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18.Fランク冒険者と英雄の詩 準備編

アメリカ語ちょっと自信ない……


「……出来、た」


 賢者の石を手に入れてから、二週間。

 俺はずっと自宅の上階にある鍛冶場にこもりきり、ついに納得出来る武器を作り上げることに成功した。


「本当に、ギリギリだったな」


 あれほどたくさんもらっていた賢者の石は、きれいさっぱりなくなってしまった。

 しかしその甲斐あって満足のいく武器が、自分でも想像していた以上の逸品が作れたと思う。


 ……いや、もはやこう言ってしまっても構わないだろう。

 少なくとも俺にとって、この剣は「世界最高の武器だ」と。


 この剣に至るまでには、様々な苦労があった。

 日本にいる時は武器なんて打ったことがなかったから、ノウハウがまるでない。

 全てが手探り状態だった。


 それでもスキルの導くままに武器を打ち、何度も何度も失敗して、少しずつコツをつかみながら、ひたすらに武器製作に打ち込んだ。


 特に大きなブレイクスルーになったのは、道具だった。

 片手間にやる程度ならこだわる必要はないが、本当にすごいものを作ろうとするなら、やはり鍛冶道具の質も出来上がりに大きな影響を及ぼすと、試行錯誤を繰り返すうちに気付いた。


 だから俺は鍛冶をするためにまず鍛冶道具を作り、さらにその新しい鍛冶道具を使ってもっと新しい鍛冶道具を作り、さらにそのもっと新しい鍛冶道具を使って……というのを五回繰り返して性能のいい鍛冶道具を完成させた。

 この道具を使用することにより、鍛冶の完成度は飛躍的に上がった。


 それでも目指す場所は遠い。

 残り少なくなった賢者の石に恐々としながら、大胆に、それでいて繊細に、理想の武器を追い求め続けた。


 特に最後、この剣を打っている間の記憶はほとんどない。

 忘我の極みとでも言うのか。

 俺はただ、最高の武器を作るためだけの存在となって、ひたすらに剣を打ち続けた。


 そんな「神がかり」と言ってもいい状態で、俺は今までで一番の数と質の素材を投入し、そしてサイコロで同じ目を十回出すほどのとんでもない偶然と強運によって、この剣は作られた。

 正直に言って、ここまでの武器を打つことは、もう俺の生涯を懸けても不可能ではないかと思う。


 この剣が、今までの全ての武器と違っているというのは、完成した瞬間に確信出来た。

 それは単純に、刀鍛冶としての勘、というものではなく、すさまじい能力を備えた武器に対して与えられるという「神器」の称号、それから固有の「銘」がこの剣に与えられたと気付いたからだ。



 ――この武器に与えられた銘は《カースドブレイカー》。



 カースは確か、呪いとかそういう意味だったはず。

 だとすると、この銘は「呪いを打ち破るもの」にでもなるだろうか。


 まさにこの剣の役割にふさわしい銘だ。

 ランダム生成なのかもしれないが、これからの俺を祝福してくれているような、素晴らしい名前だと思う。


「……さて、と」


 そこで、俺は剣を眺めるのをやめると、立ち上がる。


 これだけの剣が打てたことは奇跡だと思うし、その出来には十分な自信を持っている。

 だけど、喜んでばかりはいられない。

 この剣を本当の意味で完成させるには、最後の工程を終わらせなければいけない。


 俺はカースドブレイカーを持ち上げて、扉に向かう。

 目指すは、魔物が巣食う北の荒れ地。


「さぁ、試し斬りだ」


 この剣で魔物を斬った時、初めてこの武器が完成したのかどうかが分かるだろう。

 漲る覚悟を胸に秘め、俺は未体験の戦いへの一歩を踏み出したのだった。



 ※ ※ ※



 ゆっくりとカースドブレイカーを正面に構え、視線を前に投げかける。

 相対するは、鋼鉄の巨人。


「……アイアンゴーレム」


 ぽつりと、その名前をつぶやく。

 その声に反応するようにその巨人は振り向き、わずかに緑がかったその足を、俺に向かって踏み出した。


 討伐依頼は全く見ていないせいで、俺はモンスターの種類にも生態にも詳しくない。

 よく行く火山や森に出るゴブリンやウルフが見分けられる程度で、それ以外は話の中で魔物の名前が出ても、どの魔物の話をしているのか分からないことも多い。


 その中でも、例外的にすぐに名前と外見が一致したのが、こいつ、アイアンゴーレムだ。

 荒れ地を歩き回る魔物の中でも、一番見つけやすく、度々冒険者たちの噂に出てくる魔物。

 調子に乗った初心者冒険者を絶望に叩き落とす、鈍色の巨人。


 その性質は、実に単純。

 デカくて、遅くて、硬い。

 武器の試し斬りには、もってこいの相手。


 巨人の体表は、よく見ると鈍色というには少し緑がかっている。

 悪趣味とも言えるような色合いが、しかしその鉄の巨人に不思議な覇気を与えているようにも思えた。


「……っと、ダメだな」


 普段気にならないような細かいことが気になるのは、呑まれている証拠だ。

 暴れまわる心臓に、落ち着け、と言い聞かせる。


 ここで全部変えるんだ。

 俺は今日、一歩を踏み出す。


 そうだ。

 俺は!



「――今日こそ、『呪い』に打ち勝つ!」



 叫びと共に前に出て、同時にカースドブレイカーに魔力を注ぎ込む。

 すると、カースドブレイカーがその刀身にオーラを纏った。


 これが、この剣の真価。

 魔力を込めれば込めるほど、カースドブレイカーの能力が増幅される!


「グ、オオオオオオ!!」


 際限なく魔力を注がれていく剣から、何かを感じ取ったのか。

 ゴーレムが、軋みのようなうなりをあげる。

 ビリビリと、空気が震える。


 普段であれば、委縮してしまうほどの迫力。

 だが今の俺にはむしろ、戦意をかきたてるスパイスにしかならなかった。


(ああ、不思議だ……)


 いつもであれば、「魔物と戦う」と考えただけで、吐きそうになるほどの恐怖と嫌悪感に襲われていた。


 だが、剣の力への信頼だろうか。

 命のやりとりをすることへの忌避感こそあるものの、常に抱いていた魔物への苦手意識はほとんど感じられない。


「ガ、アアアアアア!!」


 向かい合う巨体から、打ち出される拳。

 しかし、その軌道は読めている。


 ならばこれはむしろ、好機!


「くら、えええええ!!」


 オーラを纏った剣を振りかぶりながら、俺は知らずに笑みを浮かべていた。


 全ての条件が、俺に味方しているようだった。

 行ける、という確信があった。


 だが、最後の瞬間。

 俺はこいつを斬る、そう決意したその時に、




 ――ふと、あるはずのない血の匂いを嗅いだ気がした。




 まずい、と思った時には遅かった。

 脳裏に、龍の影がちらつく。




 ――爛々と輝く金色の瞳が。



 ――悪意と傲慢を煮詰めた言の葉が。



 ――突き出された真っ白い爪が。



 ――まるで、俺を苛むように……。




「違う!!」


 叫ぶ。

 力の限りに叫んで、幻覚を振り払う。


 視界が晴れる。

 だが……。



「っ!!」



 気が付けばゴーレムの拳は、もう目の前まで迫っていた。


「く、そっ!」


 集めたはずの魔力は霧散し、タイミングは完全に遅れていた。

 乱れた魔力を必死にかき集めて、剣を繰り出す。


(間に、合えっ!)


 集めた魔力は不十分で、振り抜く腕には余計な力がこもる。

 剣筋は大きくずれ、目測を大きく誤った俺の一撃は、突き出されたゴーレムの拳の端、小指にぶつかって、


(しまっ――)


 だが、その瞬間。

 カースドブレイカーの刀身から、すさまじいオーラが迸った。




 ――閃光が、弾ける。




 光が、晴れて。


「……マジ、かよ」


 俺は目の前の信じがたい光景に、しばし言葉を失ってしまった。


 数秒前と同じように、しっかりと両足を踏みしめて立っているゴーレム。

 その上半身の右側だけが、まるで何かに抉り取られたかのように、綺麗に消滅していたのだ。


 そして、


「あ……」


 グラリ、とゴーレムの身体が前のめりに傾いていき、轟音と共にその巨体が地面に倒れ伏す。

 倒れたきり動かないゴーレムを見て、俺は緊張を解いた。


「我ながら、とんでもないもの、作っちまったな」


 視線をカースドブレイカーに落とす。


 不十分な魔力に、流れた剣筋。

 状況は決して万全とは言えない、いや、はっきりとよくなかった。


(それでも、あれだけの力を発揮するなんて……)


 その底知れない力に、薄ら寒さすら覚える。

 もし使い方を間違えれば、恐ろしい事態を引き起こしかねない。


 改めて、気を引き締めなくてはいけないだろう。

 だが、今は……。


 視線を前方に戻す。


 右上半身を失ったことで、ゴーレムの「存在を維持出来る限界点」を越えたのだろう。

 地面に倒れていたゴーレムの身体はガラガラと崩れていき、大気に紛れて消えていく。


 そうして、あとに残ったのは、あのゴーレムの巨体に比べればごくごくちっぽけな、黒い結晶。


「……これ、が、魔核?」


 恐る恐る近付いて、手を伸ばす。


「魔石化、すればいいんだよな?」


 ゴーレムと向かい合った時と同じくらい、いや、それ以上に心臓が高鳴る。

 緊張に汗ばむ手を伸ばし、そっと、魔核に触れた。



「――魔石化」



 つぶやいた、その直後、


「う、わっ」


 ギュルギュル、と魔核の中で魔力が渦巻いて、魔核はさらに小さく形を変えると、手のひらに簡単に載るほどの小さな石へと姿を変えた。


「や、った……のか?」


 誰に言うともなく、ぽつりとつぶやく。


 その瞬間は、あんまりにも呆気なくて。

 初めは、自分がやってのけたことが理解出来なかった。


 だが、それから、時間をかけて。

 じわじわ、じわじわと、喜びが湧きあがってくる。


「あぁ……」


 魔石を握ったまま、仰向けに地面に倒れこむ。


 手のひらに掴んだその石は、中堅冒険者なら誰でも倒せるようなアイアンゴーレムの魔石。

 当然ながら、買い取りの価格だって大したことはないだろうし、めずらしいものなんかでは、決してない。


 ……けれど、ああ、なぜだろう。

 魔石の奥から覗く空の青さが目に染みて、少しだけ、涙が出た。



 異世界にやってきて、半年と少し。




 ――俺はついに、初めての魔物討伐を成し遂げたのだった。




めずらしくヒューガ君が主人公みたいなことしてる




あ、分割なので明日、明後日と連続で更新します!!

……本当ですぜ?

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軽い出来心で作り始めたものの製作に二年半もかかり、おかげで小説書くのが遅れに遅れたといういわくつきのPC用フリーゲーム
NAROUファンタジー」(別サイトに飛びます)
― 新着の感想 ―
[一言] もしかして:ミスリル
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