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15.ヒューガ・サザナミと賢者の石 邂逅編

【前回のあらすじ】

ついにヒューガが「Fランクのままだと目立っちゃう!」と気付いた



ヒューガの名字ぜんっぜん思い出せなくてあらすじ見るはめに

こいつ主人公みたいな名前してんな


 ――万年Fランクの冒険者は、逆に目立つ。


 まさに思考の盲点をついたその気付きは、俺の冒険者生活にパラダイムシフトを巻き起こした。

 一時期、ショックのあまり前後不覚に陥っていたが、イレスに「よーしよし、よーしよし」と励まされた俺は驚異的な速さで回復。

 その翌日の昼にはもう立ち直って動き出していた。


 最初に行ったのは、情報収集だ。

 このままFランクでいる訳にはいかないが、まずは昇級の条件を知らないことには始まらない。

 俺はギルドに行って、いつもの依頼をこなす傍らで、さりげなくナナルさんに昇級条件を尋ねることにした。


「なっなっ、ナナルさん? そのー、参考までに聞きたいんですけど、あっ、全然気にならないのでほんと興味本位で遊び半分なんですけど、あ、あれですよ、あー、なんだったかなー? 全然興味ないから質問も思い出せないなー。あっそうだ! そうそう、Eランクに可能な限り早く昇級するのってどうすればいいんですかね、あっ、全然あれなので他意とか皆無なんですけど?」

「……あの、とりあえず大丈夫ですかヒューガさん。頭とか」


 何だか失礼な返しをされたが、ナナルさんはきちんと教えてくれた。


「Eランクになら、昇級クエストを達成すればすぐに昇級出来ますよ」

「え、そうなんですか!?」


 それなら、即日クリアなんてことも……。


「ただし、クエスト内容は『特殊討伐』。必ずモンスターを倒す必要がありますけどね」

「……やっぱり討伐、か」


 どうあっても、討伐を避けては通れないらしい。


「やっと、討伐依頼をやる気になってくれたんですか!?」


 俺の態度に今までにない気配を感じたのか、ナナルさんがカウンターから身を乗り出す勢いで尋ねてきた。


「あ、いや、その……」


 この期に及んでモンスターを倒すのがどうこう、なんて言っている場合じゃない。

 俺だって、討伐依頼をこなせるものなら、こなしたい。


 だが、出来ないのだ。

 それは、俺に与えられた絶大な力の代償。

 望まずとも与えられた、この汚らわしい力による呪い。


「あの、ナナルさん……」


 一瞬だけ。

 本当に一瞬だけ、ナナルさんに相談してしまおうか、と思った。


 けれど……。

 それには、この力について話さなければいけない。

 この穢れた力の、本質を。


 女神が作ったゲームのことや、ここではない世界のことは、まだいい。

 しかし、その先を、この力を得た経緯、あのドラゴンのことを話すのはまだ、俺には出来なかった。

 ずっとよくしてくれた彼女に、自分が薄汚い怪物であることを知られたくなかった。


「いえ、やめておきます。……俺は、呪われてますから」


 俺はただ、それだけを言って、カウンターをあとにする。

 ……はずだった。


「――ナナル、さん?」


 ナナルさんが、立ち去ろうとする俺の服の裾を、掴んでいた。

 もちろん、振り払おうとすれば、簡単に振り払えたはずだった。


「聞いてください、ヒューガさん」


 けれど、彼女の瞳には、そうさせないだけの力があった。

 彼女の目に宿った強い意志と、まっすぐな心が、俺を縫い留める。


 そして、彼女は言ったのだ。



「――乗り越えられない呪いなんて、ありません」



 ……と。


 お前が何を知っているんだ、とか、根拠もないことを言うな、といった言葉が、頭を巡る。

 しかし、彼女はそんな俺に、切々と「呪いに打ち勝った者」の話を語ってくれた。


 それは「オロチマル」と呼ばれた偉大な英雄の話。


 生粋の剣士だった彼は、旅の途中で出会った恐るべき大蛇「オロチ」に、呪いをかけられてしまう。

 それは、人を害し、魔物を利する裏切りの呪い。


 しかしオロチマルはそれでもあきらめずに、聖剣の力で呪いを中和し、仲間と共にオロチを討つことで、自らにかかった呪いを打ち消し、自らの力へと変えたのだという。


「そんな、話を、されても……」


 そんなものは所詮、伝説に過ぎない。

 数ある悲劇の中で、たまたまうまくいっただけの一例に過ぎないと、理性は言っていた。


 第一、オロチマルと俺では状況が違う。


 伝説に語られるオロチの討伐可能レベルは、推定だとたったの三百程度らしい。

 だが、いまだに俺の心を縛るあのドラゴンは、間違いなくそんな蛇なんかじゃ足元にも及ばないほどに強力な存在だった。

 不遜な言い方になるが、たかが蛇ごときを倒せばよかったオロチマルとは、そもそものスケールが違う。


 ……なのに、なぜだろう。


「でもヒューガさん、笑ってますよ」

「え?」


 胸の中から熱い気持ちがこぼれて、止まらなかった。


 俺はずっと、この力を恐れるばかりで、目立たないようにとか、バレないようにとか、そんなことばかりを考えていた。


 でも、もしこの「呪い」をどうにか出来るなら、あの龍の呪縛を、振り払うことが、出来るなら……。



 ――俺はやっと、胸を張ってこの世界に生きることが出来るかもしれない。



 そして、そのためのヒントは、今の話の中にあった。

 俺はもう、いてもたってもいられなかった。


「すみません! さっきの依頼、キャンセルにしてください!」

「え、えぇ?」


 驚くナナルさんに、採取依頼の紙を押し付ける。


「それから、もしかすると、ですけど」


 言うべきか、言わないべきか、ほんの少しだけ、躊躇って。


「――近いうちにEランクの昇格クエストを受けると思うので、その時はよろしくお願いします」


 無謀だろうか。

 何の根拠もないのに、気が早いと思われるだろうか。

 俺の中に、暗い予感が渦巻く。


 けれど、俺の言葉を聞いたナナルさんは、、



「――はいっ! お待ちしていますっ!」



 そう言って、満面の笑みで俺を送り出してくれたのだった。



 ※ ※ ※



 俺に今まで足りなかったもの、そして、俺が見つけた光明。

 それは、「武器」だ。


 オロチマルが呪いに打ち勝てたのは、本人の精神力が強かったからだけじゃない。

 大蛇の呪いに対抗出来る、特別な力を持った聖剣があったからだ。


 この世界には、特別な力がこもった武器がある。

 ならば、オロチマルの聖剣のように、俺の「呪い」を打ち消す、とはいかずとも、ちゃんとモンスターを倒せるくらいに緩和する力を持った武器が存在する可能性はある。


「……とりあえず、大きな町の武器屋を当たる、かな」


 そんなとんでもない武器がそこら辺に転がっているとも思えないが、確かめる価値はあるだろう。

 俺は久しぶりに王都を訪れると、ライクルスの町とは比べ物にならない人の量にひーこら言いながらも、何とか武器屋を回ることが出来た。


 ただし、正面に堂々と飾っているような武器には見向きもしない。

 狙うのは、むしろ逆。


「やっぱり、すごい魔剣が眠ってるとしたら、こういうとこだよな」


 隅の方に無造作に差し込まれた、一山いくらという感じの「訳あり武器」たちを、検分していく。

 ……が。


「な、なんだよこれ、全部ただのなまくらじゃないか!」

「いや、そりゃそうだろ。って言うかそう書いてあるだろ」


 失望のあまり思わず口に出してしまって、そこの店主のおっさんに呆れられた。


 いや、だけど、ここで諦める訳にはいかない!

 王都のある武器屋はここだけじゃない。

 ここにはなくても、どこかの店には……!


「……はぁ」


 それから三軒をはしごして、訳ありの品を漁ったが、結論から言えば掘り出し物は見つからなかった。


 見つけられたのはせいぜいが、握った瞬間にまぶしい光を放って輝きだしたものや、突然周りの武器を全て腐食させてしまったもの、触る度に次々に形を変えて七種類の武器に変形したものに、それから「問おう。あなたがわたしの持ち主(マスター)か」と語りかけてきたものくらい。

 俺が望むようなグレードの武器は、どこを探しても見つからなかった。


 だが、俺は失望はしていなかった。

 これはただの様子見であり、確認作業だ。


「――よし!」


 むしろこれでようやく、次の段階に進めるというもの。

 今、この世界にはおそらく、俺が望む武器はない。

 だが、俺がこの世界に来る原因となったゲーム『アザレス英雄譚』には「鍛冶」のシステムがある。



 ――そう、もしこの世界に望む武器がないのならば、自分で作ってしまえばいいのだ!



 それに、この武器屋訪問が全くの無意味だったかと言うと、そんなことはない。

 俺たちが今まで積み上げてきたもんは全部、無駄じゃなかった。

 確認作業をする上で、分かったことがあるのだ。


 それは、武器に使われている素材の質が低いということ。


 俺が理想とする武器を作るなら、素材の段階で妥協は出来ない。

 可能な限り最高の材料を使って、最高の設備を備えて、妥協のない労力をかけて作成する。

 それでも届くかどうかは分からないが、とにかく武器屋にある程度の素材では、まるで話にならないことだけは分かる。


「いい素材を手に入れるなら……やっぱりあそこ、か」


 俺が町を行く人に場所を聞いてようやく辿り着いたのは、寂れた小さな店だった。

 小さな看板にかすれた文字で書かれた店舗名は「アルケイン錬金術工房」。


 錬金術はゲームにおいては調薬やアイテム精製といったイメージも強いが、そもそもの始まりは「卑金属から貴金属を作る」というまさに「錬金」にある。


 そして!

 俺の世界の錬金術とは違い、この世界の錬金術師たちは、その錬金術の最初の目的を見事に果たしている、という話なのだ。


 錬金はまず、適当に鉱物を含んだ石やくず鉄などを集めて、それを精製することで鉛を得ることから始まる。

 それから、精製した鉛をさらに魔力を使って「錬成」することによって、錫、銅、青銅、鉄、鋼鉄、銀、真銀、金、真金、ミスリル、オリハルコン、とアップグレードさせていくことが出来るのだとか。


 いや、地球の常識的には色々とツッコミどころはあるというかツッコミどころしかないのだが、魔力の含有量の違いだかで、この世界ではそういうことが出来るのだそうだ。


 ゆえに、この世界では冒険者が魔石や鉱石を持ち込み、それを錬金術師が利便性の高い素材に錬成、鍛冶屋が装備を作る、というシステムが出来上がっている……らしい。

 いや、俺は鍛冶も錬金も実践はさっぱりなので、全部冒険者の話で小耳にはさんだだけなのだが。


「うーん? 何か思ったのと違うな」


 店の中を覗いた俺は、つい首を傾げた。

 カウンターには誰もおらず、店にはただ値札もない商品が並べてあるだけ。

 ただ、その商品が微妙なのだ。


 俺の錬金術師のイメージだと、蜘蛛の巣や魔物の血なんかを混ぜて、怪しげな薬を作っている、という感じなのだが、その店にはそういったものはほとんどなかった。


 まあ、それもそのはず。

 ぶっちゃけるとそういった素材の役割は全て魔石が担ってくれる。

 蜘蛛の巣を取るより蜘蛛の魔石を集めた方が楽だし、魔物の血を取るよりも魔石を使った方がお手軽で効果も高い。


 代わりにあったのは、色んな種類のインゴットだ。

 ただ、鉛、錫、銅、青銅、鉄、鋼鉄、銀、真銀、金、真金と、話に聞いていた素材は一通りあるものの、ミスリルやオリハルコンといったものはそこに置かれてはいなかった。


 あんまり高価なものを飾っておくと盗まれるから、なのか、あるいはもともとが取り扱ってないのか。


 一番高価らしい真金が、ほんの拳大ほどにしか置かれていないのを見ると、望み薄かもしれない。

 俺は試しに「真金」と書かれた素材に手を触れてみる。


「……ん?」


 錬金術師は、素材に触れるとその錬成先が見える。

 真金に触れた瞬間、確かにミスリルやオリハルコンへの錬成が出来ることが分かった。

 けれど、その感覚がどうにも鈍い。


「あんまり純度が高くない……とか?」


 錬金術には詳しくないが、あまり腕のよくない錬金術師が錬成したものは、不純物が混じって質の悪いものになると聞いたことはある。


(だったらこの店は、あんまり期待出来ないな)


 店も何だか寂れていたし、ここの錬金術師は大した腕じゃないのだろう。

 そう思えば、ここにミスリルやオリハルコンがないことも納得出来る。


 王都にある錬金術工房はここだけじゃないだろうし、この店はもういいだろう。

 それに、素材さえ十分にあれば、俺が素材から作ってしまうことも出来る。


 俺が別の店を探そうと、出口に向かった時だった。


「……ん?」


 棚から落ちたのだろうか。

 足元に、真っ黒な何かが落ちているのが見えた。


「これも、鉱石……なのか?」


 そこにあったのは、黒っぽいよく分からない物体。

 一応鉱石っぽいが、ゲーム的に言うなら、鉱石というより「こうせき?」という感じの代物だった。


「まあ。とりあえず棚に戻しておいてやるか……えっ!」


 一応拾ってあげようと、触れてみた瞬間に、分かる。


 頭の中に映し出される広大な樹形図。

 しかも、予想される成果物の量が、とんでもなく多い。


「うそ、だろ……」


 冒険者の噂で、そんなものがある、というのは聞いていた。

 だが、そんなもの眉唾だと思ったし、それがこんな場所にあるなんて想像もしてなかった。


 だけど、この「黒い石」から感じられる素材としての力は、あの真金とは比べ物にならない。

 それにこの鉱石自体は、話に聞くどんな鉱物の特徴とも一致しない。


 間違いない。これは……。



「――賢者の石、だ」



久しぶりに典型的なろう小説っぽい展開を書いてる気がする



そろそろラストルーキーも更新したいんですが、「大丈夫、いざという時はラストルーキーの書き溜めが(一話だけ)残ってるから!」が心の支えなので、こっち詰まるかあっちの書き溜めが増えたら更新する予定です

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軽い出来心で作り始めたものの製作に二年半もかかり、おかげで小説書くのが遅れに遅れたといういわくつきのPC用フリーゲーム
NAROUファンタジー」(別サイトに飛びます)
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