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第十七話 和解交渉

『ふはははっ!どう乗り切るラルフ!!』


 祭壇の出入り口は正面の階段のみ。その階段はエルフの騎士に阻まれ、無事に降りることは出来ない。武器もなければ腕力も並、魔法も使えない身体能力もそこそこのヒューマンがこの状況を打破出来るとは到底思えない。その上、非力な小ゴブリンがアワアワして動けないでいる。ほっとくと漏らしそうなほど怯えていた。完全な足手まといと言っていい。


「……ふぅ、簡単な事だ」


 ラルフはそれを言うが早いかウィーに向かって走り出す。


『あ……チッ……!』


 騎士達もラルフが動き出したのと同時に走り出したが、ラルフ達に追いつく事は出来ない。それはそうだろう。エルフには扱いきれない重い鎧だ。ラルフは難なくウィーを抱きかかえると祭壇の外に飛び出した。下は湖で距離は10m程度。問題ない。ただの飛び込みでこのまま着水すれば傷一つない。はずだった。


 ドッ


 飛び出した足に弓矢が一本刺さった。


「あぐっ……!!」


 まさかのタイミング。落ち行く中でチラリと弓兵の姿が見えた。流石エルフ。動く物体に狙いにくい空中、なのに完璧に当ててきた。いや、完璧は言い過ぎた。これは急所を狙った一撃と考えて相違ない。アイザックならこめかみに当てていただろうし、ハンターなら胴を抜いていただろう。となればよくぞ足に当ててくれたと褒めるべきだ。簡単には死なない。

 他にも矢が飛んでくるがクリーンヒットしたのはこの一撃のみ。後はジャケットを貫いたり、手や足をかすめる程度。


 ザパァンッ


 森王とブレイド達も飛び込んだ冷たく透き通った湖に着水する。ラルフの脹脛(ふくらはぎ)から出る赤い血は湖を朱に染めていく。ウィーはラルフが水面に上がらないのを見て、手を引っ張って持ち上げようとする。しかし、身体能力の低いウィーにラルフを持ち上げるだけの力はない。ただバタバタと暴れるだけで服の吸水力が勝ってどんどん沈み始める。

 それと同時に矢が次々沈んでいく。無駄だと知りながらも矢を飛ばしている。アトムの指示かもしれない。浮き上がらないようにしているのだろう。


 それを救ったのはブレイドだ。水中にいつの間にかいたブレイドと合流する。ウィーも安堵するが、ブレイドは上に持ち上げるのではなく下に引きずり込んだ。

 ウィーはビックリしてもがくが、ブレイドの力に抗うことは出来ない。三人共一緒に潜っていった。ウィーがドンドン空気を吐き出していくその中で気付くと、湖の底に何やら大きな泡が。そこにあったのは空気ポケット。意識が遠のきそうな中、空気ポケットの中に入るとアルルと森王がそこにいた。


「ブハッ!!」「プハッ!」


 ラルフ、ウィー、ブレイドの順に空気ポケットに入った。


「大丈夫ですか!ラルフさん!」


 脹脛の矢を見て驚くアルル。


「ああ……かなり鋭い矢だな……ぐっ!簡単に貫通するとは、思いもよらなかった……うぅ」


 痛みで言葉に詰まりながら足の状況を伝える。ウィーも少し水を飲んだのか「ケヘッ!ケヘッ!」と咳き込んでいる。そんな中で森王は睨みつけながらも意気消沈といった顔で湖の底に座り込む。ラルフは思っても見なかった先客にヨロヨロと近付いて声をかける。


「よう、森王様……うっ……まさかエルフの王と、こうして……対面、出来るとはな……」


「ラルフさん動かないでください。今矢を引き抜きます。アルル、いいか?」


 ブレイドはラルフに近寄り、矢に手をかける。アルルの「いいよ」の発声と共に思い切って矢を引き抜いた。


「うごっ……!!」


 一瞬の痛み。しかし「回復(ヒール)!」の掛け声で魔法が発動し、見る見る内に傷が塞がった。


「はぁ……助かったぜアルル。ブレイドもありがとな」


 引き抜いた矢をブレイドからもらうと森王の前に座った。


「見ろよこれ、すげぇ矢だな。俺の筋肉もそうやわじゃねぇと思うんだが簡単に貫いちまったぜ?矢尻は何で出来てるんだ?」


 痛みから抜け出したラルフは森王と対等の位置から話し始める。実に不敬だ。さらに調子に乗って反応のない森王に矢を目の前でフリフリしながら「もしもーし」と鬱陶しく反応を窺う。


「……下郎が……気安く話し掛けるな」


 森王は苛立ち気味に吐き捨てる。ラルフはその反応に目を丸くしながら後ろに立つ三人に目を向ける。三人はラルフの反応にどう答えていいか分からずお手上げのジェスチャーで返す。

 当然の反応と言っていい。王様と平民が同じ土俵に立てるはずなどない。立って良い道理などない。王には王に対する扱い方があるはずなのだ。


「そう……いや、何だ?その……」


 しかし、あれだけ敵対してあれだけイキっていたのに急に畏まるという態度に出られなかった。最近色んな奴らと敵対して来たせいか普通の対応が出来なくなっている。王にゴホンッと咳払いをすると森王を真剣な眼差しで見た。


「森王。回りくどいのは無しで行かせてもらうが、これ以上俺達は戦いを望まない。和解しよう」


 ブレイドもアルルもウィーもその言葉には賛成である。あれだけ脅して突然翻ったように見えるが、一応計画の内である。森王はその言葉にラルフを見据える。


「……無理だ」


 その答えは予想していたものだが、残念でもある。


「……まぁ痛み分けとまではいかないだろうな、ああなっちまったら。でもそんな事言ってる場合かよ。……どうするつもりなんだ?」


 森王は視線を落とす。


「無理なんだ……私にアトムは止められない……。どうしたら良いのかも……もう分からなくなってしまった」


 それを聞いたラルフは後ろを振り向く。ブレイドたちは森王の悲しみにくれた表情に同情の念を送る。アトムの力に触れて攻略法が見えない状況だ。途方もない感覚に陥っているのだろう。だがここには自分でも思いも寄らなかった切り札がいる。


「……よし、分かった。森王はとにかく部下と国民を何とか遠ざけてくれ」


「ふっ……それが出来ればやっている。出来ないから困ってるんだぞ?アトムの言葉には抗う事が出来ないんだから……」


 ラルフが森王の肩をトンッと一つ叩いた。


「任せろ。俺がいる」

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