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籠の鳥  作者: あぴ子
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2


バーンッ!


王座の間が勢いよく開けられ、隣国の兵士がなだれ込んでくる。

兵士の中には明らかに身分が高いとわかる男性が一人いた。


「初めまして、侵略者さん」

「あの男ではなく、何故女が王座に座っている?」


彼はお父様が亡くなったことを知らないらしい。

どうやら我が民は隣国の気が変わるのを恐れて、内緒にしていたようだ。

宰相がその情報を元に、どう話をすれば私が助かるのか、目まぐるしく考えているのがわかった。

だから、宰相が名案を思い付く前に私が話をするべく、口を開く。


「残念だったわね。父は病気でなくなったわ」

「亡くなった?そんなっ!あんな殺しても死ななそうな人間がっ?」

「ええ。最後は本当にあっけないものだったわ」


王座から立ち上がると、彼に近づく。


「じ、女王陛下っ」


すかざず兵士が彼を取り囲み、私に剣を向けるので、剣の当たらない位置で立ち止まる。


「丸腰の相手に、随分な厳戒体勢ね」

「王子様、大丈夫ですか?」


私の問いかけに答えることはなく、兵士の一人が彼に心配そうに話しかける。

なるほど。彼は隣国の王子なのか。


「取り乱してすまない。もう大丈夫だ」


彼はそう言うと、兵士たちを後ろに下げる。


「父親と言ったな?では、お前はあの男の娘か」

「ええ。だから今は私がこの国の女王よ」

「そんなふざけた仮面で顔を隠すような人間が女王を名乗るとはな。親が親なら子も子だな」


仮面を触り、外れていないことを確認する。


「私の顔は人に見せられるような顔ではないの。見たいと言うなら、外しても良いけど。きっと後悔するわよ?」


本当の事を言ったのに、彼は私がふざけているとしか思わなかったようで「外さずとも良い」と不快げに顔を歪ませる。


「そう?ならこのままでいさせてもらうわ。それで、侵略者さんの目的はなにかしら?」

「俺たちは侵略者などではない。この国の虐げられた民を救うために、隣国から来た救援者だ」


彼は腰に下げていた剣を引き抜くと、私に向ける。


「あの男が亡くなったと聞いて心底悔しいよ。あの男こそ民の裁きを受けるべき人間だった。だが、民の願いは王族の皆殺しだ。お前を殺した後に、お前の首を晒しものにすれば民の気持ちも少しは収まろう」

「そんなっ!女王様は「宰相、黙りなさい!」」


「ですがっ」

「約束を忘れたの?」


ごねる宰相を睨み付け、黙らせる。


「我が国の兵士はどうなったの?」

「やむ得ず殺してしまった者もいるが、それ以外は無力化して拘束してある。助けを呼んでも無駄だぞ」

「そう」


城内があまりにも静かで心配になっていたところだったから、皆殺しにされたわけではないとわかって、ほっとする。


「さすがに今さら無駄なことはしないわ。殺したいのなら好きにすれば良い」


私があまりにも素直に自分の処遇を受け入れたので、戸惑っているようだったけれど、すぐに冷静さを取り戻すと剣を構える。

宰相が私のもとに駆け寄ろうとして、兵士に捕まる。


「宰相を手荒に扱うのは止めておいた方が良いわよ?彼は私と違って、民に慕われているから」

「姫様を離せっ!姫様っ!」


宰相は拘束されてもなお私に近づこうと、必死に身をよじる。


「彼には慕われているようだな」

「私が幼い頃からの付き合いだから。宰相、これからは彼らの指示に従いなさい」

「なぜっ!なぜ、姫様が死ななくてはならないのですかっ!」

「ご老体には今から行うことを目にするのは辛かろう。連れて行け」

「はっ!」


宰相は数人の兵士に王座の間から連れ出される。その間も必死に私を呼んでいたけれど、私が振り向く事はなかった。


「最後になにか言いたいことはあるか?」

「いいえ」


宰相にはすでに別れの挨拶はしてあるから、もういい。


「民にたいして謝罪の気持ちもないと?」

「何に対しての謝罪なのかしら?お父様の娘に生まれたこと?それとも、お父様の悪行を止められなかったこと?お父様が亡くなった後に私が王の座についたこともかしら?」


でも、それって私が悪いのかしら?

お父様の娘に生まれたくて生まれたわけではないし、お父様の悪行を止めれなかったのは私だけではない。

それに女王についたのだって、王族に生まれたものの義務だと思ったからだ。


「罪の意識もないとは、本当にお前たち親子は最低だな!お前たちのせいで人生を狂わされた人間がどれだけいるかっ」

「貴方が言うならそうなんでしょうね。でも、私がなにか言ったところで、もう過去は変えられない」


今の現状が変えられないのと同じで、この世には不条理なことがいっぱいあるのだ。


「貴様には何を言っても無駄か。もう良い、俺が引導を渡してやろう。死んで民に償うがいい」


彼が剣が降り上げて、振り下ろすまでの動作がスローモーションのように見える。

私の中にはこれでようやく終われると言う安堵の思いしかなかった。

私にとって死は身近なもの過ぎて、恐怖を覚えるものではなかったから。




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