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第二十二話 戦力分析

 赤い魔力砲が放たれたのを確認し、ミーシャは急いで要塞に戻った。


「状況は?」


 長い通路を一人で歩きながら虚空に問いかける。それに対して返答があった。


「何ともない。イービルシードなんぞ一万匹来ようと対処は容易じゃ」


 いつ現れたのか、アスロンがミーシャの隣で歩いていた。それに対して当然のように頷く。


「ただ、あの蔓は不味い。あれはイービルシードはもちろん、他の植物系魔獣を生み出す。放っておくと永遠に決着が着かん」


「この要塞が無限のエネルギーなら”ジャック(あっち)”は無限増殖ってところね」


「ふむ、その通りじゃ。ところでラルフさんはどこに居る?一緒に戻ったのではなかったのか?」


 ミーシャは一瞬止まりかけたが、また何事もなく歩き始めた。アスロンが再度聞くより早く口を開く。


「……ラルフなら今バードの城に居る。ここよりは安全じゃないかもだけど、今は連れて帰れないんだ。理由は後で説明する」


 そのままズンズン歩いてエレノア達と合流した。真っ先にブレイドが駆け寄る。


「ミーシャさん!丁度良かった!母さんが話があるって……ラルフさんは?」


「後で話す。エレノア!」


 ブレイドの脇を抜けてエレノアの元に向かう。


「帰ってきたぁ?あれを見てよぅ。そういえばぁここって撫子の管轄だったんだねぇ」


「うん。あいつが動くなんて珍しいこともあるものね。私たちを狙ってきたか、或いは島を狙ってか……お前はどう思う?」


「それぇ私も聞こうとしてたのぉ。”ジャック(あれ)”を持ち出したってことはぁ十中八九島の制圧だと踏んだんだけどねぇ?」


「島の?それも十中八九って……どうして?」


「元々の拠点を捨てたってことになるのよぅ?せっかくの有利を捨てて不利な場所で戦おうなんてぇ戦争やったことない馬鹿でも思いつかないわぁ。つまりはホルス島を次の拠点にするべくやって来たと思うのがぁ妥当かなってぇ」


 ミーシャは空飛ぶ蔓草をまじまじと見た。言われて見ればそうである。撫子は自分から戦場に絶対に赴かない極度の面倒臭がり。腕力も魔力も強いし、特異能力が植物を操るという使い勝手の良い能力だ。少し足を伸ばせば滅ぼせた国はいくつもあっただろう。にも関わらず、その重すぎる腰を上げようとはしなかった。

 要塞を墜とそうとして持って来るにしろ、せめて大陸などの陸続きの場所で持ってくるのが理にかなっている。空を飛びながら、落ちれば植物が枯れそうな海の上で、正面から戦いを挑むなど正気ではない。

 つまりこのホルス島を次の拠点にしようと画策し、根をはる下準備として蔓草を浮かばせたなら納得がいく。


「……偶然に居合わせた説ね。そこまで納得のいく考えじゃないけど、私もどちらかと言うと偶然かなって思ってた。勘で」


「勘ねぇ。なるほどぉ、流石ミーシャらしいと言うか何と言うかぁ」


 二人肩を並べて敵を分析し合う。それを側から見ていたアルルが口を挟んだ。


「で?どうします?やっちゃいます?」


 槍をぎゅっと握って応戦を仄めかす。


「その必要があるかな?」


 応戦で場が固まりそうなところにアンノウンが声をかけた。


「二人の話を整理すると、島を侵略に来た矢先私たちが居た。一応雑魚を放ってはみたものの、瞬時に返り討ち。この要塞はとんでもなく強い。となれば、勝ち目は薄いと感じて逃げ去るのが常識ってもんでしょ?違う?」


 これも的を射ている。撫子の性格上、不利と見るや尻尾を巻くのが目に見える。


「つまり戦う必要がないと?」


 ブレイドも眉を顰めて尋ねる。ミーシャもエレノアも完璧な答えは出せずに「うーん」と唸った。そうなれば面倒はないかな?くらいのノリで蔓草に目をやった。

 イービルシードは相変わらず生成され続けて、空に広がる胡麻のようにその数は増え続けている。そこだけを見ると攻撃を仕掛ける為の下準備に見えなくもない。要塞同士、互いに睨み合って膠着状態に入った。じっとしていても帰ってくれなさそうだったので、ミーシャは一歩前に出る。


「行く気なのぉ?」


「ここで推察ばかりしていても埒が明かない。直接文句言いに行こうかと思って」


 肩越しにエレノアを見ながら前に進む。飛ぶ為に魔力を込めた次の瞬間。バード達が一斉に蔓草に飛んでいくのが見えた。要塞の間を器用にすり抜け、ぶつかることも停止することもなくスイスイと戦士達が先を急ぐ。突然のことに驚いたミーシャは足を止めてその様子に釘付けになった。


「……まさか撫子(ディアンサ)と遣り合おうって言うの?バードが?」


 本拠地の真ん前だからだとはいえ、図に乗りすぎている。相手は腐っても魔王。勝ちの目など考えることが烏滸(おこ)がましい。もしこれで撫子の怒りを買えば、島上陸までの過程に邪魔な建造物を蹴散らしにする可能性も考えられる。ここはこの要塞に任せて後ろで見ていれば良いのに、それほどまでに手柄が欲しかったのだろうか?

 そんなことを考えていると、突如アスロンに通信が入った。


「おお、ラルフさん。無事でしたか」


 アスロンは嬉々として通話に出る。そこで思いがけないことを言われたアスロンは驚きの表情を見せた。


「……は?いやぁ……しかしじゃな……」


「なんだ?ラルフは何を言っている?全員が聞こえるように開示しろ」


 ミーシャはアスロンに指示し、アスロンも逆らうことなく音声を開示する。


『……これしかないんだって。悪いんだけどミーシャに代わってくれる?』


 アスロンとの会話そのままにラルフの声が響き渡る。


「ラルフ私だ。何があった?」


『おお、ミーシャ。実はさっき空王から焦り気味に沙汰が降りてよ。攻めて来た魔族達を殲滅してほしいってよ。そいつが出来れば水竜の罪は免除ってことなんだが、やってくれるか?ミーシャ』


 あの罪がチャラになると言うなら殲滅を選ぶべきだ。ミーシャは自分の為、ラルフの為に力強く頷いた。


「いいよ。早く帰って来てほしいし、私に出来ることはこれくらいだしね」


『え?!……えっと、早く帰るのってのは……ちょっと……』


「ん?あれ?よく聞こえないよ?」


『と、とにかく!敵を細切れにしてやれ!お前に託したぞミーシャ!』


「ん、了解。任せて」

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