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第十五話 監獄

「なんでこんな面倒な場所が存在しているの?お前は何か知らないのか?」


 ミーシャはこの炭鉱の薄暗さと変わり映えしない岩肌を見てイライラしていた。


「この場所を一言で言えば監獄だな」


「監獄?」


「俺ぁ無間地獄だと思っているがな」


「お前の意見は聞いていない。監獄とはどういうことだ?誰に対する監獄なんだ?」


 一方的な質問に複雑な表情を作るが、感情的にならない様に一拍置いて話始める。


「ここは俺を閉じ込めるために作られた監獄だ」


「なんで?」


 ずけずけ聞いてくる。藤堂はどこまで喋るべきかを精査しつつ、頭の中でいろいろ整理した。


「うーん……異次元の扉を開いたから閉じ込められたんだよ」


(異次元の扉?)


 何の話をしているのか首を傾げていると。


「俺ぁ元々この世界の住人じゃねぇんだわ。何だったかなぁ……何とかって建造物よりでかい樹が俺ら異世界人を召喚しただのなんだので、敵を討伐しろとかいきなり言われて放り出されたなぁ。そうそう丁度あんたみたいに耳が長い種族だった。肌は白かったが……」


「エルフね」


「あっそうそう、エルフっつってたなぁ。高慢ちきで嫌な連中だよ。自分じゃ何もしない癖に俺らを馬車馬のごとく扱いやがる。まぁ酷いのなんのって……」


「それで?」


「おっそうそう、エルフ共にこき使われてもう帰りたいなぁって思ってた頃に俺らの中の一人が騒ぎ始めてな。実はすげぇ力が心胆から湧いてくることに気付いちまったのよ。ある奴は空を飛んで雷を落としたり、水を操って海を割ったり……目の当たりにするとすげぇんだこれが」


 足を止める事無く腕を組んでうんうん頷きながら当時を思い出す。


「それでエルフ共に分からせてやろうってんで、ちょっと脅す事にしたんだな。良くもやってくれたな!って気持ちもあるが、何より同じ人なのに奴隷のような扱いしてやがったから、職場の改善を望んでたわけよ。俺らにも人権があるだろ!ってな」


 ふっと肩を落とす。


「そこで両陣営側に死人が出ちまった。人間は(たが)が外れたら行くとこまで行っちまう生き物だからなぁ。ほとんどの仲間が死んじまった。戦いは痛み分けに終わって、俺らは逃げるようにエルフの国から解散したんだよ。そんな折、俺ぁ元の世界に帰りたい気持ちが強くなったから、頑張って異次元の扉をこじ開けて帰ろうとしたんだが、自称神様って連中に睨まれてこの様だ。どうだい?面白かったかい?」


「なんで?」


「ん?」と思って振り返る。


「なんでその自称神様ってのが閉じ込めるの?」


 顎に手を当ててちょっと考える。


「……この世界の均衡を保つ目的があったのかもなぁ…」


「?……お前はエルフに呼ばれたんだから、自分の意思でここに来たわけじゃないんでしょ?何で帰る事が許されないの?」


「いやぁ、もちろん俺だってそう思って開けたんだよ。でも……ああいう状況をどう説明したもんかなぁ……そうそう、逆流っつー奴だ。よく分かんねぇかもだが、世界が逆流して来たんだ」


 世界の逆流。


「何言ってるか分かんない」


 ミーシャに抱かれたウィーがうんうん頷いている。


「あの状況を説明できる奴がいたら教えて欲しいくらいだからなぁ。とにかく俺が異次元の扉を開けた事でこの世界にいなかった魔族ってのがなだれ込んだらしいんだよな。戦ったことがないんだが、これがまためっぽう強いらしい」


「私は魔族だけど?」


 首を傾げるように藤堂を見る。それに合わせてウィーも首を傾げる。


「……そいつも?」


「これはゴブリンって言って亜人と呼ばれる人種よ……って、ちょっと待って。魔族がなだれ込んだって言ったよね?それじゃ魔族は元はこの世界にいなかったって事?」


「みたいだな。お嬢ちゃんが魔族ってんなら、俺が招き入れたからこの世界にいるって事だな」


 ミーシャは驚愕の顔で視線を下に落とす。ウィーはその顔を不思議そうに眺める。


「それじゃ……人魔大戦は……」


 その時ウィーが指を前方に向ける。それに気づいたミーシャはその指し示す場所を確認する。


「ラルフ!!」


 呼んだ所でもう遅い。ラルフは目の前から消失し、また別の場所に出現している事だろう。


「おい!お前!!ラルフはどこだ!」


 ミーシャは藤堂に食って掛かる。ボロボロの襟首を掴んで引き寄せられた藤堂は手を振って訴える。


「落ち着け落ち着け落ち着け。大丈夫だって、ここは俺の庭だぁ。すぐに見つかる」


「なら今すぐ見つけろ!」


 掴んだ襟を投げるように離す。襟首を直すとジトっとした目でミーシャを見る。その荒い動きに抱かれているウィーも迷惑そうにミーシャを見る。


「……人使い荒いなぁ……」


 藤堂はまた案内の為に先に歩き始めた。


「ウィー!」


 突然ウィーが暴れはじめる。それもそのはず前方からは大量の虫がやって来た。ラルフを追ってきた事が容易に推察出来る。ミーシャはシールドを張って虫の侵入を防いだ。


「あーここかぁ……ずいぶん遠くに行っちまったなぁ……」


 ボソリと呟く。


「転移先が分かるというの?」


「ああ、まぁ大体な。この場所なら二段くらい下にいったな……」


 藤堂の言葉をそのまま鵜呑みにするなら、場所によって転移先が決まっているようだ。


「良く見えなかったけど無事そうだった。あれなら虫如きに遅れは取らないはず……」


 ラルフがいくら弱いといっても虫は走れば逃げられる程度の足の遅さ。棒立ちでもなければ喰われる事は無いだろう。事実こうして虫たちが群がってきている。十中八九ラルフ目当ての虫たちだ。分かれ道に差し掛かった時、岩肌をチラリと見て指さし確認する。そこで右側を指す。


「こっちだ。この道をしばらく行って転移を使えば追いつくだろ」


 藤堂は迷う事なく歩く。


「これほどこの炭鉱を熟知しているのに、なんで出て行かないの?」


「……そりゃ俺も出ようとしたけどな。この鎖のせいで出る事が出来ねぇのさ」


「どういうこと?」


 藤堂は自分の鎖を持ち上げてジャラジャラ揺り動かす。


「そういう呪いなんだとオロチが言ってた。出入り口にはまるで壁でもあるかのように進めないのさ。目の前には外が広がってるっていうのにな……」


「オロチっていうのはあの爬虫類の事?」


「そうそう」


 コクコク頭を振って応える。


「あいつがいなかったら、きっとすごく寂しかったろうなぁ……良かったよ本当に……」


 感慨に浸る藤堂。そんな話をしていると突然足を止めた。


「なによ?」


「ここだ。この転移を使えば近づけるはず……」


 キョロキョロ周りを見ると岩場が流動しているのが見える。


「もうすぐ来るな。動かないでくれよ」


 しばらくすると転移が発動したのか、また部屋の明かりを消したように暗くなった。突然真っ暗になった空間に恐怖を感じたウィーは、ミーシャの腕の中で縮こまって震える。それを感じてか、ミーシャは光の玉をすぐにまた生み出す。


「この仕様どうにかなんないの?一々光り出すの面倒なんだけど……」


「どうにもならんなぁ……」


 苦言を聞くや否や即否定する。


「まったく……」


 辺りを見渡すが、飛ばされた先はやはり代わり映えのしない岩肌だ。その時、光で安心したウィーがキョロキョロし始めた。


「お!ウィー!見つけたの!?」


 ウィーがしきりに背後を向きたがっている。


「こっち?」


 後ろを振り向くとウィーが何気なく前方に指をさす。今度はミーシャが先導する形となった。ダウジングのように常に一定方向に指をさし続けるウィー。前方に分かれ道があっても、左、右と迷わず方向を指し示す。


「へ~……ごぶりんってのはこんな能力があるのかぁ……」


「この子が特別なの」


 しばらく進むと前方に揺らめく光が見えた。それはラルフが持っている魔道具で間違いない。


「ラルフ!!」


 また大声で呼ぶ。小走りで近寄ろうとすると、ウィーが腕を叩いて停止を求めた。


「なに?どうしたの?」


「ウィー!ウィウィウィ、ウィー!」


 何を言いたいのかさっぱりだが、何かを伝えようとしている。そこでミーシャは前方に目を凝らす、ラルフにしては影が大きい。さらに靴の足音が聞こえない。床を爪でひっかくチギッチギッという音が聞こえてきた。


「なんじゃありゃ……」


 藤堂も困惑している。辺りを昼の様に照らすミーシャの光球の有効範囲内に入った影が、その輪郭を現すと驚愕と怒りで我を失いそうになった。


人狼(ワーウルフ)!」


 ラルフを担ぐ人狼(ワーウルフ)。よく見ればラルフは傷だらけでボロボロだ。


「コレハ魔王様。数日ブリデス」


「……ラルフに何をした?」


 何とか正気を保つミーシャはジュリアに威嚇しながら尋ねる。


「ア、アタシハ何モ……アノ、ラルフハ虫ノ牙ニ掛カリ気絶シテイマス。回復シナケレバ危険デス。ドコカニ休メル場所ハアリマスカ?」


 その瞬間、凍り付くほどに痛い殺気は鋭く無視できない程度に薄れる。


「……まだ生きているんだな?」


 ミーシャはウィーを藤堂に預ける。「持ってて」とまるで道具のようだ。そしてすぐジュリアに近寄る。


「ラルフは私が背負う。ご苦労だった人狼(ワーウルフ)


 ジュリアもこれに異論はない。素直に渡す。というより下手にごちゃごちゃ言うと消されかねない。ミーシャはラルフを背負うと、鋭い殺気を消してラルフを背中で感じる。そして体中の、特に足の怪我を見てフッと笑う。


「まったく……ラルフったら、世話の焼ける子……」


 安心したせいか、その顔はこの炭鉱に入ってから一番柔和な顔だった。

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