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第二十五話 大集合

 超巨大レギオンを操る創造神アトム。ミーシャとラルフに受けた屈辱を晴らす為、なりふり構わず攻撃を仕掛ける。


「ブモオオオォォッ!!」


 死体をかき集めた物量による圧し潰し。一般魔法使いなどおよびも寄らないガノンの相棒であるアリーチェの魔障壁でさえ、これに耐えるのは不可能だと直感した。それを難なく受け止めるミーシャの魔障壁に感服する。


(黄金の瞳に縦長の瞳孔……魔族である事は理解出来るけど、あれを受け止めるって……まさか上級魔族?)


 上級魔族。

 魔王の側に侍ると言われている高位の存在。戦地に出て来る事は魔王と一緒でも無い限りほぼあり得ない。


(でも待って……何で魔族と人間が一緒にいるの?ドラゴンの背中に乗ってた一人は確か守護者(ガーディアン)の一人……もしかして守護者は上級魔族を使役しているの?!)


 だとするなら凄まじいことだ。エルフが召喚したと言われる人類の守り手達は上級魔族すら圧倒する力を持っているということだ。白の騎士団の面子でも一部は上級魔族を圧倒出来る力を持っているが、使役となれば話は別。単純に倒し切るより難しいことをやっているのだから。

 しかし、話を聞いているとどうもおかしい。まるであの草臥れた男を中心に話が展開されているような違和感を感じる。現にレギオンの口から飛び出した「ラルフ」と言う名前は最近でも聞いたような……。


「ガノンの懸賞金を軽く超えた人だ……え?それじゃまさか……」


「今の内に逃げましょうアリーチェさん!我々ではこの状況を打開する事は出来ません!下がってゼアル団長に応援を頼みましょう!」


 思考の渦に飲まれていたアリーチェを黒曜騎士団第二隊隊長バクスは呼び戻す。それには大賛成だ。これを個人単位でどうにか出来るとしたら、それこそ魔王でないとどうしようもない。


「魔王……魔王か。もしかしてあれは魔王なのかも……?」


「アリーチェさん!!」


「……うん、行きましょう。みんなと合流して総力戦で戦う」


 バッと踵を返して大急ぎで戻っていった。


「あっ!魔法使いまで撤退したよ!せめてもの戦力で残って欲しかったな……」


 肩を落とすラルフ。


「なぁに?ラルフ。私じゃ不満?」


「いや、単に回復系統がいないなぁって思っただけ……」


 ミーシャの単純な力は世界最強と言って過言ではないが器用ではない。強化、弱体化、回復や攻撃等のマルチな魔法を器用に使える存在はチームに一人は必ず欲しいというラルフの中のセオリーが呟きに出ただけだ。


「そう心配しないで。君も聞いたことあるだろう?「当たらなければどうと言う事はない」という言葉。その通りを実行すれば良いのさ」


 アンノウンはそう言ってドラゴンをレギオンに(けしか)ける。ネコ科動物の様なしなやかな動きで一気に距離を詰めると、その巨体に組み付いた。突進+体重の強力な攻撃でレギオンを後退させる。背後にあった城にぶつかると城が半壊した。


「さぁ、アンデッド。君はこの炎に耐えられるかい?」


 ドラゴンの赤い鱗が輝きを放つ。チィィィィィィ……という超高音がドラゴンより放たれ、程なくドラゴンの全身が火に包まれた。鱗が火花を散らすほど高速で動いて、体から出る油分に火を付ける。自身にもダメージが入る諸刃の剣だが、火に耐性のあるドラゴン故に先に燃え尽きる事は決してあり得ない。つまりファイアドラゴンが勝利する。


「ブモオオォォッ!?」


 体を焼かれるレギオン。このままなら何事もなく楽勝にレギオンとの戦いに決着がつく。特注品だとか吹いていたが、随分と脆い特注品である。だがそれはこのまま何事も上手く行けばの話。そう簡単に行くわけはない。


 ゴッポォ


 不思議な音が鳴り響く。焼かれるレギオンから聞こえたそれは大きな水泡が水面に上がって弾けた時の様なそんな音。

 その時、燃え盛る火の勢いに勝る血液がレギオンから溢れ出した。ドパッと出た大量の血液はドラゴンの火を消火し、津波の如く地面に広がる。


「うわぁっ!」


 その血に飲み込まれそうになったが、ミーシャが魔障壁を張って防ぐ。少し粘性のある血は、ネバネバと魔障壁にひっつきながら徐々に地面に吸収されていく。


「!?……ファイアドラゴン!!」


 全身に血を被ったドラゴンはこのネバネバのせいで鼻で息をする事が出来ない。堪らず口を開けたその瞬間。待ってましたとばかりに大量の死体がドラゴンの口の中に飛び込み、気管を塞ぎ、体内に攻撃を仕掛けた。


「なんて攻撃だ……!」


 死体と侮るなかれ。奴らは自分の犠牲をものともせず、生者を何としてでも殺すという気概を持って攻撃を仕掛けてくる。この勝負、決着を急いだアンノウンのドラゴンが敗色濃厚となった。息を吐けないドラゴンは炎のブレスも使えず、喉をかきむしりながらレギオンに圧殺された。


「チッ!」


 アンノウンは手をかざして拳を作る様にぎゅっと握る。ドラゴンは光の粒となって弾けて消えた。死骸となった召喚モンスターをそのままにしておくのは取り込まれて相手の能力アップにつながるだけだ。すぐさま消したのは流石の判断だと言える。

 アンノウンはバッと両手を横に開いて、すぐ側に二つの魔法陣を展開させる。ここから二体のモンスターを召喚するつもりだろうが、それを許すほど戦いは甘くない。


『邪魔だ!!貴様は動くな!!』


 アトムの声が響く。アンノウンの体は一回ビクンッと跳ねた後で硬直する。


「なっ……そんな馬鹿な!?」


 展開させていた魔法陣も途中で消滅し、モンスターを出せなかった。アンノウンは動こうとするが、途中で力が抜けて動く事が出来ない。無理やり動けない様にする金縛りの様ではなく、なんと言うか体が自由を放棄する様な薄ら寒い感覚だった。


「これは!?ブレイド達が食らった「言葉」の奴か!」


 ラルフとミーシャには効果がないので理解に乏しいが、ブレイドとアルルが跪いた時と状況が被る。ラルフはアンノウンの前に立つ。あの質量の攻撃を防ぐとかそういう事は出来ないが、要は気持ちの問題だ。


「……って事はアンノウンの番は終了って事ね。見せようか……私の力を」


 ミーシャはふわりと浮き上がる。牛頭の魔獣人の目線までやってくると、手を広げて魔力を溜め始めた。


『ククク……良いのか?この役立たずどもから離れても……』


「?」


 ミーシャの疑問に答えるべく、その剛腕が振るわれる。ラルフでは到底防ぐ事の出来ない質量による攻撃が二人目掛けて振るわれる。


 ドッ


 ミーシャの手から放たれた魔力砲は二人に当たるはずだった部分を消し飛ばして腕を崩壊させる。バラバラに砕けた死体達はラルフ達の側にドチャッと勢いよく落ちた。


「うげっ……マジかよ……」


 落ちた衝撃で手が折れたり、首が曲がったり、挙げ句の果てには内臓が飛び出したりと、視覚と嗅覚に訴えてきて正気を失いそうになる。

 それだけならまだ我慢も出来たが、それらが立ち上がってラルフ達をロックオンしてきた。巨体を活かした攻撃だった為に分離してくるとは思いもよらず、動けないアンノウンとそれを守るラルフにゾンビの集団が襲う。


「ほう……やるじゃないか。私にデカブツを当ててラルフには数の暴力か。なるほど、考えたなアトム」


 腕を組んでウンウンと頷く。創造神を相手取って上から目線に発言する。


『ほざけ!言ったはずだ、今日が最期だとな!』


「お前は馬鹿か?」


『……!?』


 ミーシャの返答に言葉が詰まる。何が馬鹿だというのか。


「まずこのデカブツ、こんなのラルフを助けながらでも十分勝てる。さっきも言った様に古代種(エンシェンツ)を連れて来い。こいつじゃ弱すぎる」


『き……貴様……』


「まだ話は終わってない。ここからが重要だからな……私たちは三人だけじゃない」


 ミーシャが言い終わると同時にラルフの側で動きがあった。ドドドッと続けて三発、魔力砲がゾンビの頭を消し飛ばした。ミーシャから放たれたわけではない攻撃に困惑していると、ラルフ達の背後から大人数でゾロゾロ人が集まってきていた。


「ラルフさん大丈夫ですか!」


 ラルフはニッと笑って、ブレイドが撃ち漏らしたゾンビにナイフを叩き込んだ。ゾンビは力なくその場に倒れこむ。


「おうっ!助かったぜブレイド!!」


 さっきまで何事もなく歩いてきたデュラハン達が剣を構えてものすごいスピードでゾンビ達に接敵する。一閃。鞘から瞬時に抜いた剣でゾンビを細切れに切り刻む。


「お待たせしましたわ」


「あら?ナイフが……ラルフの手を煩わせてしまった様ですわね」


「反省してますわー……チッ!中々しぶとい男……」


 イーファ、メラ、ティララのデュラハン達は、アンノウンとラルフを囲う様に立ってゾンビの襲撃を阻む。


「うわーっ。何あれ大きいー」


 アルルはブレイドの側で訝しげに見上げる。ベルフィアはキョロキョロと見渡して状況を確認した後、ニヤリと笑った。


「ふむ、役者は揃っタと言っタところかノぅ……」


 白の騎士団の取り巻きや守護者の一部は見てるだけで使えなさそうだが、メインはしっかり臨戦態勢に入っている。


『何を……幾ら揃おうと所詮雑魚の集まりよ!!平伏せ!人間ども!!』


 その言葉で魔族以外のラルフを除く人族は一気にザッと平伏した。皆困惑が隠せない様子だ。


「マジであの能力卑怯クセェな……」


 ラルフは苦々しい顔で呟く。独り言程度の声だったにも関わらず、アトムは聞き逃さなかった。


『黙れぇ!!ただの人間如きのくせにぃ!何故我の前に貴様だけ跪かんのだ!!許せん!我は神なのだぞ!!』


 発狂するアトム。まるで駄々をこねる赤ん坊の様だ。ラルフが「えぇ……」と困惑していると、叫び散らす牛頭の頭上に人影が見えた。


「死ネ!!アトム!!」


 ガリッ


 後ろから飛んできたのはジュリア。外で騒ぐアトムを感知して直接本体に攻撃を仕掛けた。頭の半分が吹っ飛ぶ。生きていた頃のオルドに比べれば幾分柔らかくなっている。


『ぐっ……この……!!』


 突然の奇襲に対処出来ずに狼狽する。その瞬間、支配の力は解けた。


「……解けた!今が勝機か!?」


 ゼアルはサッと立ち上がり、鞘から剣を引き抜く。全員がレギオンに顔を向けた時、ミーシャの一言が炸裂する。


「終幕だアトム。亡者もろとも地獄に行くが良い!!」

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