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第三十三話 活路を開け

 白絶 対 ラルフたち。


 白絶の手の内は喪服女とミーシャ、ベルフィア、メラ、ティララ、イーファ。


 喪服女は上級魔族(多分)。ミーシャは史上最強の魔王。ベルフィアは最近魔王を取り込んだチート吸血鬼。メラ、ティララ、イーファはデュラハンの剣の腕ランキングトップ3。それに第十魔王”白絶”が来るという凄まじい戦力。


 対するは勇者ブレイブの血統であり、半人半魔(ハーフ)のブレイド。守護者(ガーディアン)のアンノウン。魔獣人であり格闘家としての才覚溢れる人狼(ワーウルフ)、ジュリア。大魔導士の孫アルル(魔法使用不能)。探索、索敵のスペシャリストで手先の器用なウィー(非戦闘員)。メラ、ティララ、イーファ以下の剣の腕前、デュラハン六名。そしてこの中でビリッケツの低能力、トレジャーハンターのラルフ。


 人数こそラルフ側が優っているが、能力面で呆れるほど隔絶した差を突きつけられた。極め付けは白絶以外は魔法使用不可という逆転の芽を摘まれている。これに関してはミーシャやベルフィアも同様なので、近づく間も無く瞬時に消される状況は何とか回避している。


(んなわけねぇな……)


 仮に魔法を封じられていてもミーシャとベルフィアの最高速度は目で追う事が出来ない。言ってもラルフの体感なので他の達人級の連中はベルフィアには対応出来るのかもしれない。が、ミーシャは別格。議論も思考の余地もなく対応不可能。そもそも追い付こうとする事が烏滸(おこ)がましい。


 何度か敵に回られた時を考えた事があったが、その度にミーシャ達が味方であることに感謝してきた。戦わずしてこの場を収める事が出来るならそうしたい。白絶が要塞を攻撃してきた時点でそんなもの、とっくに選択肢から消えているが……。


「帰るぞ!ミーシャ!」


 ラルフは声を張り上げる。だからと言って逃げるわけには行かない。どれだけ不利だろうとミーシャ達を置いて行けるほど短い付き合いじゃない。このわがままにみんなを付き合わせるのは気が引けるが、最後までとことん付き合ってもらう。


 虚ろな目をしたミーシャはその言葉にピクンと動いた。


「……!」


 白絶はミーシャに渡した魔法糸でその反応に気づいた。


「……ラ……ルフ……」


 ギギギ……と白絶の手の内にあったはずのミーシャの顔が上向く。ラルフも予期していなかった反応に心が浮つく。


 シュルル……ビシッ


 白絶の糸が頭に刺さる様にさらに追加される。


「……馬鹿な……ここまで掌握したのに……まだ正気に戻れるのか……」


「あ!てめっ……!許せねぇ……その綺麗な顔面に俺のゲンコツをお見舞いしてやる!」


 ラルフは怒りから白絶に宣戦布告をする。


「……うるさい……お前なんかに……構ってられない……」


 白絶はオーケストラの指揮者の様な手の動きで魔法糸を操り、ミーシャ以外の四人を動かし始めた。


「コレハ……好都合ネ」


「ん?何がだい?」


 何かに気付いたジュリアにアンノウンが質問した。その問いに視線を外す事なく答える。


「ミーシャ様ハ ラルフ ノ言葉デ洗脳ガ解ケカカッテイル。白絶ハ ミーシャ様ヲ洗脳シ直ス為ニ、図ラズモ最強ノ戦力ヲ動カセナイ」


「なるほど、叩くなら今しかないって事ですか……」


 ブレイドも便乗し、剣を持つ手に力を込めた。ブレイドの視線の先には喪服女がロングソードを携えて機会を窺っている。


「それじゃさっき決めた通り、お前らは二人一組で姉妹のいずれかを担当。ベルフィアをジュリア。喪服女をブレイド。ミーシャが動かないならアンノウンは遊撃で……そうだ、こいつを渡しておこう」


 ラルフはアンノウンにダガーナイフを手渡す。


「……良いのかい?」


「予備がある。みんな頼んだぞ!」


 その言葉を皮切りに戦闘が始まった。デュラハンの動き出しが一番疾い。長女メラに対して次女エールーと五女カイラが斬りかかる。


 ギギィンッ


 タイミングを合わせて斬りかかったが、簡単に受け止められる。流石に剣の腕で一位というだけあって体捌きは見事という他ないが、一点気になる事があった。


「ちょっと嘘でしょ!?能力が上がってますわ!!」


「いつの間にか鍛錬していたなら別ですけど、ねっ!」


 エールーは滑り込む様に剣を振るうが、メラは紙一重でこれを回避する。相当な力量差があって初めて出来ることを平然とやってのける辺り、格段に能力が上昇していることは間違いない。


「こっちもだ!イーファのくせに剣が掠りもしない!」


 七女リーシャと十女シャークがイーファを担当。残りの三女シーヴァと末っ子のアイリーンがティララという形。


「う〜ん、困りましたわね〜……」


「シーヴァ姉様!わたくしにタイミングを合わせてください!」


「は〜い」


 白絶の特異能力、その名も「糸繰り人形劇(パペット ショー)」。糸で繋いだものに強化効果を与え、且つ自在に操る事が出来る。魔法糸は強靭で、糸同士が絡まないので切ることは容易ではない。糸の切断を考える暇があるなら操られているものを倒した方が賢明である。


「ソウ……トナレバコッチモ危険カナ?」


 ジュリアはベルフィアと睨み合う。そこでアルルが声を上げた。


「ベルフィアさんに強化効果を付与する事は出来ません!一度試しているのでそれは確かです!」


「フッ……安心シタヨ。アレ以上強クナラレタラ厳シイト思ッテイタンダ」


 開いた手を固く結ぶ。ミキミキ……と音を立てて骨が軋むほどに握り拳を作るとチラッと自分の胸元を意識する。そこにはウィーに糸を通してもらった兄の形見がネックレスとなって首にかかっていた。


「兄サンノ左目ノ借リガ マダダッタワネ……ココデ返サセテ貰ウヨ!」


 ベルフィアは無表情でジュリアを眺める。突如姿勢を低くして潜り込む様に突進して来た。


 ボッ


 空気を押し出す様な音でジュリアに迫るが、そのタイミングに合わせる様にジュリアも同じく突進する。両者は目と鼻の先まで接近すると容赦ない打撃の応酬で打ち合う。ベルフィアよりも格闘の才覚溢れるジュリアがベルフィアの攻撃を受け流しつつ攻撃を入れていく。まるでジャックスが乗り移った様なキレのある動きに達人の領域を垣間見る。

 だがベルフィアに対しては単なる時間稼ぎにしかならない。最初打ち勝っていても疲れて来たらジュリアが負ける。これは時間との勝負だ。

 ブレイドは剣を掲げて喪服女との距離を詰める。喪服女は自分に近付いて来る少年に訝しい顔を浮かべた。


「……つまり、あなたが私のお相手でしょうか?」


「そうだ」


「……ああ、お若くも鋭い目を持つあなた……ここで命を断つには惜しゅう御座います」


「そうか……なら俺に未来を譲れ」


 剣を正眼に構えて牽制する。


「……ああ、残念ながら……」


 両手に持った二本のロングソードの刃をシャリンッと擦り合わせながら両側に構える。


「……そういう訳には参りません」


 二人の掛け合いを後ろから見ていたアンノウンはぽつりと呟く。


「なんか格好良いね。「俺に未来を譲れ」か……臭いセリフなはずなのに似合うんだよなぁ」


「そうです。ブレイドはカッコ良いんです」


 アルルは誇らしげに胸を張る。戦いの場だというのに苦笑が出てしまう。


「……圧倒的に向こうが有利だ。時間が掛かるごとにこっちが不利になる。アンノウン、危なそうな奴に加勢して当分凌いでくれ。万が一の際は……」


「全員戦いを切り上げて逃げろ、だろ?分かってるさ。そっちも急いでくれよ?私たちが死んじゃう前に」


「馬鹿っ……!演技でもねぇ事言うなよ……」


「ですね、すぐに終わらせます。それまでブレイドをどうかよろしくお願いします」


 アルルはペコっと頭を下げる。


「ああ、約束する。頼んだよアルル。ウィーもラルフも」


「おう」


「ウィー!」


 ラルフとウィー、そしてアルルはこの激戦部屋から離脱する。目指すはこの船の制御室。白絶が居る場所に一緒くたになっているかとも思ったが、入ってみて違ったのに気付いた。この三人が制御室に辿り着けば逆転の可能性がある。


「本当に頼んだよ」

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