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三十一話 提案

 ラルフは衝撃的な内容を伝えられた。しかしその内容は予測の範囲内で且つ理解出来ないわけではなかった。なるほど、リーダーは力では(かな)わないから情に訴え、危険を遠ざける事でアルパザの安全を守りたいみたいだ。


「……魔王様にもお願いだ。俺たちは静かにここで暮らしたいだけなんだ。そっとしておいてくれ……」


 騎士の面々も、魔王を前に率先して町民を代表するリーダーの自己犠牲の精神とその勇敢な姿に心打たれ、感服した。尊敬の眼差しまで飛んでいる。ベルフィアはこの発言に対し「虫のいい話だ」と思う。この発言は曰く人間至上主義の考え方だ。

 自分たちは魔獣の巣を荒らし、静かに過ごしていたであろう生き物に対して配慮なんてあったのか?言葉が通じなければ何をしてもいいのか?情に訴えれば全て許されると思っているのか?


 魔族と人類が戦ってきて領地を獲ったり取られたりしている歴史の中で、強いものが食い、弱いものは食われるのは自然の摂理だ。それでもなお戦い続け、憎悪と愉悦の果てに勝利をもぎ取る事こそ、生き物の矜持ではないのか?

 それが出来ないのであれば強きに(くみ)し、(あるじ)をいただき、平伏し、王とし(たてまつ)るべきである。それすら出来ないのであれば、無様に敗走し領地からも出てどこか別の場所で勝手に死ぬべきだ。


「……魔王様、(わらわ)に発言をお許しください」


 ベルフィアはミーシャに許可を求める。ミーシャはラルフを一瞥した後、手を挙げて発言を促す。その返答に感謝の意を込め、深くお辞儀をした後、不遜な態度をとるリーダーに向き直る。


「そこな人間。先ほどから聞いておれば随分と調子ノいいことをほざいておルノぅ」


 リーダーは極力この化け物と話したくないからあえて会話から外していたが、ここで助かる可能性を捨てる事も出来ず、とりあえず吸血鬼の顔を見る。


「なにを……ごく自然な事だろう……」


「自然?履き違えルな馬鹿者め。ぬしノ(げん)に正当性などないワ!」


 リーダーを一喝し、一拍置いて話し出す。


「それにラルフに対し”人の心が……”などと言うておっタがぬしノ言う”人の心”とはなんぞや?」


 ここでいう”人の心”とは”情”だろう。ベルフィアにそれが分からないわけがない。ならば何を聞きたいのか?リーダーはその真意を捉え切れず黙ってしまう。


「ふふ……ぬしは何故に”去れ”とラルフに言うのか?ぬしが”人の心”と称し濁す言葉ノ真意を考えれば、これはおかしいではないか?」


「……何が……言いたい……」


 ベルフィアはごくごく平静に平坦な口調で疑問をぶつける。


「分からぬか?人ノ里を去ルことは、魔族とも人間とも相容れぬ存在にラルフが堕ちルことになルノじゃぞ。それ即ち、”種を分かつ”と言う事。同じ人間であルならば、ぬしノ言う”人の心”とは?そノ真意は?いっタいどこにあルノじゃ?」


 毅然と言葉の真意を投げかける化け物。それはおかしいと声を上げる。


「なにを……別にアルパザから去るだけじゃないか!」


「ほう?そうなればすべてが丸く収まルと?それは違うぞ。我らノ情報は出回りラルフは、めでタく世界ノ敵じゃ。ぬしノ言う”人の心(・・・)”が(いた)まんノか?」


 詭弁を弄し、リーダーを丸め込もうとする化け物。特に考えもしなかった所に気づいたベルフィアにミーシャはちょっと感心した。ラルフはすぐ横でいぶかしい顔をしながらベルフィアを見ている。(”人の心”を吸血鬼(おまえ)が説くのか……)という顔だ。

 しかしリーダーの方にも落ち度はある。なんせ化け物に人の”(つごう)”を理解させようとしたのだから。


「なればこそ(わらわ)ノ提案じゃが、ぬしら人間は魔王様に平伏し、魔王様ノ為に生きヨ。そうすればラルフは助かりぬしノ言う”人の心”は保タれ、正当性まで得られル。これこそ正しい(・・・・・・・)。どうじゃ?」


「なるほど!領地を得て、民を得る。食事も食べ放題でウハウハじゃないか!良い働きだベルフィア!!」


「ありがとうございます魔王様」


 この一連の流れに唖然とするリーダー。


「何を無茶な……それではアルパザの民たちまで人類の敵になってしまうではないか!!」


「?何を躊躇すル?”人の心”は即ち人ノつながり。”人の心”を重んじルならラルフを助けルノが道理。なぁに、心配せんでも我らの事を民全員で黙っておけば良い」


 何という言葉狩り。

 何という強引で理不尽な提案。


 リーダーは完全に言葉を失う。情に訴えようとした考えを見事に打ち砕かれ、その上、それを利用され窮地に立たされた。魔王もその気になって興奮気味にふんふん息が洩れつつ頷いている。


「何言ってんだこいつ……」とか「頭おかしい……」とか周りの騎士たちも動揺を隠しきれない。


「くっ……はははは……」


 その時、痛みにより押し黙っていた団長がいまだ響く体に鞭打って笑い始める。突然の行動に敵味方関係なく、一同全員が少々驚く。


「……何がおかしい?痛みで狂ったか?」


 ミーシャは若干引き気味で団長に尋ねる。団長は細い笑いを続けつつ、ミーシャ一行に吐き捨てる。


「貴様らがどうあがこうとも、もはや遅い。黒曜騎士団、特に団長である私の定時連絡がなければ結局は同じ事だ!」


 少し痛みが麻痺し始めたのか、段々声が大きくなる。


「魔王よ!貴様の生存は世に知れ渡ることになりアルパザは結局戦場になる!人類がこの事を大々的に発表すれば味方に裏切られた貴様は魔族にも狙われることになるのだ!」


 その言葉を聞き、特に守衛のリーダーの顔が絶望に染まる。人が戦場を忘れる事の出来る唯一の憩いの場が、消滅の危機を迎えている事実。黒曜騎士団を受け入れた時点で、この領地は平和から一歩も二歩も破滅の道へ遠ざかっていたのだ。万が一団長が死ねば、アルパザを放棄しなければならない。(くだん)の団長は高笑いして調子に乗っている。


(何を笑っているんだ?お前のせいで崩壊一歩手前なんだぞ!!)


 心からリーダーは焦る。この言動に関して騎士団の部下の間でも反応は、「安全地帯の消滅」と「当然の帰結」の二つ。


「何千年もの間、守られてきたこの土地がたった一回の魔族侵攻で消失の憂き目にあうなんてあんまりだ」派と「目下戦争中であり、安全な場所など元よりなかった」派とに二分する。

 ざわざわ周りで話し合ってはいるが騎士は戦争を生業としている為、最後には当然後者に帰結する。結局アルパザを捨てる事に同意するだろう。


「分かるぜ、団長さん……命の瀬戸際となれば生き残るのに必死になるよな」


 ラルフはつい先日から始まったこの一大事を思い、共感を持って団長の言葉に寄り添おうとする。


「貴様と一緒にするなぁっ!!……ぁぐ……かは……」


 あまりに大声で否定しすぎて、体の痛みが再発する。弱々しい姿は一見したら小突いただけで昇天しそうだ。


「ん?つまり何が言いたい?」


ミーシャは頭に疑問符を浮かべラルフに助けを求める。


「いいか、ミーシャ。この人が言いたいのは”もし団長である自分を殺せば世界のすべてがミーシャたちの敵になるから殺さないでくれ”って事だ。つまり不遜な命乞いって所だな」


「あ、だから定時連絡か。なるほど、分かりにくい言い方だな」


 この見解を否定したい団長だったが、うめき声だけが聞こえる。痛みのせいでまた黙ってしまう。ある種、肯定と取られても仕方がなかった。「よしっ」と言って自分を鼓舞し、ラルフは手を広げ、注目を集める。


「ここまでの話を聞くに、誰もが自己の保身と可愛さに酔っているのが現状だ……そこで全員の意見を総括し俺から提案を言う」


 ラルフは聴衆の耳目が完全に集まるのを待って切り出した。


「まず俺たちはアルパザを占拠する」


「ふざけるな!!横暴もいい加減にしろ!!」


 リーダーはラルフの提案を遮り、声を荒げる。


「聞け!今あんたに発言権はない!」


 ラルフはそれをバッサリ切る。それを言うやミーシャの敵意が一瞬リーダーに向きそれに気づいた時「うっ」となって黙る。


「まぁ安心しろ二、三日したらアルパザから出ていく」


「おどれ何を言う!占拠とはすなワち統治!魔王様に献上されルべき土地であろうが!」


 ベルフィアも食って掛かる。ミーシャはベルフィアを見て手をかざす。


「落ち着けベルフィア。最後まで聞こうではないか」


 ベルフィアはすぐさま矛を収め、ラルフに続きを話すよう顎をしゃくる。


「この期間はいわゆる旅の支度期間だ。そこの団長さんの言う通り、既にミーシャの情報は知られていると考えた方がいい」


 これは黒曜騎士団に関してではなく”人狼(ワーウルフ)”の事だ。あいつらを取り逃がした事で既に取り返しのつかない所に来ている事は明白である。


「だからこそ一ヶ所に留まるのは危険だ。アルパザは一応拠点の一つに数え、時期が来れば放棄し、移動する。そこで団長以下黒曜騎士団の仕事だ」


 そこで何故自分たちが呼ばれたのか分からず、それぞれが顔を見合わせ疑問を感じている。


「団長さんが言う定時連絡に関して、嘘の報告をしてもらう」


 ザワッと空気が変わる。それは国を裏切る行為であり、一人がゲロったら全員の首が飛びかねない。


「”第二魔王、目下捜索中”と題して、書状を送りそれ以降の連絡を絶ってもらう」


 これはいわば人類側の情報を遅延させようという魂胆。魔族側で魔王の情報はいきわたり、裏で繋がっているマクマインに連絡は行くが、自分の兵からの情報がなくアルパザに急ぎ人を出す。特使が付いたら「アルパザ側は脅しにより屈した。逆らう事が出来なかった」という旨を伝達の後、騎士団を開放し、自由にする。


「俺達は既にいない為、脅しの証拠は失われるが騎士団が証言すれば丸く収まる。不謹慎で申し訳ないが、おあつらえ向きに死体もある。町民の一部にこの事を知らせ、口裏を嫌でも合わせてもらえば辻褄が合う」


 ベルフィアの眉がどんどん吊り上がる。眉間にしわが寄り血管まで浮き出す。


「ラルフ……そちはまさかこノ者どもを全員、生かすと云うておルノか?我らに対しあれほどノ蛮行をしでかしタ(やから)共ぞ?」


「言っておくがお互い様だ。お前も殺したし俺だって殺した。お前は団長にバラバラにされたし、俺も殺されかけた。死んでないだけラッキーだろうが」


 ベルフィアは顔を紅潮させる。上司の前で恥をかかされたからだ。


「……おどれ、あとで覚えとれヨ……」


 ボソボソと呟き、ラルフから視線を逸らす。


「さぁどうする?ベルフィアか、俺の提案か、好きな方を選べよ」

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