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第六話 火蓋

 町中で突如巻き起こった火柱に、為す術も無く焼きつくされる魔獣人たち。動く事さえ出来ず、叫ぶのがやっとの灼熱の中で多くの命が焼き消えた。

 火柱を掻き分けるようにして現れたのはこの世のものでなく、異世界から召喚されし守護者(ガーディアン)のリーダー的存在、獅子谷ししたに 正孝まさたか


「ったくうっぜぇ……俺らを使いっ走りにするなんざ何様だっつーの」


 ハンターとの合流後、別れたエルフの一行と守護者達はアルパザに向けて旅を続け、無事に到着した。休憩を兼ねて街の探索に移ろうとした時に森王の勅命が入り、その足でカサブリアまで面倒な旅を続けたのだ。


「あー、疲れたっすよねぇ?もうエルフの連中潰しちゃって良いんじゃないっすか?」


 すぐ後ろで肩を回しつつヘラヘラ笑いながらついてきている正孝の腰ぎんちゃく、葛見くずみ しげる


「大体なんか知らんすけど俺達こんなに強いのにあの会議に参加出来ずに突然「先陣を切れ〜」だなんて大概にしろて感じっすよ〜」


 それについては大いに共感出来るところだ。「守護者」という名前通り召喚主の敵や主に対する攻撃を防ぐ為の召使い程度の考えしかないのだろうし、どれだけこちらが強くても隔絶した身分の差などを前面に押し出して見下していると見るのが妥当だ。「お前らはエルフの為に命を張っていれば良い」と言われているも同じ。面白くない。

 しかし茂のこの意見には一つ賛同出来ないものがある。正孝は茂の頭をパンッとスナップを利かせて叩いた。


「痛っ!……な、何すか!?」


「俺()じゃねぇ、間違えんな。強ぇのは俺だ」


「え?あ、はい……すんません……」


 茂は頭をさすりながらボソッと謝罪した。その弱気な態度で気を良くした正孝は鼻で笑いながら魔獣人の町並みを見据えた。


「ま、正孝くん」


 背後からナヨナヨとした声が聞こえてきた。それを肩越しで確認すると小走りで奥手男子の草部くさべ あゆむがやってきた。


「……歩か」


「たく、何やってたんすか?ビビって震えてたんすか?」


 茂が歩にちょっかいを出すが、正孝は指を二本立てて前に来る様に指示を出す。それを見た歩と茂は正孝に並び立つが、茂には辛辣に「お前じゃねぇ」と下がらせた。


「……それでどうだ?お前の見立ては」


「こ、この辺にいるのは雑魚で強いのは城に集まってる。その後の動きはないよ。正孝くんの火柱に驚いたのかも……」


「アニマンとかいうコスプレ集団に聞いた時は「魔獣人は策を知らない猪武者」だと聞いたが、思った以上に自制の利く連中らしいな。派手にぶっぱなしゃ出てくると思ったんだが……」


 先陣を切るとは即ち後列の為の囮に近い。先に出る分戦果を取りやすいがその分危険が増す。先に強い奴に当たりを付けたかったが当てが外れた様だ。その二人の様子を茂は何とも言えない顔で見ていた。


「おい手前ぇらぁ!馬鹿が何やってんだ!!」


 後ろから慌てた様子で急いでデカブツが走って来る。元の世界なら怖くて萎縮してしまうほど威圧的だが、異世界でまるでゲームの様に敵を一掃できる守護者の面々にはその脅威は然程感じない。唯一一番ビビリの歩だけが「ひぃ……!」と小さく悲鳴を上げた。


「んだよおっさん。なんか文句でもあるのか?」


「当たり前ぇだタコ!敵に情報を与える様な真似しやがって!!」


 大剣を携えたギザ歯のおっさんは吠える。これほど大規模な力を見せたというのに怖いもの知らずな奴が居たものだ。


「見たとこ戦士みたいっすけど力の差が分からないんすか?でしゃばらない方が身の為っすよ?」


 虎の威を借る狐の様な調子だが、茂とてかなり強い。茂の挑発に腹を立てたからと手を出せばタダでは済まない。見下した態度でおっさんの顔色を伺っていると「あ?」と威圧する様な感じで声を出して案の定大剣の柄に手を伸ばした。それを確認した瞬間に動ける様に手を自由にする。いつでも来いと言わんばかりだが、相手を間違えた。

 それはハンターの速射に似ていた。三つの矢が地面に刺さり尻餅をつくという失態。油断していたとは言えそれに一切対応出来なかった事がまるで昨日の様だ。”光弓”と呼ばれた亡きアイザックはその速射を超える。となれば白の騎士団で”狂戦士”と呼ばれたこの男、ガノンはどうか?


「!?」


 茂の左肩の上に鉄板の様な金属の塊があり、横顔が反射して映っている。やはり反応する事が出来ないほどの速さで動かれた。それもこれほどの大剣をまるで小枝の様に軽々と。


「……手前ぇらこそ図に乗んな。戦争を知らねぇクソガキが……!」


(は、速ぇ……!)


 間合いに入れば首を落とされる。単なる脅しで良かったが、歩的には切られてよかった。実力も分からず何かにつけて突っかかるこの男がそろそろ鬱陶しいと思い始めて来た。自分の実力を知ったばかりならまだ初心者だからと許容出来たが、もうその期間はとっくに過ぎている。


「おいおい!止めんかガノン!!儂らは魔獣人どもを殺しに来たんじゃぞ!」


「ソウダデ、内ゲバ何ゾ先住民ノヤル馬鹿ゲタモンダギャ」


 そこに”嵐斧”と”激烈”が追いつく。ドワーフは重武装でガッチャガッチャ音を立てながら走って来たのに息が乱れていない。アニマンは音一つ無くいつの間にかそこに立っていた。三人ともレベルが一つ二つ違う。


「ソレニヤッタ以上ドウスル事モ出来ン。来ルナラ来イノ気概ヲ持タントナァ……」


 アニマンの女戦士はニタリと笑う。その顔は憎悪と喜びに満ちていた。それを見て正孝は思う。(魔獣人もアニマンも似たり寄ったりだな……)と。ガノンは呆れた顔で肩を竦める。


「……エルフのガキに無理に勧められたから手前ぇらを出したんだ。ガッカリさせんじゃねぇぞ?」


 茂の肩口から剣を退かすと背中に担いだ。


「!?……取り込み中すいません!奴ら動き出しました!!」


 歩は焦った様子で伝える。それに合わせてルールーも耳をピコピコさせて正面を見た。


「……オゥ、確カニ来トルナ」


「待ち兼ねたぞい!おぬし名は何だったかの?ああ、まぁ良いわ。後方に下がって皆に伝えろ。戦争開始とな!」


 歩を指差して指示を出す。正孝をチラリと見ると正孝も顎で下がる様に指示を出した。歩はその指示を見てさっさと下がっていった。元々戦いに特化した能力ではないし、精神性も大した事のない奴だ。だがその能力は今後絶対に必要になる。


「……あ、あの……正孝さん?み、美咲さんは前に出て来ないんすか?」


 腰が抜ける寸前といった感じで茂が声を出す。阿久津あくつ 美咲みさき。正孝とドッコイの戦闘特化型能力を使用する女性。ハッキリ言ってかなり強い。


「知るか。……って言いてぇとこだがあのビッチ、今度はあのエルフにご執心だからな。後方支援に徹するんだと」


 走っていく歩の後ろ姿を見ながら答える。そして苦々しい顔を見せながら「それよかアンノウンの野郎だ」と告げる。


「未だにどんな能力を持ってるか分かんねぇし、全てに無関心を決め込みやがる。ちっ、ムカつくぜ……」


「……無駄口を叩くんじゃねぇ……今日は多くの命が消える。巻き込まれねぇ様に気をつけるんだなぁ……」


 ガノンは口下手ながら精一杯の心配をする。


「そっちこそ俺の炎に焼かれんなよ?俺は加減を知らねぇからな……」


「へっ……言ってろクソガキ……」


 白の騎士団の三人。守護者の二人。歩が報せればもっと多くの戦士たちが並び立つが、先陣を切るのは最強の戦士(タンク)たち。


「……おい、アウル爺さん。何人狩れるか勝負しようぜ」


「負けた方が酒を奢るんじゃ!」


「……決まりだな……お前もどうだ?」


 ガノンは正孝にも振る。


「俺に勝てると思ってんのか?いいぜ。勝負してやる」


「……そう来なきゃな。何ならここの奴らを勘定に入れてもいいぜ……?」


「ぬかせよ」


 すっかり馴染んだ風に会話しているのを尻目に魔獣人の戦士たちが向かって来るのが見えた。同時に火柱から離れていたアニマンの戦士たちが背後に部隊を整えた。それを肩越しに確認したルールーが腰布に隠した双剣を引き抜く。天高く双剣を掲げると雄叫びを上げた。


「アアアァァア!!!」


 その声に合わせて後ろのアニマン部隊も雄たけびを上げる。それに呼応し、走り出す魔獣人たち。カサブリアの命運を賭けた戦いが今始まる。

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