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10.小さきものたちの力 事件編

なんかあーでもないこーでもないとやってたら書き溜めが少し増えました!

これなら明日の分も余裕!

強い!

(更新が途絶えた二日間から目を逸らしながら)


 本来、ライクルスの町はこの辺りの町の中では比較的大きいものの、ぶっちゃけ田舎だ。

 規模の割に高ランク冒険者が多く、そこから出る素材を目当てに職人は集まるようだが賑わってるとはお世辞にも言えない。


 しかし、一年に一度だけ、この町にもたくさんの人が集まり、まるで都会のように人で溢れかえる時期がある。

 それが――



「――《精霊祭》なんだよ!!」



 この精霊祭というのは、ほかならぬ俺たち、冒険者の祭典だ。

 ライクルスの町のほど近くにある「清浄の湖」に年に一回、大量の綿毛モンスター「ポコタン」が湧き、それを討伐するため、近隣中から冒険者が集まるそうだ。


 実際、今俺がいる冒険者ギルドも普段の閑散とした様子が嘘のように大勢の冒険者で場所が埋まっている。

 こんな光景は初めて見る。


 ほかにもう一点だけいつもと違うのは、例の黒い鎧。

 壁際にあったはずのあの鎧がギルドの真ん中に置かれ、「ご自由にお使いください」と札が立てられている。

 いや、盗まれると思うんだけど、いいんだろうか。


 しかし、何がめずらしいのか、結構な数の冒険者がその鎧に群がっている。

 中には剣を抜いて鎧を斬りつけようとするやべー奴まで出る始末。


 見慣れた顔はいないし、おそらくその大半は「出向組」なんて呼ばれる、精霊祭を目当てによそからやってきた冒険者たちだ。

 ちなみに……。


「いやー。最近金なくなってきたからさぁ。王都からここまでの旅費もバカになんなくて焦ったぜぇ!」


 なぜか、俺と一緒のテーブルを囲んでこうして勝手にくっちゃべってる冒険者も、そんな「出向組」の冒険者の一人らしい。

 というか、


「えっと、ペーターだっけ? 何でここにいんの?」

「ピーターだよ! いい加減覚えろよ!」

「いや、どうせすぐ別れる男の名前なんてどうでもいいし」


 俺が忌憚ないところを伝えると、ペ、あ、いや、ピーターはこれみよがしにため息をついた。


「はぁ。……仲間とここで待ち合わせしてんだよ。いいだろ。駆け出し冒険者同士、情報交換と行こうぜ」

「そう言われても、交換する情報なんてないしなぁ」


 この、ペーターだかポーターだかいう男に会ったのは偶然だった。


 調味料が切れたとイレスに頼まれ、商店街に向かったところで声をかけられたのが運の尽き。

 冒険者ギルドを探している、と言うので案内したら、あれよあれよという間にペースを握られ、ギルド内のテーブルでこうして話をする羽目になっていた。


「あーもー、じゃあいいよ。オレが一人で話してるからさぁ!」

「お前、どんだけさびしがりなんだよ」


 ただ、まあ、初対面が初対面だったせいか、気を使わずに気楽に話せる相手というのはいいものだ。


 それに、すぐに王都に戻っていく相手で、何かあってもあとくされがないというのもいい。

 遠慮なくずけずけとしてくる質問に対しても、雑にはぐらかしたり、適当な出まかせでお茶を濁したりしながら、俺はそれなりに楽しい時間を過ごしていた。


 ペーターはとにかくおしゃべりで、俺が何も言わなくても勝手に話が進むのも楽でいい。

 実際、この数十分で話があっちこっちに行ったあと、話題はふたたび精霊祭に戻ってきた。


「そうだ! どうせなら、精霊祭でどっちが活躍出来るか競争しようぜ」

「え? いやだけど」

「ノータイムで拒否するなよ! 流石に傷つくだろチキショー!」


 そう言われてもなぁ。


「俺もここには半年くらい前に来たばっかだから、精霊祭はよく知らないんだよ」

「マジかよ! 精霊祭はオレたちみたいな駆け出しにとっちゃ天国みたいなお祭りだぞ!」


 俺の態度が信じられなかったのか、ペーターはグッと身を乗り出してくる。

 暑苦しい。


「精霊祭で出てくるポコタンは、数千とも数万とも言われてる。流石に魔石の魔力も弱いから一個一個の価値は小さいけど、数を集めれば全部ギルドの方で買い取ってくれるからかなりの額になる。何よりポコタンってのは、ほかのモンスターと比べて、すっげえ……」

「弱い、んだろ、どうせ」

「なんだよ。分かってんじゃないか」


 と言ってくるが、うん、

 最近それとものすごく似た人工モンスターを見たからな。


「ポコタンは史上最弱と呼ばれるモンスターだ。綿毛みたいな外見で、ふわふわ浮いているんだけど、人が触るだけで死ぬ。それ以外にも木にぶつかっても強風が吹いてもほかのポコタンとぶつかっても一瞬で死ぬ」

「ほんとに弱いな!」


 先生のところで見たポコリンはその性質を忠実に受け継いだモンスターということだろうか。


「でも、何でそんなモンスターが大量に出ることになるんだろうな。モンスターって混沌の魔力で生まれる凶悪な生き物なんじゃないのか?」

「うーん。オレもよくわからねーけどさ。なんか、土地の『じじょーさよー』? とかいうのじゃないかって言われてるみたいだぞ」

「自浄作用?」

「あー、ほら、混沌の魔力が集まりすぎると土地が汚れるから、それを弱いモンスターとして吐き出して浄化する、みたいな」


 確かに、触っただけで死ぬモンスターなら人間に魔石化して引き取ってもらえるだろう。

 これが混沌の魔力の消費法だとすれば、なかなか頭がいい方法のように思える。

 いくらファンタジー世界とはいえ、土地にまで意識があるかは分からないが、これは案外うまいこと回っているシステムなのかもしれない。


「ま、まあ、仕組みはどうでもいいんだ。それよりも、これは一獲千金&大量レベルアップのチャンスだぜ」

「そうなのか?」

「ああ。それに、ポコタンの中でもレアなのを何とか倒すことが出来れば、今回の移動費用なんて一発で清算出来る」


 ポコタンにも種類があるのか。


「確か、ポコタンビッグとか、ミニポコタンとか、ポコタンベスとか、キングポコタンとか、とにかく色んな亜種モンスターがいるらしいぜ。けど、俺が狙うのはポコタンの中でも一番レアで、魔石の入手が難しい『メタルポコタン』だ」

「メタル……硬くて足が速いとか?」


 俺はあてずっぽうでそう言ってみるが、ペーターは首を振った。


「惜しいな。けど、ちょっと違う。メタルポコタンは綿毛モンスターなのに金属で出来てるんだ。だから……重い」

「ええと、足は遅い、ってことか? だったらそんなに倒すのは難しくは……」

「いや、空飛ぶモンスターなのに身体が重いから生まれた瞬間墜落して死ぬ」

「レアってレベルじゃないだろそれぇ!!」


 地面に落ちて死んだ直後にすかさず魔石化してしまわないとそのまま魔核ごと消えてしまうから、討伐難度がポコタンシリーズの中で一番だとか何とか。


「ま、オレがライクルスに来たのはそれだけが目的じゃないけどな。この町は今、ホットな話題で溢れてるから、さ。例えば……『炎の魔神』、とかな」

「へぇ。そんなのいるんだ」


 初めて聞いた言葉なのでさらっと流すと、ペーターはオーバーなリアクションで頭を抱えた。


「おいおいおい! お前ほんとにここの冒険者かよぉ! 王都でも噂になってるくらい有名な話だぜ!」

「……情報に疎くて悪かったな」


 こちとら目立たないようにぼっちプレイしてるんだよ。


「あーもー、しょうがねえなぁ!」となぜか嬉しそうに言いながら彼が説明してくれたところによると、「炎の魔神」というのはライクルスの近くに現れたと噂のモンスターで、その力は「伝説級」だとか「神話級」だとか言われているらしい。

 伝説だの神話だの言われてもよく分からないが、驚いたのは、この前ナナルさんに教えてもらったあの「炎の精霊王」を倒したモンスターだというのだ。


(ほ、ほんとにいたのか、炎の精霊王)


 てっきりデマかと思っていた精霊王が実在して、しかもそれが何者かによって倒されていた、なんて頭がついていかない。


 精霊王は火山に封印されていた、という話があったし、もしかすると俺が火山を吹っ飛ばしたことで、炎の精霊王の不在が確認出来たのかもしれない。


(ささやかながら、冒険者ギルドに貢献出来た、ってことでいいのかな)


 俺が自分の思わぬ善行に密かに満足していると、ペーターの話はいつのまにか別の話題に移っていた。


「あとは神器! 神器だよ! オレ、生神器見た時は感動しちゃってさぁ! そのあと英雄の試し、ってのも挑戦したけど、まったく歯が立たなくてさぁ、あー! いや、やっぱ英雄ってのはすげえ奴なんだなってあらためて――ってちゃんと聞いてんのかよ!」

「いや、聞いてないけど」

「こ、こいつ、もはや隠しすらしないとは……」


 そもそも「英雄の試し」もよく知らないし、なんて言うとまたうるさそうだ。

 確か、この町にある神器の剣を抜くとかそういう話だったっけか。


「やっぱり、ペーターも神器を装備して英雄に、みたいなことに憧れたりするのか?」

「ピーターな。……まあ、憧れないでもないけど、そりゃ無理だ。神器は扱うにも力量がいるからな。ふさわしい力がないと、まともに扱うどころか動かすことすら簡単じゃないらしいぜ。ほんの数メートル場所をズラすだけに、高レベル冒険者数人がかりでも数十分かかったとか」

「はー。やっぱりそういうのって現実にあるんだなぁ」


 選ばれしものにしか使えないとか、まるっきり選定の剣って感じだが、そういう話を聞くと本当にファンタジー世界に来たんだなと実感させられる。

 しかし、この話には続きがあったようだ。


 ペーターは周りの様子を窺うようにしてから、声を潜めてささやいた。


「だけどよ。ここだけの話、この町には一人とんでもない冒険者がいて、そいつは素手でその神器を折っちまったって話だぜ」

「えぇ。じゃあ今って神器は折れちゃってるのか?」


 と言ったら、なぜかペーターにバカでも見るような目で見られた。


「いやお前、どこ見てんだよ。ていうか、神器には再生能力があるってのは有名な話だろ。一晩で元通りになったって話だぜ」

「どっちも化け物だなぁ、それ」


 しかし、神器を素手で折るって、どんなシチュエーションと思考回路があればそんなことが起こりえるのか。

 そんな目立つ奴とはつくづくお近づきにはなりたくないもんだ。


 そうして話が一段落して、やっとペーターのおしゃべりが途切れたところで、


「お、仲間が来たかな」


 ギィィ、と音がして、ギルドの扉が開いた。

 やっと解放されるか、と俺が安心して振り向いて、思わず口から「げっ!」という言葉が漏れた。


 扉から入ってきたのは、金髪の気の強そうな少年と、禿頭のどこかくたびれたおっさん。

 ライクルス冒険者ギルドの誇る凸凹コンビ、新米冒険者のアルフレッドとおやっさんだった。


 まさか、ペーターの仲間ってのはあの二人か。

 これは面倒なことに……と思った時だった。


「おっそいじゃねえか、みんなぁ!」


 ペーターが笑顔を浮かべて、扉の前にいるアルフレッドたち……の奥から入ってきた三人組の若者たちに声をかけた。


「あ、リーダー! ちゃんとつけたんだ」

「リーダーが早いだけっしょ」

「ここがライクルスのギルドかぁ」


 三々五々、まとまりのない態度でペーターに言葉を返す三人。

 どうやら、おやっさんたちは俺と同じようにペーターの仲間たちをギルドに案内しただけだったらしい。


 しかし、このままだと流れで会話に巻き込まれる可能性もある。

 そうと決まったら、


「じゃ、俺は依頼があるから」

「あ、おい! 仲間たちに紹介……」


 後ろでペーターが騒ぐのも気にせず、俺はすかさず離脱。

 そそくさと依頼書を取って、いつものカウンターに並んだ。


「これ、お願いします」

「ふふ。珍しいですね。ヒューガさんがほかの方と話してるの、初めて見ました」


 依頼書を差し出すと、俺たちのことを楽しそうに眺めていたナナルさんが、微笑みながらそんなことを言ってくる。


「う、ぐ……。そ、そんなナナルさんは、こんなに冒険者が多いのに暇そうですね」

「こ、こっちは高難度依頼用の受付ですから! 精霊祭は専用受付があるので!」


「け、決してわたしが避けられてる訳では……決して!」と涙目になりながら言い出し始めるナナルさん。

 しばし、無言でにらみ合う。


「や、やめましょう。不毛です」

「……ですね」


 というか、さらっと流してしまったが、上級依頼用の窓口にこんな初級依頼を持ち込んでいいんだろうか。

 今日もいつもの火山草集めの依頼だし。


 ただ、ナナルさんは特に気にしていないのか、いつも通り手早く依頼の受諾手続きを進めてくれた。

 そこで、ふとナナルさんが俺を見ているのに気付いた。


「……あの。これは、本当はわたしから話してはいけないことなんですが、ヒューガさんに少し聞いてもらいたい話があって」

「えっ?」


 彼女は少しためらった様子を見せてから、小声で話し出した。


「この精霊祭を狙って、盗賊たちがこの町に潜入している、という情報があるんです」

「と、盗賊!?」


 あまりに縁のない言葉に、つい言葉をオウム返ししてしまう。


 この世界の盗賊は、なかなかに精強らしい。

 それというのも、物の真偽を確かめる魔法などがあるこの世界では、犯罪をした者が疑われればその時点でほぼ詰みだ。

 犯罪はおそらく元の世界などよりは少ないのだが、この世界であれば逃げる場所には事欠かない。


 モンスターの領域にいけば、人が訪れない場所なんていくらでもあるし、魔物を倒して魔石を得ることが出来れば、食料や水の問題はほとんど解決出来る。

 結果的に魔物の領域に逃げた犯罪者が冒険者も顔負けの強者になり、盗賊団を結成して暴れまわる、というのはめずらしいことではないらしい。


 そうして、そんな盗賊団の中でも特に強力なものの一つが……。


「盗賊団『夜の鷹』。盗みに殺人に放火、何でもやるそうですが、特に人身売買を得意とする悪辣な連中です」

「人身売買、ですか」

「人が不足している場所は、どこにだってあります。彼らは主に身寄りのない人間をさらって、魔法でその行動を縛って、他国で強制的に働かせるそうです」


 世紀末で、人的資源が不足している世界だからこその事情、という奴だろうか。


「あ、でも待ってください。精霊祭のタイミングで襲ってくる、ということは……」

「はい。彼らのターゲットは『新人冒険者』だと」


 まさか、わざわざ抵抗する力がある冒険者を、と思ったが、意外と理に適っているかもしれない。

 冒険者は係累がない人間は多く、特にそれが遠くからやってきた出向組であれば、なおさら発覚も遅れるだろう。

 そして、精霊祭に参加するような冒険者なら、モンスターの領域でもまれた盗賊たちには抵抗出来ない可能性が高い。


 手続きの終わった依頼書を俺に渡しながら、ナナルさんは最後にこんな忠告をくれた。


「ここだけの話、盗賊については結構確度が高い話らしくて、対策のために王都から特別に人員も配置されているそうです。だからヒューガさんも、くれぐれも気を付けて。それから、怪しい人影を見つけたら、すぐにギルドに報告してくださいね」



 ※ ※ ※



 その日の夕方のことだった。

 盗賊のことは気になったものの、仕事をしない訳にもいかない。


 俺はいつもの通りにレグナ火山に採取しに行ったのだが、やはり少しだけ、盗賊のことが気になっていつもより過敏に町の様子を見ていた。


 ただ、そのおかげで確かに町の様子がいつもと違うのはなんとなく分かった。


 精霊祭の本番、ポコタンの大量発生はまだ数日先のはずだが、町は明らかに人が多いし、なんとなく町全体が活気づいている。


 あ、それから、ギルドに置いてある例の黒い鎧。

 俺が前に突っ込んで壊してしまったアレだが、何か有名な鎧のレプリカだったらしいということも分かった。


「エイクリプスデザイン!」とデデーンと書かれたギルドのものと同じ鎧が防具屋の前にいくつも並べて置かれていたり、あの黒い鎧を小さくした小物が土産物として売っていたりしたのだ。

 何か有名な装備のレプリカなら、ギルドに飾ってあるのも、壊れてもすぐに同じものを用意出来るのも納得というものだ。


「というか、エイクリプスってどこかで聞いたような……。うーん、どこだったかな?」


 などと考えながら、採取した火山草を抱え、ちょうど町外れの商店街に差し掛かった時だった。



「――で、そこでアルフレッドの奴がさぁ」



 聞き覚えのある声と名前が耳に飛び込んできて、俺は思わずびくっと肩を跳ねさせ、反射的に物陰に隠れてしまった。


 そっと角から覗いてみると、昼間の冒険者、ペーターが三人の仲間と歩いているところだった。


「……あいつ、ほんとやかましい奴だな」


 少し覗いただけでその四人が和気藹々としているのが見て取れて、思わず笑みがこぼれてしまう。


 もし、俺が普通の冒険者だったら、あんな仲間が出来たんだろうか。

 また、自分の力に恨み言が漏れそうになるが、こうしてはいられない。


 ペーターに見つかってしまってはまた長話に付き合わされかねない。

 俺は大回りしてギルドに戻ろうとして、


「あ、あれ、は……」


 彼らの背後にいる、怪しい人影に気付いてしまった。

 ぶわっと汗が噴き出す。


(いやいやいや、嘘だろ)


 昼間聞いた話が、否応なく頭の中によみがえる。

 昨日の今日、なんてレベルじゃない。


(まさか、本当に盗賊……なのか?)


 自慢じゃないが、俺は生まれてこの方、盗賊になんて会ったことはない。

 単なる勘違いという可能性もある、と思ったのだが。


(でも、どう考えても、あれは……)


 角度的に、俺からは見えるがペーターたちからは見えないだろう位置に陣取った数人の男たちは、町の人間とは明らかにまとう空気が違った。

 多少身ぎれいにはしていても、内側から覗く暴力的な性質は全く隠しきれておらず、何より口元にたたえた下卑た笑みが彼らの本性を浮き彫りにしていた。


(い、今すぐ、ギルドに報告して……)


 ナナルさんの言葉が、脳裏によみがえる。

 冒険者ギルドも盗賊団は警戒していたみたいだし、今すぐに報告すれば、きっと対応してくれるだろう。


 そうすれば俺は目立たないし、きっとペーターたちにとっても一番いい。

 いい、はずだ。


 俺はペーターたちから無理矢理に視線を外し、重い足を動かして、ギルドへの道を進む。

 しかし、その足は、ほんの数歩で止まった。


 ペーターの笑顔が、あの無邪気な笑い声が、なぜか頭の中でリフレインする。

 俺はグッと拳を握りしめ、そして、そこでふと、大事なことを思い出した。



「――あ、そういえば塩、切れてるんだったよな」



 そうだ。

 俺はイレスからのお使いをすっかり忘れていた。


 今、商店街に行ってしまうと、もしかするとペーターたちと鉢合わせしまうかもしれないが、それは普通のことだ。

 仕方ない。


 俺は踵を返すと、商店街へ、ペーターたちの方へと向かう。

 なぜか、さっきまでは重かった足は、軽やかに動いた。

 同時に、パニック状態だった頭がやっと正常に動き出す。


 俺は少し大げさに考えすぎていたかもしれない。

 一番人の増える精霊祭の本番は今日じゃないし、あいつらもただ様子見に来ただけに違いない。


 そうと分かれば怖くない。

 俺はあからさまに盗賊たちに身をさらすように商店街でお使いを済ませる。


 案の定、盗賊たちに動きはない。


(思った通り、人通りが少ないったって、ここは町中。それに、盗賊たちだって無関係の奴がいたら簡単には動かないだろ)


 とはいえ、このままではペーターたちは商店街を通り過ぎて町の外に出てしまう。

 一応注意はしておいた方がいいだろう。


 今、この瞬間だけは「目立たない」は返上だ。

 あの男たちが変な気を起こさないよう、出来るだけ不自然にならないレベルの大声でペーターに声をかけようと決め、


「なぁ、ちょっと、ペ――」


 意を決して口を開いた時だった。




「――だ、誰だオマエたちは!!」




 俺の声は、さらに大きな声を出したペーターの仲間にさえぎられた。

 周りから聞こえる耳障りな笑い声に振り返ると、いつのまにか俺とペーターたちは、人相の悪い男たち数十人に囲まれていた。



「よぉ小僧ども、ご機嫌だなぁ。悪いがちょいと、オレたちと付き合ってもらうぜぇ」



 ……あれ?

 これもしかして、巻き込まれ、た?


大ピンチ()で引き



続きは本当に明日!!

もし投稿しなかったら木の下に埋めて貰っても構わないよ!

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軽い出来心で作り始めたものの製作に二年半もかかり、おかげで小説書くのが遅れに遅れたといういわくつきのPC用フリーゲーム
NAROUファンタジー」(別サイトに飛びます)
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