬イラッとしたが、ブレイドの容姿を見て瞠目する。その姿は昔、共に戦った男の姿にそっくりだった。


「ブレイブ……」


 そんな訳はない。ブレイブが生きていたのならこんなに若くないし、自分に対してこんな白々しい話し方をしない。


「オ前……モシカシテ、アイツノ子供(ガキ)カ?」


 喧嘩別れしてからそんなに経たずに訃報を聞いた。そのわずかばかりの時間で子供を授かったというなら、丁度このくらいの歳の頃になるだろうか。


「そうです。俺は父ブレイブの息子、ブレイドです」


 ブレイドが興奮気味に一歩前に出ると、ベリアは一歩後ずさりした。


「オ、オイ待テ!アンマリコッチニ来ルンジャネェ!」


 ベリアはおっかなびっくりブレイドを観察している。さっきまでの傲慢さは鳴りを潜めて、初めて鏡を見た動物のように狼狽していた。どういう反応を示せばよいのか測りかねているのだ。


「……ソックリダ。マルデ瓜二ツ……モウ少シバカリ歳ヲ重ネレバ、当時ノアイツダゼ……」


「そんなに似てるのか……じゃあ勇者ブレイブを拝みたきゃ、ブレイドを見れば一発って訳だ」


 ラルフは冗談交じりに笑う。しかし余程驚いたのか、一切感情がブレる事もなくスルーされた。それを後ろで見ていた空王がため息を吐いて前に出る。


「一体何をしているの?もういいからここを通しなさい。全くもって不服だし、やりたくもないのだけど、獣王に挨拶くらいしとかないと面子が立たないわ……」


 アロンツォとナタリアも側に立って同行する意思を見せた。ベリアはその言葉でようやく耳を傾ける。


「獣王ダト?カク言ウ オ前ハ誰ダ?」


 空王に無礼すぎる態度をとるベリアにアロンツォが前に出た。


「この方は空王、アンジェラ=ダーク様である。知らなかったとはいえ、余の王に”お前”とは無礼であろう。発言の謝罪を要求する」


 槍を掲げてベリアに物申す。ブレイドを見ていた時とは違い、顔を歪ませながら不快感を示す。


「謝罪モ撤回モ無シダ。理由ハ、ココハ俺達”獣人族(アニマン)”ノ国ダカラダ。先ズハ突然来ズニ、一報連絡ヲ入レルノガ筋ッテモンダロ。ソレモ、アンナ デカブツ ヲ引ッ提ゲテ領空ヲ侵犯シタ。本来ナラ万死ニ(あた)イスル。本当ナラ思イッキリ ブン殴ッテヤリタイガ、俺ハ寛大ダ。今スグ踵ヲ返シテ帰ルナラ、見逃シテヤル」


 ブレイドと相対して多少気が変わったベリアは、少々血の気を抑えて帰宅を促す。


「……聞いていなかったの?アンジェラ様が獣王にご挨拶なさりたいと仰っているのよ?早く案内しなさい」


 ナタリアはベリアに槍の穂先を突きつける。


「コイツハ何ダ?俺ニ喧嘩ヲ売ロウッテノカ?マサカソコマデ命知ラズトハ……ヤルナラ相手ニナルゾ?」


 すぐに鉄拳が飛んできそうな勢いがある。その一触即発の空気の中にラルフが割り込んだ。


「争いをしに来た訳じゃない。良いか空王。あんたの面子なんぞ、今はそっと胸の片隅にでも秘めとけ。ベリアも、血の気が多いってのは噂通りだが、少し落ち着いて話し合おうぜ……」


「出来ン」

「無理」


 ナタリアとベリアは両者にらみ合いながら牽制し合う。


「……どうしてもやり合うつもりか?これ以上どうなっても知らねーぞ俺は……」


 ラルフが責任を放棄した次の瞬間、ベリアはダンッと後ろに飛んで間合いを開ける。各々の構えを見せるとベリアが喉から唸るように言葉を発した。


「ココ、クリムゾンテール デ怪力無双ト呼バレタ俺ノ(ちから)……(とく)ト見セテヤロウ!」


「……白の騎士団が一人、”天宝”のナタリア。参る」


 一時はブレイドのお陰で丸く収まるかと思われた邂逅。一部のせっかちが起こした癇癪から振り出しに戻ってしまった。背後で一部始終を観察していたアンノウンがポツリと呟く。


「……短気は損気ってね」


 まさにこの時のためにあるような言葉だろう。

 ともかく二つの種族の最高峰が激突した。

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