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籠の鳥  作者: あぴ子
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宰相の回想

女王がなぜ父親である国王に暴力を振るわれていたのかの理由を書いてみました。

ただ、国王は本当に非道です。残酷な描写があるので、苦手な方はご注意ください。


---

城のとある場所に王家の墓がある。

そこに花束を二つ抱えた老人がやって来た。

二つのお墓の前に花束を置くと、目を閉じて祈る。


「二人とも久しぶりだな。なかなか足を運ぶことができず、申し訳なかった」


老人はこの国の宰相であり、二つの墓は彼の妹たちの墓であった。


「王は病気で死んだよ。前日まで元気だったのに、ポックリとな。医師が言うには心筋梗塞だそうだ。姫様がいま女王としてこの国を立て直そうと頑張ってくださっている」


二つの墓に話しかけながら、宰相は一番下の妹が王に望まれ、嫁ぐことになった時の事を思い出していた。

彼女はプラチナブロンドの髪に紫の瞳のそれは美しい少女で、彼女が社交界デビューした時は独身男性がこぞって求婚したものだ。

しかし、彼女には幼馴染みの婚約者がすでにいたため、すべての求婚は断られることになった。

しかし、それが国王の興味を引くこととなってしまった。

これ以上の騒動を避けるため、下の妹は父親が早々に領地に戻したのだが、国王が下の妹を領地まで追いかけて来るなど予想もしていなかった。

国王は下の妹を一目見るや否や無理矢理城に連れていってしまった。

一緒に領地に戻っていた上の妹は国王から下の妹を守ろうとして、国王に暴力を振るわれ一時意識不明の重体だった。意識を取り戻してすぐにその事実を王都にいる家族に知らせた時には、もう全てが遅かった。

国王は妹を暴行し、家族の命や婚約者の命を盾に結婚を迫った。

父親と共に城にたどり着いて見たのは、満面の笑みで妹を抱き寄せる国王と涙に濡れた顔でこちらを見る妹の姿だった。

すでに婚姻はなされ、どうすることもできなかった。

国王は更に下の妹への人質として上の妹を側室に差し出すように迫ってきた。

上の妹は本来なら既に婚約者と式をあげる予定だったのを、怪我がひどかったため延期していたのだ。あの時はどうしてもっと早くに式をあげてしまわなかったのかと激しく後悔した。

しかし、上の妹は国王の命令を受け入れた。


「妹を守るためにも側室になります」


上の妹はそう言って、国王に嫁いでいった。

そして彼は宰相の地位を手に入れた。

望んで手に入れた地位ではなく、国王が下の妹へのご機嫌取りのためにしたことだった。しかし、彼女の気持ちが国王に向くことはなかった。

彼女が嫁いで一年後に彼女の元婚約者が亡くなった。

彼女と無理矢理別れさせられた事が原因で、元婚約者は酒浸りの日々を過ごすようになり、最後はならず者との喧嘩であっけなく命を落とした。

その時の下の妹の嘆きは深く、上の妹が側にいなければ 自らの命を断っていただろう。

不幸は続き、下の妹と上の妹はほぼ同時に子を身ごもった。

国王は妹が自分の子供を身ごもったと知ると喜び、更に妹を大切に扱った。

上の妹はそっちのけで。

しかし、生きる気力をなくしていた下の妹はどんどん痩せ細り、子供を産むのは困難なように思われた。


「あんな男の子供なんて生みたくない」


下の妹は上の妹にそう訴えていたそうだ。上の妹が子供に罪はないと下の妹を諭したが、結局下の妹は出産の際に命を落としてしまう。赤ん坊も産声をあげることなく亡くなってしまった。男の子だった。

一度に下の妹と跡継ぎを亡くした国王の怒りは同じように出産のため下の妹の側にいることができなかった上の妹に向けられた。


「お前とお前の子供が死ねば良かったんだ!」


国王は出産を終えたばかりの妹をそう罵ったそうだ。

妹の死を知らされ、子供の誕生を喜ばれることもなく国王に罵られ、上の妹の悲しみはいかほどだったろうか。

そこから国王はどんどん荒れて、手がつけられなくなった。

誰の言葉にも耳を貸さず、戦争や重税を繰り返す日々。

その度に宰相も諌めたのだが、妹と姫の命を盾にとられては強く言うこともできなかった。

妹はその頃になると日常的に国王に暴力を振るわれていたらしい。そしてその暴力は姫にも向かい、妹は身を呈して姫を国王の暴力から庇った。しかし、妹は既に心身ともに限界だった。

そして、姫が5歳の頃に流行り病であっけなく命を落としてしまった。

宰相に妹の死が伝わったのはそれから三日後の事だった。

妹を看取ったのは姫だけだった。

その時になって、宰相は上の妹と姫が国王から日常的に暴力を振るわれていたことを姫から知らされた。

上の妹は彼に心配をかけまいと黙っていたのだ。

宰相の国王への憎しみはいっそう増したが、姫のためにもなんとか踏みとどまった。上の妹が命を懸けて守った子供なのだ。妹二人を助けられなかった分、彼女を守るのが宰相の新たな使命となった。

それからの十数年は本当に大変な日々だった。だが、遂にあの憎い男は死んたのだ。


「国王はお前と同じ墓にとの希望であったが、私の一存で密かに罪人の墓に入れてやったよ。お前たちの側に誰がいれてやるものか」


妹たちの墓をそっと撫で、誰にも明かしていなかった重罪を妹たちにだけ打ち明ける。


「姫様の事は私に任せてくれ。お前たちを守ることができなかった私では不服かもしれんが、命に懸けても姫様を、私の姪っ子を守るからな」


宰相は妹たちの墓に誓うと、墓から立ち去る。

これは、隣国の王子から襲撃を受ける一週間前の事だった。

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