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第十話 破壊槌

 ベキッゴキッ


 無骨な大金槌が魔族の肩に振り下ろされた。腕力と重量、そして重力にモノを言わせた一撃は、まるでそれが当然かのように魔族の体をそのまま地面にめり込ませ、見事な円形のクレーターを作った。それと同時に局所的な地震と地割れが起こり、他で戦っている敵味方の区別なく足場を揺らした。


 これを行なったのは白の騎士団が一人”破壊槌”ドゴール。ドワーフの中では同じ白の騎士団であるアウルヴァングに次ぐ戦士として有名なドワーフで、その腕力はアウルヴァングを凌ぐとも言われている。


 立っていた地面が凄まじい揺れを起こすと、当然バランスを崩して倒れる者が続出する。まったく周りを見ずに叩いているかの如き暴挙。幾ら最強の戦士とはいえ、やって良いことと悪いことがある。

 しかしドゴールについてきた部下たちはバランスを崩す魔族たちに対し、不動の姿勢で局所的地震に堪える。ここに集まったドワーフたちは、ドゴールの技「アースクウェイク」に堪える為に何度も訓練を済ませている精鋭揃い。この程度の揺れでは重心を崩すこともない。

 とはいえ、堪えることに神経を集中させるので隙だらけに近い。ここを狙われたら厄介だが、相手はすっ転んだり、バランスを崩してよろけたりと堪えるドワーフ以上の隙を生み出す。


 ズガンッ


 その隙を狙えば簡単に致命傷を負わせることも出来てしまうのだ。

 押され気味だったドワーフたちは、ドゴールの支援のお陰で命拾いした上に、格上に金星を上げる大健闘を見せた。


「よしっ!次だっ!!」


 ドゴールは金槌を肩に担いで前に出る。ひしゃげて絶命したオーガの亡骸を飛び越えて次なる犠牲者へと振り下ろす。


「くそっ!!どうなっている!?」


 第三軍を任されたオーガの将軍は魔獣に跨り、歩兵部隊と自分と同じ騎兵を率いていた。機動力と制圧力を武器に立ち回る手はずだった第三軍は、最初こそ優位に立ち回っていたが、ドゴールが出てきてからかなりの苦戦を強いられていた。

 ドゴールは(けん)に回り、敵の一長一短を確認してから出てくる慎重派だ。その慎重さからアウルヴァングに野次られることが良くあるが、適材適所を見極めることが出来る賢い男だ。


 今回は幸運だったと言える。相性の関係からいつも以上に早く前に出てきて、すぐ様攻撃に転じた。足場を確保出来ない騎兵は優位性を殺され、一方的に攻められていた。


「グルガン様っ!このままでは……!」


「うるさいっ!分かっている!」


 圧倒的……というほど不利ではないものの、戦況がドワーフ側に傾いたことは事実。現にドワーフ兵の数がさっきと比べてほとんど減っていない。こちらが三体殺られる間に、ようやく一人殺せる感じだ。

 数の差ではこちらが優勢だが、その優位性はこの場だけのもの。ドワーフ兵の援軍が来ればこの立場は逆転する。


「人間には白の騎士団と呼ばれる英傑がいると聞く……まさかドワーフのようなチビどもにも居たとわな……」


 グルガンと呼ばれた屈強なオーガはハルバートを構えた。


「なっ!?まさか奴と……」


「そのまさかよっ!!」


 馬と牛が合体したような魔獣を操り、ドゴールに迫る。しかし、三歩も行かないところで局所的地震を繰り出される。勇ましく出たものの、魔獣が足を止めれば無様に足止めを食らう。そして案の定、魔獣は足を取られて急停止した。

 だがこのグルガン、そんなことは予測の範疇である。引いていた手綱を離し、急停止と共に大きく飛翔した。

 狙いはドゴール。頭上からハルバートを大きく振り下ろし、真っ二つにしようと企んだ。切っ先は間違いなくドゴールの頭に一直線。邪魔さえ入らなければ頭をかち割り、オーガたち魔族の攻勢が始まる。


 ギラッ


 その瞬間、ドゴールの目が鋭く光る。


 バキィンッ


 ドゴールの持つ無骨な金槌が上にかち上げられ、ハルバートの攻撃を防いだ。


「馬鹿なっ……!?」


 防がれたことに驚きを隠せない。何せ全体重+重力を乗せた大ぶりの斬撃。それに己の腕力が乗っかるのだから、兜の一つや二つ貫通するほどの威力だったはず。単なるかち上げで防げるはずもなく、それが意味することはドゴールの腕力はオーガを持ってして規格外だということだ。

 白の騎士団。人類の希望。噂だけ聞いた時は馬鹿にしていたが、こうして相対してみるとその強さに驚かされる。


(ドワーフ如きと侮った……!!)


 いや、彼は人類全体を侮っていた。

 それもそのはず、彼は灼赤大陸から出たことがない。というのも、あの大陸は年がら年中戦争をやっている激戦区。人類などに構っている暇などないし、オーガであれば五体で人類の小隊規模を壊滅可能であると教わってきた。今回戦ってみて思ったのは、地の利がなければドワーフ如きに煩わされることはないし、四半刻と経たず制圧出来るということ。

 所詮は魔族に捻り潰されるだけの小動物だと、そう考えていた。その結果がこれだ。

 ドゴールは金槌をかち上げた勢いのまま横に半回転し、遠心力+彼自慢の剛腕でグルガンの脇腹を叩いた。


 メキメキ……ゴキッ


 命を繋ぐために大事な骨がいとも簡単にへし折られ、グルガンの胴体は瞬きの間に半分くらいに凹んだ。吹き飛んだグルガンの体は宙を舞う棒切れのように地面を跳ねて転がり、他の魔族を巻き込みながらようやく止まった。

 その目は赤く染まり、目から涙のように血が流れ、口からは血の泡を吹いて絶命していた。


 ドゴールの金槌は斧や剣と違って並大抵の武器で往なすことは出来ない。カウンターを狙えばそのまま押しつぶされ、かといって全力で防御しても結果は同じ。何とか避けて隙を狙う他に攻撃手段がない。この金槌の犠牲者はこの場を見ても多く点在し、地面のシミと肉塊に成り果てている。


 アウルヴァングは飛ぶ斬撃や最高硬度の鎧、剛腕と体力で多人数を押し切るスタイルに対して、ドゴールは一点特化の押しつぶし。自身の腕力にものを言わせて局所的地震を生み出す他、常に周りを分析する冷静沈着な要素を兼ね備えた、上に立つに相応しい武人。


 ここにきた時点でグルガンの敗北は始まる前から決まっていた。もし水路側にグルガン率いる第三軍が向かっていれば真っ先に山に進入が出来ていたかもしれないが、それは”もしも”の空想でしかない。

 運も味方につけたドワーフたちは第三軍の将を打ち取り、魔族軍を混乱の渦に貶めた。


「押し返せっ!!誰も山に入れるんじゃないぞ!!」


 ドゴールの指揮で昂った部下たちは鬨の声を上げてオーガたち魔族に襲い掛かった。


 ドンッ


 その時、水路の方から凄まじい土煙が立った。ドゴールは横目でそれを確認し、目を細めた。


「ん?砲弾か……あっちは苦戦しているよう、だなっ!」


 ゴギンッ


 魔獣の頭を押しつぶして戦況を確認する。

 先ほど葬ったハルバートの戦士はこの軍の将軍だろうと目星をつけていた。統率が取れずにてんやわんやしている様子が見て取れる。


「奴らの動きに綻びが生じている……が、依然状況はこちらが劣勢。将を失い、各自好き勝手に動いたとしても一体一体の身体能力は我らの上を行くか……すまんなアウルヴァング、そちらに兵を回せそうにない……こちらが片付いたら必ず俺から出向こう。それまでは……!」


 ゴガンッ


 前方でドゴールに向かって来た木の化け物”フレイムウッズ”の体を砕いた。


「堪えてくれよ」


 白の騎士団。魔王と戦える最強の戦士たち。

 その謳い文句に偽りはなかった。彼らこそ唯一絶対の人類の希望。

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