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十九話 一時の休息

 ドラキュラ城の二階。客室の一間で休んでいた。ラルフは添え木を駆使して包帯で左腕を固定する。回復材を使い切ったラルフは応急処置の為にこうする以外なかった。

 これに関してはベルフィアに手伝ってもらった。というのもミーシャはベルフィアに言われた事を少し重く捉え、自分がやりたかったがベルフィアに命じる事で威厳を保つ事にした。ラルフにしてみればいい迷惑だったが、背に腹は代えられず頼むことにした。


「いててててっ!こらベルフィア!慎重にやってくれよ!お前のせいで複雑骨折でもしたらどうしてくれんだ!!」


「いい気味じゃノぅ、ラルフゥ……(わらわ)に恥をかかせタ(むく)いじゃて」


 ラルフはベルフィアに弄られながら治療される。


「おい、さっさと治療するんだ。お腹がすいたぞ」


 ミーシャは駄々をこね始める。確かに結構な時間になってきた。お昼も食べてなかったのでお腹がすくのも理解出来る。だが何よりベルフィアとラルフがイチャイチャしているのが気に入らなかった。


「はい魔王様……少々お待ちください。そち、今日ノ飯はどうなってルんじゃ?」


 ラルフは野営地から持ってきた荷物を開き缶詰を取り出す。


「……どういうことだラルフ?」


 これにはご立腹のミーシャ。今日は換金したお金で豪勢な食事を期待していたのに、これでは約束が違う。シュゥゥゥゥゥ…という音と共に、魔力とは違うオーラが体を包む。怒りという感情が熱量となって噴き出していた。


「待て待て、これには理由がある。この資料を見てくれ」


 重要書類を取り出して急いでミーシャに渡す。苛立ちからもぎ取るように乱暴に書類を取るミーシャ。それに対し無事な右手を挙げて降参の姿勢を取りつつ徐々に後退する。


「……事実か?」


「ああ、そこに書いている通りだ。ミーシャの生死を確かめろだと」


 ラルフは椅子に腰かけて左腕の感覚を確かめている。ベルフィアは腰かけたラルフの右足を軽く蹴る嫌がらせをした後、入り口に近い壁際にもたれかかるため移動する。陰湿な嫌がらせは左腕程度では足りなかったようだ。手を組んで壁にもたれかかる。


「なぜ人間にバレた?今回の作戦は完全に隠密だったのに……」


 ミーシャは書類を穴が開くのではないかというくらい隅々まで読み込んでいる。そんなことをしても内容が変わらないことは分かっているが見てしまう。それくらいショックが大きかった。


「こいつは機密情報だと言われたが、”古代種(エンシェンツ)”の話も出てきた。ここまで駄々洩れだと、ミーシャへの裏切りは計画されていた。その可能性しかないぜ?しかもこともあろうに人類と魔族が結託してな……」


 そう考えれば辻褄が合う。ミーシャの力は異次元だと噂がある。魔力を使わせ、消耗した隙をついて、一番の家臣から渾身の一撃を不意打ちで食らわせる。何が難でも絶対殺す意志を感じる。

 しかし意味があるのか?そんな事をすれば第一魔王”黒雲(こくうん)”の意志に反する。人類に対しては徹底して根絶を謳うあの魔王が今更人類と結託など創立メンバーに申し訳が立たないだろう。


 ならやはりイミーナによる謀反。自国はイミーナに任せてきたから掌握は簡単だろう。しかしそれはミーシャの完全な死が必要不可欠。さらに人類の抑止力としてきたミーシャの不在は、結局、国の崩壊の一途を意味する。ミーシャを倒す方法が”古代種(エンシェンツ)”との戦いだとしても杜撰を極める。ミーシャの考えがイミーナの杜撰な謀反で固まりつつある時、


 クゥゥゥゥッ

 いつ頃から食べてなかったか、お腹が悲鳴を上げた。その音に恥ずかしさから顔を赤らめる。


(これが……(わらわ)が恐れタ魔王か……)


 幼さが残る容姿を横目に感慨に浸るベルフィア。もはや一族の仇だったことなど忘れ去っていた。


「飯にすっか?」


「……缶詰?」


「いや、任せろ。俺に考えがある」


 ラルフはミーシャから書類を取りニヤリと笑う。


「まさか……おどれは魔王様を……?」


 組んだ手をほどき、ラルフに敵意を向ける。半日前のベルフィアからは考えられない忠誠っぷりだ。力を見せつけられてから既に心は屈服していた。


「早とちりすんなよ、どっちかってーと……ベルフィア。お前をダシに使うのさ」


 ラルフの言葉が分からず吸血鬼と魔王は首を傾げた。

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