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籠の鳥  作者: あぴ子
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3


「王子殿下っ!その方を殺してはいけないっ!」


突然の兵士の乱入を受けて、彼は咄嗟に剣を止めしようとしていた。

でも、私が足を一歩前に踏み出して、剣を体で受け止める。


「くっ!」

「なっ!?」


立っていられなくて、そのまま床に倒れ込んでしまう。

一瞬意識が飛ぶけど、すぐに痛みで意識を取り戻す。


「何て事だっ!早く医者をっ!」

「一体どうしたと言うんだ。最初から計画のうちだったろう?それにこいつは自分から剣の前に飛び込んできたんだ」


彼は状況が理解できないみたいで、先程制止した兵士に声をかけている。


「彼女が殿下のお探しの相手だったんですっ!」

「な、にを言って」

「逃げた使用人たちを保護して、聞き取り調査をしたんですが、該当する女性は彼女しかいなかったんです!殿下が貰った懐剣が決め手となりましたっ」

「そんな馬鹿な」


彼がふらふらと近づいて、私の横に跪くと私の仮面に手をかける。

止めるまもなく、あっさりと仮面が外れる。


カランッ


彼が持っていた仮面が手から離れ床に落ちる。


「その顔は…」

「だから後悔するって、言ったでしょ?」


思ったよりもかすれた声がでる。

私はまだらに黒く染まった顔で彼を見つめる。

彼以外の兵士は私の顔を見るとすぐに顔を背けた。

きっと、五年前よりももっとひどい顔をしているだろう。

仮面越しだと彼の顔をしっかりと見れなかったから、せっかくなので目に焼きつけておく。

彼の顔を見つめながら、死ぬのも悪くないかも。

確実に相手はトラウマになるだろうけど、仮面を外したのは彼なんだから、そこは許してもらおう。


「知ってる?何年も同じところを、殴られ続けると、痣って、消えにくく、なるのよ」

「なぜ、五年前に俺を助けたことを黙っていたっ!」

「あなたが、覚えているなんて、思わなかった」


扉から現れた瞬間から、あの時の彼だと気づいていた。

物心ついた頃からお父様の暴力にさらされ、逃げる事も反抗する事も諦めていたあの頃、決してお父様に屈服するこのない彼の姿に衝撃を受けた。

思う通りにいかず、苛立つお父様の姿を見るのは爽快だったし、そんな気持ちがまだ残っていた事も嬉しかった。

こっそり隠れて彼を見つめる時間は楽しかったし、色褪せた世界が一転、色鮮やかに輝いて、毎日が楽しかった。

声を聞きたい、話をしたいと思うようになるのに時間はかからなかった。でも、私はお父様の娘だし叶うことはないだろうと諦めていた。

彼の身の危険を感じなければ、きっと、私は彼の前に姿を見せることはなかっただろう。

彼を助けたあの日、お父様には彼を助けたのは私なのだとすぐにバレた。

あの時のお父様のお怒りは凄まじく、宰相が庇ってくれなかったら、私はお父様に殺されていただろう。

それ以降、お父様の暴力は見境がなくなった。

今までは配慮されていた顔への暴行も日常茶飯事となり、私の顔を見ては宰相や侍女が泣くので、私は顔の痣を誤魔化すため、仮面を日常的につけるようになった。


お父様がご病気でなくなった時、嬉しくなかったと言えば嘘になる。

これでこの国はお父様からの呪縛から解放され、良い方向に向かっていくと本気で信じていた。

今までお父様に強いたげられてきても私に尽くしてくれた宰相や城のみんな、民のために今度は私が力を尽くそうと。。。

民がこの国に見切りをつけたと知った時、なんのために頑張ろうとしたのか、わからなくなってしまった。

例え、ここで生き残れたとして、私は一生お父様の娘としてか皆に見られないのだと思うと、虚しさしか感じない。

だから、死ぬのは特に怖くはなかった。

彼が私を殺しに来たとわかった時は、嬉しくさえ感じた。

初めて心動かされた彼の手にかかって死ねるのなら、それはそれで幸せなんじゃないかと思ったのだ。


「もういいっ!後で色々聞くから、今は黙っていろ!」


彼はそう言うと、止血のために自分の服を切り裂き、患部に押し当てる。


「っ!」

「医者はまだかっ!」

「今、こちらに向かってます!」


ありったけの力を振り絞り、手を持ち上げて彼の腕をつかむ。


「もう、良いの。このまま、死なせて」

「何を言って」

「あなたが、言ったんでしょ?死んで、償えって」

「それは、お前だとは思わなかったからっ。民のためと言ったが、俺の本当の目的は違うっ!俺はお前を助けるためにここに来たんだっ!なのに、その俺がお前を手にかけるなんてっ!」

「ごめんなさい。でも、もう疲れてしまったの」



だんだんと意識を保つのが難しくなってくる。


「おいっ!しっかりしろ」



彼が必死に呼び掛けてくれる声を聞きながら、私はそのまま意識を手放した。





男の腕をつかんでいた彼女の手から力が抜け、床に落ちる。

先程までこちらを見つめていた目が閉じられ、どんなに声をかけても返事がない。

この五年間、一時も忘れることのなかった相手が目の前にいると言うのに、先走った行動の結果、彼女を死に追いやってしまった。

部下の報告をどうして待てなかったのか、悔やんでももう遅い。

あの時だって、何故無理矢理にでも連れて逃げなかったのか後悔したのだ。だから、父親を説得し、今回ようやく彼女を救出するべく、ここまでやって来た。

その過程であの男の想像以上の残虐ぶりをこの国の民から知らされて、あの男への怒りで我を忘れてしまった。



「お願いだ、目を覚ましてくれっ!俺はお前の名前も知らないんだ。何て呼べば返事をしてくれる?馬鹿な男と詰ってくれてもいい!こんな、こんな結末のために俺はここに来たんじゃないっ!」


男の泣き叫ぶ声が、王座の間に虚しく響き渡った。

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