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第二話 親友

 すっかり陽の落ちた暗闇にも、その存在を主張する白い荘厳な建物「魔法省」。敷地内には魔鉱石をより集めて出来たエネルギー源があり、昼夜問わず煌々と魔力を生成し続けている。

 何らかの不具合が生じてはエネルギー生成に支障をきたすので、朝晩交代制の警備と研究者が丸一日中詰めていた。局長であるアスロンも時折顔を出したりしているのだが、今回は先客がいて、緊急でもない限りはこの応接間から離れる事はない。


 魔鉱石管理場から多少距離がある本部。ロビーはおろか、研究室も光が消えたこの建物に、一部屋だけ明かりが灯っていた。


「やぁ、アスロンさん。会うのはいつぶりかな?」


 その部屋にいたのはアスロンとブレイブの二人。数日前に文書で届いた内示の為、会う約束を取り付けていたのだが、二人とも中々暇を作れずにいた。今日一日はこの男の為にあったと言って過言ではない。まるで密会と言わんばかりの状況で、ブレイブは真剣な顔で声をかけた。


「そうじゃなぁ……ってそんなに経っとらんじゃろ。近頃良く会うし、先週も一緒に仕事しとるじゃないか」


「……だったっけ?」


 二人は顔を見合わせ笑い合う。魔法省で初めて顔を合わせてから、既に三ヶ月の月日が流れていた。公爵の元で重要な任務を預かる者同士という立場に共感した二人は、特に強制される事もなく苦労を分かち合い、良き友として自己を高め合っていた。性格の相性が良かったようで、相談や過去話などを酒の肴に語らい、いつしか親友と呼べる関係にまで発展していた。


「マクマインの奴、最近つれなくてさ。忙しい忙しいって飲みにも行けてないんだぜ。体壊さねぇか心配だよ」


「大丈夫じゃろう。ああ見えて自分の体の事は良く管理出来とる。まったくの杞憂じゃて」


 アスロンは自家製のお茶をブレイブに差し出した。ポットで温もったお茶は五臓六腑に染み渡る。


「研究過程で育てた薬草を乾燥させたものでな。多少ブレンドして香りを立たせてはいるが、こっちの方もまだまだ研究が足りんわい」


「何言ってる、すごく美味しいよ。飲んでるだけで健康になりそうだ……そうか、マクマイン(あいつ)に飲ませてんだな?だから健康に関しては大丈夫だって言ってんだ。そうだろ?」


「はっはっ!よう分かったのぅ。当たりじゃ」


 二人は幾日かの空白を埋めるように会話を弾ませる。研究成果、後任育成、生活に関することからアスロンの娘の事まで色々と。ある程度の近況を話し合った頃、本題に入った。


「ところで、内示の件じゃが……」


「ああ、魔族との戦争だな。この国の事は大体片付いたし、そろそろ来るんじゃねぇかとは思ったが……」


 二人は気乗りしないと言った風で俯き加減に話し合う。


「この際、生き死にを置いといても、儂ら以外の連れはどうなっとるんじゃ?公爵が内示を下したのは他にもおるんじゃろ?」


「それはまだ……近く内々に発表されるだろうが、あの文面から察するに少数精鋭ってことになるだろうな。人族を襲撃するのとはワケが違うと言うのに、マクマインは何を考えているのか……」


 珍しく弱気な態度を見せる。公爵の手足として働いてきたとはいえ、全てを周到に準備したイルレアン国の奪還作戦でも人との(いさか)いで死ぬ事があったというのに、知らぬ土地で補給もままならないまま魔族と戦えば今度こそ命はない。極め付けは内示と言うだけあって、極秘作戦で事を進めなければならない。一応、頂点の王同士が話し合いの末に決定した事なので、旅の道中は関係者が世話役に回ってくれるらしく、路銀に関しては問題ないだろう。頭を悩ませるのは誰と何人で行くかだ。


「うちの団員を出せれば多少なりとも安心出来るんだが許されてない。魔法省からの参加もアスロンさんだけって感じだな。あいつに直接聞きたいところだが「忙しい」ってはぐらかされちまうんだよなぁ……」


 ブレイブもアスロンも腕を組んで唸る。


「ここからはただの予想なんじゃが……もしや公爵はヒューマン以外の手練れを用意するのではなかろうか?」


「ああ、確かに。ありえない話じゃないな……とするとアニマンとかバードとか、長距離対応のエルフや魔法特化でホーンなんてのも良いな。マーマンは陸上では論外だし、ドワーフは戦士としては優秀だけど里から出そうにないんだよな……」


「いやいや、いざとなればどんな者達でも共に戦う味方。編成されれば喜んで肩を組もうぞ」


「はは、流石年長者は言う事が違う。俺も見習わなきゃな」


 二人で駄弁っていると、コンコンとノック音が聞こえた。


「ん?どなたかな?」


 アスロンは椅子から立ち上がって扉を開ける。そこに立っていたのは娘のアイナだった。


「お父様」


「おおアイナ。今ブレイブ殿が来て居ってのぅ。丁度良い、入りなさい」


 アスロンはアイナを招き入れる。


「失礼します」


 頭を下げて入ってきたアイナはブレイブの顔を見てニコリと笑った。


「これはどうも、ブレイブさん」


「おー、何年振り?」


「二日ぶりです。その面白くないジョークを毎回してて楽しいですか?」


「ちょっとからかっただけだろ?手厳しいなぁ」


 ブレイブは肩を竦めてお茶をすする。アスロンは二人の顔を交互に見て、何かに気づいたようにウンウン頷いた。


「おやおや……ふふふ、これは目出度き事。しかし悲しい哉、そういう仲ならばアイナには話しておかねばなるまいて……」


「?」


 アイナは首を傾げながらアスロンを見た。ブレイブはコップを置いて「いいのかよ?話しちまって……」と渋るが、アスロンはその懸念を右手で制す。


「儂らに公爵から内示が下ってのぅ。イルレアンから離れる事になった」


「え……?」


「出国の際は今一度報せる。その時はもう少し詳しく話そうと……」


 その言葉にアイナは俯く。


「いつ……お戻りになるのです?」


 その問いはブレイブに向けられていた。


「うーん、内容次第だが……早く帰れる事を祈るのみだ」


 楽観的と言える澄ました顔で天井を見ながら答える。


「ブレイブさん……ブレイブ、こっち見て」


 アイナは真剣な顔でブレイブを見る。その圧に気圧されてブレイブはアイナに目を向けた。


「絶対無事に帰ってきて……お父様も」


「儂ゃついでかい」


 この話し合いの三日の後、二人はイルレアンから出立した。

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