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第一話 未知

(何が起こった?)


 突然の暗闇。まるでライトのスイッチを切った様な瞬間的な明るさの消失。すぐ後ろにいたはずのミーシャ、ベルフィア、ブレイド、アルル、ウィーは気配のけの字すら感じられない。小動物の囁き程度のミーシャの声が炭鉱内に響く。そう離れていないだろうが、一瞬にして距離が離れた事は事実。

 初めての事に困惑するラルフ。鞄を漁り、ライトを取り出す。スイッチを入れるとすぐさま明かりが付いた。その明るさに安心したラルフは、先ほど起こった事についてを冷静に考える。


(あれはなんだ?地形が常に変わっていた……まるで生き物の腹の中の様な……)


 顎に手を当てて熟考する。経験則にない。様々な書物を読んできたからその中のどれかには引っかかるかもしれないが、転移くらいしかそれっぽいものがない。


(いや違う……ただの転移なんかじゃない。もっと高尚な魔法だ)


 周りをライトで照らす。確認するがさっきのように地形が変わっていると言う事は無い。しばらく同じ所を見ていても変わらず、入り口付近の劇的な変化はない。


(時間による変化か、はたまた踏み込んだ時に作動する罠か……何にしろ一人で行動するのは不味いな)


 前を見ても洞窟、後ろを見ても洞窟。暗闇が続くばかり。ただ一人の孤独な空間。しかし今回は以前と違って多くの仲間達がいる。こんな状態になっても心細くはない。ただ厄介なのは合流の必要がある事だ。

 蛍光塗料を取り出してみる。しかし印をつけた所で岩場毎移動の対象内となるなら全くの無意味である。となればどう探す?探す必要はない。一人だけ逸れたのであればその一人がその場から動かない事が見つけてもらうのに一番だと思う、何が正解かも分からない状況で動くのは得策ではない。が、結局転移させられるのであれば意味がない。


(えぇ……?これもうどうにも出来ないな……)


 ラルフの結論は簡単なものだった。動かない。それっぽい腰かけられそうな岩を見つけて腰かける。ちょっと湿っているがこれくらいどうという事はない。凹んだ水筒を取り出し水分を摂取する。長期滞在を考えて、缶詰の個数を数える。


「あら?一個足りない……」


 最近は狩猟生活で缶詰を開ける事は無かった。ミーシャも満足していたし、ベルフィアは食事の必要が無い。落としたか食べたか。無い物を考えても仕方がない。ひとまず五つの缶詰を並べて、虎の子の魔牛缶があった事にホッとして鞄に入れ直す。他にも失くしていないか鞄をゴソゴソしていると、「痛っ!!」脛に痛みを覚えて飛び上がる。慌てて裾を捲りあげると虫が足に食いついている。


「うわっ!?」


 喰いついた虫を払いのけると、下には大量の虫が群がっていた。


「嘘だろ!?なんだよこれは!!」


 そこに住み着いていた虫はサソリとヤゴが合体してハサミと毒針を取り除いたような奇怪な生物だった。ラルフの足にかじりついた事を考えれば多分肉食の部類だろう。さらに羽根が退化したコガネムシや全長30cmの長いだけのムカデ。毛がびっしり生えたアシダカグモ。そんな様々な奇怪な虫達がそこら中の穴という穴から這い出てラルフに群がろうと頑張っていた。ラルフは走ってその場を離れる。


「あり得ねぇ!」


 中に誘い込む罠に肉食の虫達。嫌がらせの為だけに作られたと言って過言ではないこの炭鉱跡に、ぶつくさ文句を言いつつ走り回る。殺虫剤に類する虫対策を用意していればなんという事もないのだろうが、今は所持していない。それに多分虫だけではない。他にも何らかの動物がこの岩肌に潜んでいるに違いない。さらに転移。ガス溜まりや崩落して自然に出来た落とし穴などの自然の罠なんかも必ずあるだろう。この危険な炭鉱跡を調べる必要があるわけだ。


(安全地帯がそもそもねーな!)


 調べる時間も、転移により安全地帯がない現状でどうにも出来ない事は既にラルフの中で答えが出ていたというのに考えすら堂々めぐりとなっていた。何か走り回ってたら、逸れた仲間達と合流しないかなと運にすら頼るようになっていた。

 どっちが先かどっちが奥か。とにかく虫から離れる事を選んだ。

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