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第二十五話 王の集い

 王の集い。それは人類が魔族に勝利する為、一致団結する為に必要な繋がり。


 本日召集したのはマクマイン公爵。イルレアン国の事実上のトップであり、ヒューマンの中では最強の武力を所有する。若い頃は自身も戦場で勲しを上げるほど武に優れていたが、今では年を取って体力も落ちた。それでもその武勲を知るものからは称賛され、戦場に出る(つわもの)達の目標として今も君臨している。


「皆様、お待ちしておりました。突然の召集にも関わらずお集まりいただいた事に感謝します」


 今回は海王を除く王達全てが顔を出した。海王が今回参加できなかったのは、魔族の攻撃により命を落としたからだ。参加出来ないのも仕方がない。代わりに王子に参加するよう打診していたが、王国の修繕に勤しんでいるのか、あまり良い返事ではなかった。今も顔を出していない所を見るに、未だ落ち着いてないのだろう。ここは空気を読んで王子の参加を見送る。


『貴殿からの招集とは珍しい事もあったものだ。そういえばつい先日のカサブリア王国(キングダム)の一件は見事であった。その後あの王国はどうなった?』


 エルフの王、森王は少し前までの暗い雰囲気から一転、調子を取り戻している。色々なゴタゴタが収束してから落ち着いたと見える。そんな森王の質問には獣人族(アニマン)の王、獣王が答えた。


『……我等ガ占拠シテイル。案ズル事ハ無イ』


 森王の調子とは逆に獣王の方は機嫌が悪い。いや、獣王の機嫌が悪いのはいつもの事だ。


『カサブリアはいずれ貴方がどうにかすると信じておりました。それより私的には一角人(ホーン)の領地に現れた「八大地獄」とか言う輩の方が気になりますなぁ。刃王と響王はその後の対処をどうされたのかお聞かせいただきたいのですが……』


 ヒューマンの王、国王はイヤらしいニヤけ面で水晶の角が煌めく二人の姿を見る。


『奴らの詳細は未だ分からん。第一、近寄る事も適わんのだから』


 こう呟くのはホーンの王、響王。八大地獄という厄介な連中が現れたのは響王の領地であり、第二魔法部隊を瞬時に全滅させられた。響王に補足するように刃王も口を開く。


『奴らの要求は日増しに増え、さらに悪化している。何というか、私の領地で無かった事は幸運だったな』


『ふざけるな刃王。……近く皆の手を借りる事になると思うが、その時は宜しく頼む』


 響王は全員の顔を見渡し、会釈程度に頭を下げた。


「ふむ……個々に気になる事があるのは理解しますが、私語は慎んで頂けますかな?」


 公爵は好き勝手話し出す王達を嗜める。公爵のこの言い様に文句の一つも言いたいところだろうが、正論故に皆押し黙る。


「……理解して頂けたようで何よりです。今回集まっていただいたのは他でもなく……」


『その前に、ちょっと良いかしら?』


 翼人族(バード)の王、空王はせっかく本題に入ろうとする公爵を遮った。肩透かしを食らった全員が訝しい顔を空王に向ける。公爵もため息をつきながら「どうぞ」と促した。


『まだ空きがあるようだけどそれは良いの?』


 海王の顔が映るはずの魔鉱石を指差す。


「……これは失礼しました。一言伝えるべきでしたね。一応王子に声を掛けてはいます……いますが、まぁ見ての通りです。彼らの事情をお察しください」


「云わなくても分かれ」という声が聞こえそうな皮肉と嘲る声質。公爵の苛立ちが透けて見える。


『……ま、それもそうね』


 空王は特に食い下がる事もなく下がる。一言何でも良いから言ってやりたかった負けず嫌いなところが出たのだ。公爵は鋭い目で見渡す。


「……これ(・・)の他に、何かありますかな?」


 語気強めに威圧する。公爵はその表情こそ変わらないが明確に怒っている。これ以上公爵の気持ちを逆撫でするのは不味いと思われたその時、


 ザ……ザザ……


 海王のホログラムが反応した。それに気付いた面々は不思議な顔でそれを眺める。


『おやぁ?ふふふ、優秀ですなぁ。何処かの誰かさんとは大違い……』


 国王は公爵を流し目で見ながらニヤニヤ笑う。逆撫ですべきではないと理解しながらも止めない姿勢。頂点の連中はとにかく気位が高い。そんな国王の言葉を尻目に誰もが王子の登場を幻視した。だが、そこに移ったのは魚人族(マーマン)特有の魚顔ではなかった。


『おお!すげぇな、錚々(そうそう)たるメンバーだ』


 そこに移ったのは、草臥れた茶色いハットを被る黒い髪で無精ひげのヒューマン。


「は?……え?……ラ、ルフ?」


 公爵は何が起こったか分からない顔をして、突然の事に瞳孔すら開いた。


『ちょちょちょ!?ラルフ殿!!映ってます!映ってます!!』


 顔こそ映っていないがその声はマーマンの王子の声だ。


『は?……え?これ今俺が映ってんの!?だってさっきそっちが……』


『もー何やってんのラルフ』


 さらに女性の声も入る。公爵のトラウマがその瞬間に湧き上がり、脂汗が吹き出した。最も信頼する部下のゼアルからの報告では、ラルフの側に常に史上最強の魔王がいると聞いている。十中八九”(みなごろし)”に違いない。


『コ……コリャア、一体……ドウイウ……』


 獣王が呟く。それはここに集まる王達の気持ちを代弁している。


『き、貴公は……』


 森王も驚きのあまり顎が外れるのではと思えるほど、あんぐりと口を開けていた。ラルフは全員の顔を見渡して、恥ずかしそうに後頭部を掻いた。


『……あ、どうも……俺、ラルフって言います。いやぁ、こんなつもりじゃなくて……』


『……どんなつもりじゃと……言うつもりじゃ?』


 目の端に映る髭もじゃの影は怒りを顕にしていた。山小人(ドワーフ)という事は”鋼王”だろう。”王の集い”に邪魔が入ったのがそこまで気にくわないという事だろうか?違う。この怒りはゴブリンの丘を襲撃したと勘違いしている為に来ているのだ。


『本当は側からこの集いの様子を見るつもりだったんだよ……後で公爵に用事があったっていうか、その……んーまぁ、こうなった以上は仕方ねぇよな。せっかくだし俺達の誤解を解くのも兼ねて、徹底的に話し合うなんてどうでしょう?』


 その提案は集まった王達の頭の中を一瞬で空っぽにした。それもそうだろう。突如現れた下の下の存在。肩を並べるどころか目を合わせる事すら不敬な、そんな奴からの提案。唖然とするのも無理はない。


「ふざけるなっ!!ラルフ!!」


 バキャッ


 机に拳を叩きつけ、せっかくの高価な机に穴を開ける。誰もがその感情の発露に驚いた。マクマインという男はどんな時にも冷静に、どんな時にも淡白な機械の様な男だった。だが、ラルフという男の前に必ず気持ちの発露がある。喜怒哀楽、全てが詰まっている。


「貴様には何も権限はない!今すぐに通信を切れ!!でなければそこの通信機、叩き壊して……!!」


『待テ、良イ余興ダ。コノママ続ケサセロ マクマイン』


 その声にギロリと殺意ある目で睨みつけた。獣王はニヤリと笑って公爵を見る。いつも涼しい顔で流されている獣王にとっては心が踊るほど楽しい状況だ。コツンッと机を硬い物で叩く音が鳴る。空王が爪で自分の机を叩いた音だった。


『良いじゃない。こんなサプライズがあっても』


 空王にも睨みを利かしながら口を開く。


「お二人共……これは遊びでは無いのですよ?」


『うん、確かにその通りだ。これは遊びでは無い』


 国王は公爵に乗っかるように声を上げる。国王という仲間をつけた公爵の顔は少し緩む。


『だからこそ彼の言い分も聞いてみないかね?彼の言う誤解とやらを私は聞いてみたいと思ってねぇ……』


 国王は単にラルフに対する興味から口を出したに過ぎない。また表情は強張り、他の王達に目を配る。十二の席の内、三席も肯定したのだ。他は様子見に入った。


(どいつもこいつも……!!)


 心の内でキレ散らかしながら、頼みの綱として最後に森王に目を向けた。森王は少しの間目を閉じていたが、何かを思い至ったように目を開く。


『……良いだろう。ラルフよ、君の誤解とやらをここで解いてみせるが良い』


「……馬鹿な……!?」


『オ?森王モ ノリノリ ジャネーカ。他ノ奴等モ構ワネーヨナ?』


 公爵以外は同席を黙認した形だ。公爵は死んだような表情で呆けている。ラルフも自分で言っといて許可が下りた状況に驚き、戸惑いながらも言葉を紡いだ。


『さ……流石、王様は懐が深い。えっと……この会議を乗っ取って悪いが、手短に済ますから許してくれよな。それじゃ先ずはゴブリンの丘から行こうか?』

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