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第三話 少数精鋭

 イルレアンから出立したアスロンとブレイブ。途中まではブレイブの部下が付き添いで周りを囲んでいた。目指すはヒューマンの王が支配する国「ヴォルケイン」。一行は一週間ほどの時間を掛けて、無事にヴォルケインに到着した。到着の日程を教えていた為、街を囲う壁の外には多くの兵士が出迎えた。


「お前らはここまでで良い。戻って国の為に尽くせ」


 ブレイブは部下に向き直り、イルレアンに引き返すよう命令する。


「団長、俺らも戦います。その極秘任務に一緒に連れてってください」


 肩幅が広く、ごつい顔立ちの青年はブレイブの身を案じて作戦の参加を申し出た。ブレイブはフッと優しく微笑む。


「バクス、お前の忠誠心には頭が下がるよ。だが国を守る事も立派な使命だ」


 黒曜騎士団のバクスといえば、現在の第二部隊隊長のバクスその人である。ゼアル団長の代わりを勤める事の出来る優秀な男だ。ブレイブは当時新人だったバクスの肩をポンッと叩いた。


「俺の代わりに国を頼む。お前らもだ。イルレアンをあの頃に戻さないようにしっかり励め」


「はい!」


 その光景を端から見ていたアスロンは感心する。


「素晴らしいな。魔法省も自分の研究ばかりでなく、騎士団を見習って、思いやりを大事に出来るように意識を変える必要があるのぅ」


 アスロンは素直に感動しながら帰国の楽しみを考える。帰国後やりたい事があるというのは、いざという時の活力になる。魔族と戦い、死の間際に追い詰められても、最後の一線を死守出来れば命を拾うことに繋がるのだ。


「……分かりました。御武運を、ブレイブ団長」


 熱意ある男、バクスもブレイブの言葉に感動し、団長と国の為に極秘任務への参加を諦めた。小さくなっていく供回りの背中を見送った後、二人はヴォルケインの兵士の元に向かった。



「ホゥ……コイツガアノ黒曜騎士団ノ団長カ。イルレアンノ件ハ"クリムゾンテール"ニモ届イテイル。大活躍ダソウダナ?」


 肩幅が広く、山のように大きな熊のアニマン。その名もベリア。クリムゾンテールでは最も腕力のある男と噂されるアニマンでも指折りの闘士。


「あんたもな。クリムゾンテールの怪力男」


 ブレイブはニヤリと笑って言い放つ。ベリアは女性の胴回りもありそうな太い腕を前方に組むと、口の端しを釣り上げてグルルと唸った。


「ふむ、ここに集まった全員で自己紹介と洒落込もうではないか。どう思う皆の衆」


 見るからに年長者のアスロンは部屋に集まった連中を見渡して提案する。


「誰も彼もが素晴らしい功績を持つ有名人だが……会話の出だしとしては名案だな」


 ブレイブはおどける様に肩を竦めながらアスロンに賛同した。言い出しっぺのアスロンが「それでは……」と一歩前に出た。


「儂の名はアスロン。イルレアン国の魔法省で局長をしとった。根っからの研究員じゃが、そのお陰もあって魔法には精通しとる。年こそ食うとるが皆の足は引っ張らん」


「ふんっどうだか……」


 嘲りの姿勢を見せたのは長い耳のエルフ。見た目では若く見えるが、その実このチームの最年長である。


「ソウ言ウ オ前ハ?」


 斜に構えていたエルフは、呟いたのに若干後悔しながら「フンッ」と鼻を鳴らした。


「我が名はオリバー=クロフォード。エルフの弓兵だ」


「やっぱそうか!あんたがオリバーか!エルフェニアの英雄。彼のアイザック=ウォーカーとタメを張れるほどの弓兵。一緒に戦えるなんて光栄だ!」


 手を叩いて喜びながら握手を求める。その手を見た後、ギロリとブレイブの目を睨んだ。


「……この手を下げろヒューマン」


 心を開く事のないオリバーを見ながら「そうか」と一言呟くと差し出した手を握った。後ろに下がりながら皆に聞こえる様に声を上げた。


「俺の名はブレイブだ。覚えておいてくれ」


 ブレイブの自己紹介が終わると、まだ済ませていない奴に視線を合わせる。


「あ、あの……わ、私はソフィー=ウィルムです。あの……ホーンです」


「見レバ分カル。オ前ハ何ガ得意ナンダ?」


「わ、私もアスロンさんと同じで魔法が……その得意っていうか……」


「何ダ?ソレダケカ?ホーンハ魔法ガ得意デ有名ナ種族。選定サレタカラニハ他ニモ何カアルダロ」


「えっと……その……」


 ベリアの目を見れずにしどろもどろなソフィー。ブレイブがたまらず口を出した。


「……ソフィー=ウィルムといえば確か僧侶だったな。不死の魔物を絶対に許さない”アンデッドイレイザー”。ホーンでも指折りの凄腕らしいぜ」


「あ、えっと……凄腕ってほどじゃ……まさかご存じだとは……」


「名前だけはね。まさかこんなに美しい女性だったとは思わなかったけどさ」


 ブレイブはとぼけた顔で皆を見渡す。ソフィーは「そそそ、そんな美しいだなんて……」と赤い顔を両手で挟んだ。


「なぁに言ってんのよ、単なるおべっかでしょ?」


 背中に羽を生やしたバードの女性は「はんっ」と呆れ気味に鼻を鳴らした。折角、喜んでいたソフィーはガクッと肩を落として悲しい顔を向けた。


「あたしはイーリス=ベリタージュ。槍兵。先に言っとくけど足手まといは背後に気を付けて。あたしキレたらブスッといっちゃうから」


 手に持った高級そうな槍をチラつかせて脅しかける。


「雨穿つイーリス。その二つ名の通り、雨の水滴の一粒すら見逃さない凄まじい精度を誇る槍術らしいな。期待してるぜ」


 イーリスは冷ややかな目でブレイブを見た後、プイッと顔を背けた。


「最後ハコノ俺。怪力無双ノ”ベリア”様ダ。良ク覚エトケ」


 グワッと組んでいた腕を解いて腰に持ってくると胸を張る。自分で「怪力無双」という辺り、かなり自信過剰とも取れるが、その実力は折り紙付きだ。


「一先ず全員の自己紹介が終わったのぅ。各種族で最高峰と評される皆さんがいれば魔王などものの数ではあるまいて」


 この部屋のチーム全員がその言葉に無言で賛同する中、扉が大きく開かれた。


「はっはっはっは……いやいや、そう楽観的に考えたら足元を掬われるぞ?」


 そこに現れたのは上から下まで役人でも中々仕立てられなさそうな豪華な衣装を着込み、高価なローブと王笏、そして頭の上にこれ見よがしに乗っかった王冠が光の反射で輝きを放つ。背後からは屈強な警備兵がいかにもな鎧を着込んで一緒に部屋に入ってくる。

 彼こそヴォルケイン国の王、フリード=V(ヴィルヘルム)=ハイドクルーガー。

 空に浮かぶ雲の様に掴ませない飄々とした性格。常に俯瞰から見ている様な抜け目なさに、少年の様な好奇心を併せ持つ、歴代でも一番俗物的な王である。「エルフの近親者」と陰口を叩かれるくらい他人を見下してかかる。本人もその噂を知っているが「エルフに例えられるとは光栄だ」として皮肉交じりに黙認している。


「これはこれは国王陛下。儂らをここ「ヴォルケイン」にお招きいただき感謝の極み」


 アスロンは一人率先して最敬礼で国王を迎えた。ブレイブと慌てたソフィーがそれに続いたが、他の三人は踏ん反り返って静観していた。


「……ん〜?ここに集いし英雄たちに報いたく参上したが、余計なお世話だったかな?」


「決してその様な事は……」


 アスロンは肩越しに例の三人を見たが、態度を改めるつもりはないらしい。視線を戻して頭を下げた。


「ふふふ、冗談だ。私は一介のヒューマン。ただ皆の上に立っているだけよ。そう堅苦しくせず、出発までの間は存分にわがままを申し付けよ。最期のひと時と噛み締めてな……」


 ニヤニヤ笑いながら立派な口ひげを撫でる。本当にこの王は何を考えているのか掴めない。皮肉にしても卑下しすぎではないだろうか。国王なりの感情の発露と捉えたブレイブは鞘ごと剣を腰から引き抜き、アスロンに預けると国王の目の前で跪く。


「……陛下、数々の無礼をお許しください。我らは戦士故、国王に対する礼を欠く事がございます。それが失礼にあたる事とも知らずに……」


「なっ……!貴様っ……!!」


 オリバーは怒りで顔を歪める。ベリアもイーリスも内心穏やかではない。


「しかし、それも強さにのみ重きを置いた研鑽の年月故の事。彼らの行動が陛下の逆鱗に触れたのであれば、そんな彼らの力を信じて招集をかけたイルレアンの罪。即ち私の罪。彼らに代わり、私が全ての咎を背負う所存。如何様な処罰も受け入れますので、どうか彼らをお許しください」


 ブレイブは自ら首を差し出して謝罪した。その言動に一様瞠目する。


「はっはっは、流石は彼の公爵の最も信頼する騎士だね〜。……まさにその通り。純粋な戦闘能力は魔族に対抗する唯一の手段。それ故に傲慢になる者も出る。貴殿の私に対する危惧は当然の事と察っしよう」


 国王はブレイブに歩み寄り、肩に手を置く。


「……貴殿のその危惧は全くの杞憂ではあるが、嬉しく思うぞ。先も言ったが部屋にメイドを置くでな、何かあれば遠慮せずに申し付けよ」


 国王は満足したのか、部屋に居た連中を一瞥した後、ローブを翻して部屋から出て行った。しばらく動く事もなく見送った一行は、誰からともなくブレイブに注目する。


「……オ前、俺達ノ リーダー ニデモナッタツモリカ?俺達ヲ差シ置イテ、ヒューマン如キガ良イ気ニナルナヨ?」


「ほんとそう、言ってくれたわね。何の取り柄もない様なヒューマンが図に乗ってさぁ……」


 言いたい放題である。怒り心頭だと思われる国王の矛を収めさせたというのにあんまりだ。ソフィーはこの二人の理不尽な物言いに何か言いかけたが、イーリスの「でも」という言葉で口を閉じた。


「やるじゃん。ヒューマンのくせに」


 その表情は柔らかく、先ほどのツンケンした態度とは印象がだいぶ変わっていた。


「どうも。出来ればブレイブって呼んでもらえると嬉しいなぁ」


 ブレイブは跪いた姿勢から立ち上がり、膝のシワを叩いて伸ばしていると白く透き通る肌の手が差し出された。


「あ……っと?」


 その手を追って上を見上げると、そこにはオリバーの顔があった。その驚きは筆舌に尽くし難い。


「……手を取れ、ブレイブ」


「ははっ」と笑って握手する。軽く握り合うと、どちらからともなく手を離した。


「……とりあえずは、最強チーム結成かのぅ」

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