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第七話 阻害

 エルフェニア侵入からすぐに周りを囲まれた。木の上で距離を取り、接近されないように警戒しているようで四方八方から殺気を感じる。木漏れ日に反射して光る金属の輝きに弓を引いているのが良く分かる。

 突然矢が飛んできてもおかしくない張り詰めた状況の中、どこかの枝からシュッと衣擦れのような小さな音を鳴らして一つの人影が飛ぶ。ザッと道を塞ぐように着地したのは容姿端麗なイケおじ風エルフだった。

 短めの金髪、整髪剤を用いて髪をガチガチに固めて乱れもない。年の感じる目元のしわに、綺麗に整えられた顎ひげが今の年齢以上に経過年数を感じさせる。緑のマントにドラゴンの緑がかった鱗を使用して作られたスケイルメイル。ブーツは火に耐性のあるエルフェニアの木で作成された特別仕様だ。その姿を見た瞬間にハンターが息を飲む。


「アイザック=ウォーカー……!?」


 ハンターはいつもの余裕面を引き締めて弓に手をかける。


「!……マジ?あれが……」


 ラルフも意味深に呟くとそのエルフをまじまじと見た。


「……って誰?」


 その空気を打ち破るミーシャ。アルルもブレイドも同じ気持ちだ。ラルフは声を抑えてそっと教える。


「白の騎士団が誇る弓兵、”光弓(こうきゅう)”のアイザックだ」


 白の騎士団。人類最強にして最後の砦。力あるものにしか授けられない栄誉。その一翼を担う最高峰の弓使い。


「おやぁ?この国に呼ばれてもいない侵入者が何人も……これは一体どういうことか説明願えますか?ハンターくん」


 返答によっては弓矢を速射されるであろう質問。ハンターが返答に困って口を真一文字に結ぶと、ラルフが聞かれてもいないのに勝手に応えた。


「……フッ、無駄だぜ。ハンターは俺の術中にはまっている。お前がどれだけ語り掛けても答える事は無い」


 突如何を言い出すのか?ラルフは一瞬でプランAである「脅されて仕方なく……」を捨てて、プランBの「操られてどうしようもなく……」を選択した。聞いた事に答えてもらえなかったアイザックはラルフの方をチラリと見た後、何も言わずにハンターに向き直る。


「これは一体どういう事か説明願えますか?ハンターくん」


 今一度同じ質問をハンターに向けて聞く。しかし既にプランBが発動している。無暗に応えればあの話し合いは無に帰する。ラルフが呆れ気味に両手を挙げた。


「聞こえてなかったようだな……ハンターはもうお前らの知るハンターではない。ふぅ……仕方ない。思い知らせてやれハンター」


それを聞いた時、ハンターも困惑する。(え?まさか攻撃しろと?)ハンターがラルフを肩越しに見る。その視線に気付いて、うんうんと頷き始めた。


「いや、ちょちょちょ……!うんうんじゃないでしょ……!?そんな事聞いてないし……!!」


 グレースは焦りながらも声を落としてラルフにツッコむ。ここで攻撃したら二度とエルフェニアの土を踏めなくなる。だがプランBの性質上、攻撃をしない方が変だ。ここで攻撃しないと何でここまで侵入者を案内したのかが謎になる。

 そして先手を打ってラルフが自分のプランを優先してきたが為、最初の「脅されて……」がもう使えない事になっている。迷惑な話だがハンターは覚悟を決めた。弓を取って矢を番える。


「なっ……ハンター……くん?」


 アイザックも困惑から矢筒に手を置いた。光とまで言われた弓矢の速射術。ハンターが弓の弦を引き絞って矢を放つ直前まで持って行ったこの状態と、矢筒に手を置いた状態で五分という正に最強にふさわしい技術を持っている。が、困惑と混乱から命中精度は保証出来ない。

 その時、枝の上で待機していたエルフ達が飛び出した。周りを囲まれている事は知っていたが、目に見える範囲に三十人くらい出てきて全員が弓を構えて牽制している。ラルフが思っていた人数の三倍くらいいて一瞬ビビったが、弱さを見せるわけにはいかないとふんぞり返る。


「おっと、良いのかな?ハンターとここにいるグレースは人質なんだぜ?」


 ニヤニヤしながらグレースの肩を持って抱き寄せると喉元に投げナイフを突きつけた。そのままハンターの後ろに寄ると、ハンターの喉元にもナイフを突きつける。この行動はラルフの完全なアドリブなのでグレースは「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。ハンターも突然の行動にヒヤッとしたが、これも策だと我慢する。ブレイドとアルルは後方と側面を同時に見張る。先に予定されていた行動だけに迷いはない。ウィーはミーシャにしがみつき、ミーシャはのほほんとしている。

 グレースは表情豊かだが、ハンターはナイフを突きつけられながら、ほぼ無表情で同胞に弓を向けている。この姿を見れば誰だって不安になるだろう。ヒューマンに命令されて弓を構え、喉元にナイフを突きつけられる。まるで操られているようだ。この様子に周りで囲んでいたエルフ達にも動揺が走る。


「弓を下ろさせろ。ほらほら、同胞が死んでも良いのか?」


「……何をした?」


 その質問にラルフの口角はさらに上に上がる。(食いついた!)この反応は”完全なハッタリ”から”半信半疑”に移り変わった証拠だ。


「何って……洗脳だよ?何知らないの?遅れてるなぁ」


 相手を小馬鹿にしながらペラペラと喋る。


「この俺の意のままに操る事の出来る魔法のアイテムを使ったのさ。エルフェニアまで案内させようとしたら、この野郎は俺に嘘を教えようとしたんだぜ?ほら、俺って嘘が嫌いじゃん?だからグレースをまず術中にはめて人質にするでしょ?その後無防備になったハンターをちょちょいのちょいってな。簡単だったぜ?」


 ケタケタ笑いながらアイザックに自慢げに話す。


「洗脳だと?あり得ないな。この世界に人を操れる精神感応魔法など存在しない」


「見識が浅いな。流石”引きこもり族”。まぁエルフ風情にこのレベルの話をしても分からないよな。信じられなくてもこれが現実だよ?」


 その言葉に辺りがざわつく。馬鹿にされた事も鼻に付いたが、何より洗脳がハンターの行動により真実ではないかと誤認させているからだ。しばらく膠着状態が続いたが、アイザックの方が先に根を上げた。


「……下ろせ」


 その言葉に周りのエルフ達が困惑しながらも弓を下ろす。


「賢明な判断だな。白の騎士団なだけはあるってもんだぜ」


 ラルフはおチャラけた感じで煽る。アイザックはそれに一瞬イラっとしながらも質問をする。


「君は誰だ?何が目的でハンターを操る……?」


 完全に信じていないだろうが、ともかくこんな事をしてまで潜り込んだ意図を探さなくては二人の身が危ない。


「俺達を天樹とやらに案内しろ。まずはそこからだ。ここですべき事、全ての事柄が終わった後にこの二人を解放する。それまでは俺の駒だ」


 それを聞いて一瞬逡巡する。だが覚悟を決めたように息を吸い込むとラルフに向かって声を上げた。


「交渉か……天樹に何か用だと?残念だがそれを聞いて通す事が出来なくなった。いくら大切な同胞だろうと、森王様並びに重鎮の方々が御座す天樹の下に案内する事など出来ん。誠に残念だが、全員ここで死んでもらおう……」


「!?」これは想定外だ。ちょっと天樹を貸してもらう程度の感覚だったが、そうは問屋が卸さない。エルフ達が下した弓をスッと掲げだす。まさかハンター達と共に殺す事を選択するとは思いも寄らない。自分達こそ一番だと思う種族であり、同胞という純血の命を第一に考えてくれると信じていたからだ。


「……どうしても譲らない気か?お前らの同胞に自ら弓をかけるつもりか?」


 ラルフは自分の計画がガラガラと崩れ落ちる錯覚を見ながら最後の悪あがきを見せる。


「……運命、でしょうね」


 その答えは冷ややかで命を何とも思っていないようにも聞こえた。天樹はそれほど重要で、自分の次に使えるであろう弓兵を殺してでも守らなければならないものらしい。完全に見誤った。ラルフは付きつけたナイフを二人から離す。両手を挙げて二人を解放すると一言。


「降参だ」

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