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第二十四話 終戦間際の邂逅

 アスロンはすぐにスカイ・ウォーカーの迎撃システムを起動する。出力を最大にした強力な魔力砲の雨は、一度発動すれば国を壊滅させることも可能。

 現に海人族(マーマン)の国はこの攻撃の前に崩壊。難民となり、紆余曲折あって第十魔王”白絶”の配下となった。


 それほどの一撃を三人の不審者に向かって発射したのだ。となれば魔王クラスの強者でもいなければ消滅は免れない。


「素晴らしいのぅ……実に素晴らしい!」


 トドットは装備していた杖を振るって、迫りくる魔力砲を弾いた。


「これほど高性能な移動要塞を手に入れられれば住む場所にも移動にも困らん。必ず儂らのものにしよう」


「本気で言ってんのか?これだけの要塞を動かすのにはそれこそ人数がいるんだぜ?奴隷でも連れてこようってのかよ?」


 テノスはトドットの欲求と興奮を吹き消すように、冷ややかな顔で現実的な話をし始める。


「それこそ本気で言ってんの?どうせ操ってる奴がいるんだから、そいつ脅して操縦させれば万事解決でしょ」


 独特な矛先をしている槍を自由自在に振り回しながら、女子高生チックな服装のノーンが嘲笑した。テノスは反抗的な目を向けるが、言ってることは正しいので口を尖らせながら要塞を睨んだ。


「……っんなこと言われなくても分かってるっつーの……じゃとっとと奪っちまおうぜ」


 テノスは目的の場所に徐々に接近していた魔道具を操って、一気に距離を詰めた。

 要塞内ではエレノアと侍女が空王の元にたどり着き、説明をし始めていた。粗方詳細を聞いた空王は椅子から立ち上がった。


「今すぐに鋼王に助けを求めましょう。ここに攻めてくるのであれば安全なグレートロックで匿ってもらうのが良いわ」


「し、しかし空王様、グレートロックは目下戦争中。ドワーフの連中が我々を敵だと認識してしまう可能性も十分考えられます。ここが一番安全ではないでしょうか?」


「……あなた聞いてなかったの?敵がここに攻めてきているのよ?グレートロックは中に入ってしまえば敵の手は届かないし、抜け道も確保してあるからここより断然安全なのよ。ドワーフたちは頑固者だけど話を聞かない連中でもないから、敵対意思を示さなければ襲われることはないわ。ただし中に入るまでは安全とは決して言えないけど……」


「私も空王様の言う通り、グレートロックに移動すべきだと思います。空王様を側でお守りする身として、アロンツォ様とナタリア様のいない今、少しでも安全な場所に移動するのが最善だと考えます」


 空王の側にいたもう一人の侍女は全面的に空王に賛成と言っている。エレノアと一緒に戻ってきた侍女は不安が隠しきれずにいたが、下唇を噛みながらもコクンと一つ頷いた。

 後はエレノアの許可次第だが、彼女はあまり興味なさげな顔で翼人族(バード)の様子を見ていた。三人の伺うような目がエレノアに向いた時に彼女は口を開いた。


「安全だと思うなら行けば良いんじゃなぁい?この要塞に居るならぁ、私はあなたたちを守ってあげるよぉ?でもぉ、出て行くなら私は干渉しないからさぁ」


 ふわふわとした物言いだが、答えは彼女らに委ねられた。

 となれば決まっている。グレートロックに移動する他ない。バードたちは急いで部屋から出た。


「侵入された」


 廊下にはアスロンが待ち構えていた。空王たちはビクッと驚いてアスロンを見た。


「ちょっと驚かさないでよ……って侵入された?」


「うむ。相手は真っ向から突入するほどの猛者。戦争の為に多くの戦力を投入してしまった今、ここは安全とは言えん。今すぐに逃げることを提案する」


「……そのつもりよ」


 心胆から冷えるような恐怖を感じながら、すぐ側の窓に向かう。こういう時、空の飛べる者は楽で良い。どこからでも退避が可能だからだ。


「エレノア殿も逃げられよ。ここは儂が何とかしよう」


「そういうわけにも行かないでしょぉ?おじいさんは戦えもしないんだからぁ。住処を奪われたらどぉするの?」


 エレノアは首を捻ったり肩を回したりしながら、鈍っていた体をゴキゴキとほぐす。アスロンは実態のない自分の体を見る。エレノアの言う通り、ホログラムである自分にはもう攻撃手段はない。


「分かった。儂が奴らの注意を会話で引こう。その隙をついて攻撃を仕掛けてくれい」


「良いよぉ。でもどこにいるか分からないんじゃ攻撃のしようがないんだけどぉ?」


「それは任せい。このまま案内する。あちらにもう一体出現させれば済む話じゃから」


 エレノアはアスロンの言葉にニコッと笑った。



「もう少しだっ!こっちが優勢だぞ!!」


 破壊槌ドゴールは敵を追い立てて、終始優勢に事を運ばせていた。正面の戦いに参加してからも、一体一体着実に捻り潰し、この戦争の勝利を確信していた。


「手が空いた者は傷付いた者の救護に当たれ!特にガノン殿を殺させるな!!」


 気絶したガノンを救出したドワーフたちは、魔王の不在に(かこ)つけて攻めの勢いを増し、勝利に邁進する。

 だが、そんな中にあってデュラハン姉妹とジュリアたちは、この危険な戦場で他のことに気を取られていた。

 背後からやって来た襲撃者。要塞の迎撃システム。異例とまでは言わないが、白絶の攻撃以降、久々の襲撃となる。アロンツォとナタリアも要塞の状況に目を凝らしている。


「ロン!私は先に要塞に向かう!」


 ナタリアは空王の身を案じ、アロンツォを差し置いて飛び立った。アロンツォも目の前のオーガを瞬時に始末し、続けて飛翔した。出来ればブレイドも飛び立ちたかったが、それは叶わない。飛ぶ羽がなく、それを解消するためのアンノウンへの道筋は大男に塞がれた。


「オメー……名前は何て言うんだ?」


「黙って通せデカブツ。今は話してる暇は無いんだよ」


 ブレイドは焦りながらも相手の戦力を探る。

 太い筋肉、服から覗く肌には無数の傷跡、巨大な斧に取り巻くオーラ。


(……強い)


 見るからに強いが、それだけじゃ無い。相対して来た誰よりも危険な空気を感じる。だからこそ動けないでいた。母の危険を直感的に感じながらも、下手に動いては死に直結すると気づいていたからだ。


「俺はな、こういうことは良く分かんだよ。オメーこの中で一番若いだろうに一番強ぇ。戦うんなら一番強ぇ奴とやらねぇと面白くねぇからな」


「……勘違いだ。俺より強い人はいくらでもいる」


 剣を構えながらゆっくりと体勢を変える。どう攻撃されても良いように半身に構えた。


「……おぉい、そりゃねぇだろ。俺とやり合おうってのに逃げようってのか?」


 すぐに行動を読まれた。図星を突かれた瞬間の一瞬の硬直。それを狙って拳が振り下ろされた。ブレイドの動体視力でも拳の軌道を読みきれなかったが、勘と反射速度がそれを補い、拳に剣を這わせた。

 剣で拳を()なしながら、伸び切った瞬間を狙って剣を振り下ろす。


 バキィンッ


 硬質な音が鳴り響き、剣が弾かれた。


「!?」


 見た目には現れない硬い皮膚に驚きが先行する。あまりの硬さに後退を余儀なくされた。

 続け様に幾度も素手による攻撃を仕掛ける。そのいずれもブレイドは剣で受け切った。拳は刃先に触れたと言うのに傷ひとつなく、最初に剣でかち合った腕にわずかにかすり傷がついていた。

 硬い床を金属の棒で思いっきり叩いたような手が痺れる感覚を肌で感じながら間合いを開ける。


「ふははははっ!!見たかよロングマン!!やっぱこいつ強ぇわっ!!」


 高笑いしながらブレイドを歓喜の眼差しで見た。


「やっぱ名前を教えろよ!あっ俺の名前はジニオンってんだ。ここで俺に殺されねぇ自信があったら覚えてて損はねぇぞ?」


 ブレイドは今すぐどうにかしたい気持ちをグッと抑えて細く長い息を吐いた。


「……俺の名前はブレイドだ。覚えなくても良い」


 二人の戦いを側で見ていたロングマンは感心していた。


「あの小僧、中々やるものよ」


「それにしてもさぁ、戦う前から実力を察せるとか……毎度毎度あの脳筋戦闘狂には何が見えてるわけ?」


 ティファルは腕を組んで訝しげにしている。

 そんなティファルの素朴な疑問もジニオンの攻防にも見向きもせず、胸ポケットでカタカタ震えながら様子を見守るオリビアを尻目に、パルスが戦場に足を踏み入れた。その様はまるで散歩に行くように自然で、優雅ですらあった。その後ろを付き従うように三人が続き、戦争を観察するように見ていた。

 そこに敵を殺して興奮するドワーフがヨロヨロと前方に現れた。歩いてくる四人に気づいて、肩で息をしながら敵かどうかを見定める。


「な、なんじゃおぬしらは?!フラフラするな!間違って斬っちまうとこじゃろうが!」


 ヒューマンであることを察した彼は、戦場に遊び感覚でやって来た彼らを叱責する。


「……どいて」


 パルスはか細い声でドワーフに命令する。さらに怒りを買う行動にドワーフが(いき)り立ったが、声が出ない。それも当然のこと、彼はヒゲと共に首を切られた。一瞬すぎて全く反応が出来ず、膝から崩れ落ちたと同時に首が転がった。それを側で見ていたドワーフたちが目を見開き、怒りから四人を取り囲んだ。

 ロングマンはあご髭を撫でながらドワーフを見渡した。


「ふむ、なるほど。我らを知らんと見える……」


 ティファルは腰に提げた鞭を取り出し、グッと伸ばした。


「じゃ教えたげる。絶望をね!」

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