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第三十四話 激戦

 白絶の鎮座する部屋からするりと脱出したラルフとウィーとアルルは、転移の罠がひしめく通路を走っていた。通路には魔力が流れるパイプの様なものがあり、時折キラリとその存在を主張する。


 パイプを走る水の如き魔力。この魔力の根源に制御装置があると踏んでいたのだが、実際は白絶の部屋から流れ出ていた。アルルの見立てでは白絶の部屋で行使されているのは、炭鉱跡の罠と同じく魔鉱石を媒介にした転移魔法。どんなに迷っても最終的に白絶の元へと辿り着けるように設計されていると考えた。


「きっと外の霧は別の魔法陣が組まれているはずです!これだけ大規模な領域魔法と転移魔法を一緒にするのは不可能ですから!」


 走りながら持論を展開する。


「ハァハァ……本当に、言い切れるのか!?」


「ええ!互いの力を打ち消しあってどちらかが作用しません!」


「!……アルル止まれ!」


 バッと手を出して二人は足を止める。転移の兆候を見たラルフは罠が作動するのに身を任せて転移をした。今どこにいるのか分からないままアルルに向く。


「フーッ……問題はその部屋の場所だな。ウィーは分かるか?」


 腕に抱えたウィーを覗き込むが、ウィーは困り顔でうつむいた。


「魔力は難しいか……」


「そっかぁ、ウィーが頼りだったのに……」


 三人で困った顔をしていたが、不意にラルフがパイプの光を見て呟く。


「……この光の行く先にあったりしないか?」


 大規模な領域魔法となると魔力が常に供給されているはずだ。何故それに気付けなかったのか。


「……そうです。それですよ!制御装置はきっとこの光の行く先にあります!」


 アルルはパンっと手を叩いて喜ぶ。


「ああ、まぁ……あくまで可能性だが辿る価値はあるな。転移の罠は常に作動していて起動した時が厄介だ。もしかしたら制御装置には行けないように操作されている可能性もある。戦っているあいつらの為にも急いで見つけるぞ!」


「おーっ!」「ウィーッ!」



 ギィンッ


 硬質な音が鳴り響き、メラとの鍔迫り合いから離れるカイラとエールー。


「二人掛かりでもまだ余裕があるなんて信じられませんわ!」


 カイラは驚きから素直な感想が出る。と、そこにシャークとリーシャが突然合流した。


「ちょっと!どうしたのシャーク!?」


「ああ?!イーファの奴がここに弾いたのよ!別に来たくて来たわけじゃ……」


 メラとイーファも合流して二人で剣を合わせた。


「まさか……!避けて!!」


 交差させた剣を振るうと強烈な斬撃が空を切って飛んでくる。姉妹同士で力を合わせて飛ばす斬撃「烈風斬」。息のピッタリ合った同時攻撃による真空の刃はメラとイーファの得意なコンビ技だ。


「うっ……!?」


 バギィンッ


 回避が間に合ったのはカイラとエールーとシャーク。リーシャは回避が間に合わず、剣を盾にして吹き飛ばされた。それを確認してイーファがメラから離れた。組みを分断してすぐさま倒せそうなリーシャに狙いを定める。


「!!……ったく!リーシャ姉は鈍臭すぎるのよ!」


 シャークは走ってリーシャのカバーに向かう。しかしシャークの背後にメラが迫っていた。


「シャーク!!」


 エールーが声をかけるがすでに遅い。シャークの脇に抱え込んだ頭に刺突が放たれる。


 ギィンッ


 メラの剣はシャークの頭に掠る事もなく弾かれる。カイラとエールーでは間に合わなかったが、空中で回転しながらダガーナイフを振るう黒いライダースーツに助けられた。


「……アンノウン!助かった!!」


 ザッと着地を決めたと同時にシャークとイーファの剣が打ち合う。


「油断禁物……ってね」


 ナイフを一度も振るった事が無かったアンノウンだが、この世界に来た時に得た余りある驚異の身体能力でメラの一撃を防いだ。


「ごめんなさ〜い、こちらも手伝って下さる〜?」


 アイリーンとシーヴァはティララの攻撃にヘトヘトになっていた。カイラの次に剣の腕があるアイリーンのお陰で何とか戦えていたが、そろそろ厳しくなってきたようだ。


「ん、了解。こっちは任せたよエールー。カイラもね」


 アンノウンはウィンクで合図を送ると眼前のメラから離れる。


「りょ、了解ですわ!」


「キザですわね……でも嫌いじゃありませんわよ!!」


 ガギィッとかなりの一撃でメラに迫る二人。アンノウンがちょくちょく手を出す事でデュラハンたちは危ない場面も何とか乗り越えていた。


 ガンッ


 顎を粉砕する一撃。生き物ならこの一撃で死んでいるが、ベルフィアには関係ない。一瞬の内に再生しながら強烈な拳をジュリアに放つ。


 ボッ


 その一撃に当たれば致命傷である事は間違いない。しかし当たらなければどんな凄まじい攻撃も意味はない。頭の上部に生えた耳に拳を振り抜く風を感じながら、抉り込むようにベルフィアの腹に中段突きを放つ。


 ゴリュッ


 肋骨を巻き込みながら鳩尾に拳が飲み込まれる。内臓を体内で抉り切る一撃はベルフィアの体を吹き飛ばした。地面に背中が着くかと思われたが体を半回転させて地面に手をつくと、バク転を繰り返しながら威力を殺す。最後にはバク宙を二回転決めて難なく着地した。本来赤黒く拳の形に凹むはずの鳩尾は何事も無く綺麗な状態だ。攻撃したのかも疑わしいほどに綺麗に治ったお腹を見て眉間にしわを寄せる。


「ハァ……モウ良イ加減ニシテヨ……」


 アルパザの戦いからこっち、何度も何度もベルフィアの脅威に晒されてきた。再生能力、攻撃力、そして体力。多少慣れて絶望までしなくても流石に辟易する。ベルフィアはそんなジュリアの表情など意に解する事なく突進した。


「フッ……操ラレテチャ何時(いつ)モノ軽口モ叩ケ無イ、ワネ!」


 ブンッと空を切るベルフィアのハイキック。大振りの攻撃を躱しながら、隙間を狙って攻撃を仕掛ける。ジュリアの戦闘技術はこの戦いの中で格段に進化していた。徐々に洗練され、疲れない動きを見つけて実践する。体力は確実に減っていくが、この戦いの始まりと今とでは体力の減り方が大きく違う。


(……コレナラ モウ少シ頑張レソウネ)


 倒そうなんて考えない。ただ時間を稼ぐ。ラルフがこの状況を打開するまでは大きく戦況は動かないのだから。それぞれが尋常ならざる戦いを続けている中、別格と呼べる戦いがすぐそこで行われていた。硬質な音が鳴っては離れ、鳴っては離れを繰り返す攻防など児戯に等しい。

 白絶の唯一の部下である喪服女は、両手に携えた十字架のようなロングソードを巧みに使ってブレイドに斬りかかる。ブレイドはその凄まじい剣撃を受ける以外に行動手段がなかった。防戦一方とはいえ、ついて行けているブレイドは上級魔族に片足を突っ込んでいると言って過言では無い。誇るべき戦闘能力だが、そんな事を悠長に考えていられるほどこの攻防は安く無かった。


 ギギギィンッギィンッガギギギギ……


 途切れる事なく鳴る音は、起動している何らかの機械に鉄の棒でも突っ込んで壊そうとでもするような……生き物同士が剣で戦い合っている音では決して無い。というか生き物が出してはいけない音だ。

 的確に急所を突いてくる喪服女の剣はブレイドの恐怖を煽り、着実に神経をすり減らしていく。いつもならキレて魔族の力を引き出しながらゴリ押しで行くところだが、ゴリ押しでは決して勝てない存在だと体で分からされる。

 ブレイドの本来の戦い方はガンブレイドを利用した遠距離、近距離を使い分けて牽制する賢い戦い方だ。このガンブレイドの魔力砲なら大抵のものは消滅させられる。だが、今回はそういうわけにはいかない。船内の領域魔法でガンブレイドの魔力砲を封じられている。その上、アルルの支援も無い今の状態では最終的にミンチになるのがオチだ。

 助けなど呼べない。今ようやく目が慣れてきたところだというのに、自分以外の誰かがこの速度に今からついて行くとなれば足手まといは必至。

 もちろんミーシャやベルフィアがいれば別だ。あの二人ならこの状況は軽く打開するだろう。その頼れる二人は今は敵。正直放って逃げ出しても英断だったと褒められるレベルの戦いだ。


(……逃げる?)


 自分の境遇が電撃に打たれたようにフラッシュバックする。

 今まで人里に降りた事はない。アスロンから教わった言葉遣いや処世術でこの世界のことを知った気になり、自分の存在を隠しながら生きてきた。それを解放してくれたラルフ達がいるから今ここでこうして外に居る。外の世界を知る事も無く死にゆく定めだった自分に与えられた光明。半人半魔(ハーフ)である自分と一緒に居てくれる仲間達。そんな仲間を見捨てて逃げ出す?


(絶対嫌だっ!!)


 消えかかっていた戦闘意欲が再燃する。ミーシャとベルフィア、デュラハンの姉妹を救う。勘と動体視力で何とかなっていた状況はこの瞬間ガラッと変わった。

 今まで怒りなどの感情でスイッチを入れていた魔族の力を、使命感という違う形で切り替えた。変化は著しいものだった。それを機に剣の精度は目まぐるしく上向く。


「……!?」


 簡単に殺せると思っていた少年の戦闘能力はあり得ないスピードで上達し、喪服女の剣の速度を一瞬上回る。


 ギィンッ


 メラ、ティララ、イーファの三人掛かりですら成し得なかった剣を弾く行為。白絶の魔法糸で操られ、戦いが流れたからこそ助かったのだ。もし戦っていればタダでは済まなかっただろう。そんな猛撃をブレイドは防ぎきり、さらに彼女に距離を開けさせることに成功した。

 喪服女はバッと顔を上げてブレイドを確認する。その姿は先の状態とは一線を画す。肌は褐色に彩られ、瞳は黄金の輝きを放つ。ヒューマンだったはずの名残は消えて、魔族そのものと呼べるほどに変化した。


 紅い瞳でブレイドを睨みながら剣の握りを確かめる。小手調べのつもりで剣戟に興じていたが、ここにきて怪物を生み出してしまったようだ。


「……半人半魔、ですか……初めて拝見致しました。私を前に何時迄も力をお示しにならなかったのは手加減をされてたのでしょうか?」


「……ああ、そのようだな」


 自分でもビックリだ。ここまでハッキリと力が覚醒したのは初めてのことだったから。


「……お戯れを……」


 この年まで生きた半人半魔(ハーフ)と戦っている事実に、自分の中での世界の常識がひっくり返る気分だった。


「……しかし私の敵では御座いません」


 剣を掲げてブレイドを牽制する。さっきまでとは立場が逆だ。多分得体の知れない者に対してどう戦うべきか測りかねているのだろう。ブレイドも自分の力を測りかねている。喪服女と同等か、はたまた下か……。

 仕切り直し。ここから先は一方的な戦いではない。まさに雌雄を決する戦い。激戦を繰り広げる中にあって、未だ動けない白絶はほんの少し焦っていた。


「……何故だ……何故先に進めない……」


 ラルフに声をかけられたミーシャが反応した時に垣間見えた心の隙間。攻略の糸口が見えたかに思えたその扉は、今は固く閉ざされてビクともしない。


「……あの男が……あんなヒューマンが鍵だと?……何があったというんだ……(みなごろし)……」


 虚しく空中に溶ける独り言。ミーシャは待つ。ラルフの帰還を……。

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